海岸で見たものという性格上、生物はほぼご遺体写真です。お許しください。
ちなみに写真 60 枚。お時間のある時にどうぞ。うふふ。
一年半ぶり、茨城県の先っちょ波崎海岸に行ってまいりました。以前の記事と重複する諸事情は今回は書きません。最後にリンクを張っておきますのでよろしければご覧ください。
というわけで波崎海岸どーん。今年はこの沖合で黒潮が大きく蛇行して、それが猛暑の原因とされています。南のものが流れ着いている公算が大きいんじゃないかな、なんて。オウムガイ拾いたいなあ。
太平洋ざざーん。
…… ざ?
いきなりエイのご遺体どどーん。
このあともう一匹ご対面しました。先週の豆台風の時の物かも知れません。ああ、これこそ海岸歩きでございます。
30 年前、海に近い鉾田ほこたの事業所に勤務しているときにこのハマ歩き、寄せ物観察を覚えました。参考書はこれ。
この石井 忠さんは、高校の先生をしながら福岡の海岸を歩き続け、そこの漂着物を記録し続けた方でした。その著作からは寄せ物(漂着物)にかける情熱と探求心がふつふつとたぎるのが伝わります。石井さんは文系の方で、場所も玄界灘。台湾やフィリピンほかの南島から流れ来る対馬海流に洗われ、中国や韓国の船が往来する海なので、漂着物にも政治的宣伝文の入った「海漂器」やら丸木舟やら、古代から近代までの遺物やら実に多彩で人間活動の産物が多いようです。だから「民俗学」と付くのでしょう。対して私が茨城の海岸で目にするのは漁船の備品や漁具、ゴミなど現地人の遺棄したもの以外は圧倒的に生物の関わるものでした。だから私は「博物学」と言わせていただきます。私が石井さんから学んだのは「記録すること」の重要さだと思ってます。
といううわけで寄せ物いっぱい波崎海岸。ボクには宝の山なのさ、わーいだ。
やっぱり大きさで目に付くのはゴミの類。現地の年配の人にとっては、海岸はゴミ捨て場です。十数年現地に居たからきっぱり言わせて頂きますが、この鹿島地区の古い住人の民度の低さにはよく驚かされました。何もなかった砂丘地帯に突如降ってわいた港湾建設・工業団地造成。見たこともないような額のカネが行き交って、すっかり人の心を壊し尽くしました。ここはオレの土地だと言って道路を封鎖し通行料を取るなんて行為もありました。そういう人たちもだいぶ高齢化したようですが、海岸で出会う老人にも悪い人相の人が多いので、普段は現地人とのコミュニケーションを大切にする私もこの地域でだけは遠慮しております。
ここらは船の備品や漁具でしょうか。最後の浮き球は樹脂製ですが、以前はガラス玉をロープでくくったビン玉というものが多かった。よく静物画のモチーフになるやつで、私も拾って帰ったことがあります。…… あれってどこに行ったのかな。
漁網を支持する浮きとロープ。これも漁具は漁具なのですが、もはやそうとも言い切れません。
マボヤや
オオアカフジツボ。エボシガイやムラサキイガイも付いてます。もはやこれは海にあって生物群集を支える環境だったんです。きっと小魚もいたと思うので漁礁かな。
漂着物が生物か無生物かは、実は曖昧です。私はこだわりません。重要なのはその情報です。それは何なのかという。
流木。これも元は生物体ですね。昔はこういうものを拾う人がいましたが、最近は見かけません。
オニグルミ(右)とトチノキの実。オニグルミは河原に普通ですがトチノキがあるのはかなりの山の上。どこの川を流れてきたものでしょうか。
マテバシイのどんぐり。むかし保育園児のためにどんぐりを拾ったことがありました。喜ばれたけど、あの子らももう大きくなったんだろなあ。
今日もありました。名も知らぬ島よりのココヤシ。
このココヤシも含めて多くの寄せ物が吹き寄せられていたのがここ、悪名高きヘッドランド。
川の上流にダムが作られて海に流れ込む土砂が減り、さらに鹿島港の巨大な堤防が砂の供給をさえぎって、海岸の浸食が問題になりました。そこで砂の移動を阻むために鹿島灘の海岸線に 34 基作られたのがこのヘッドランド。そしてそこは海難事故の名所となりました。周囲に強烈な離岸流が発生し、泳ぐ人をあっという間に沖に連れ去ります。毎年亡くなる人がおられます。恥ずかしながら私も若い頃危ない目に遭いました。くわばらくわばら。お話を戻しますね。
一面に赤い宝玉。アカフジツボが散リ敷かれてます。はて何が。
一本の竹が川を流れて海に出ました。やがてそこにフジツボの幼生が取りつきます。ぷかぷかと浮かぶ竹は居心地が良かったので、やがて多くのフジツボが住まう大団地になりました。
打ち上げられた海岸で、青空を見上げながら干からびていくフジツボたちは何を思ったか。ちなみにフジツボはエビやカニと同じ甲殻類です。
えーと、鏡餅。誰が何と言っても鏡餅。樹脂製のやつですよ。
川流れしたか誰か落ちたか。これ履いてた人はどうなったろう。ただのゴミか。
うわああ、オブジェだ、アートだ芸術だあ。こんな油画を見たことあるぞ。
エボシガイにムラサキイガイに三種のフジツボがかつて靴だったものを覆っています。こちらは多様性に満ちた賑やかな団地だったようです。
この砂浜に生きる者もあります。カニの巣穴がいっぱい。
このオオスズメバチ、まさかここから出てきたわけじゃないよね。なぜか昆虫にも海に引き寄せられる者がいて
今年大発生したツヤアオカメムシも相当数が転がってました。
驚いたのは、この過酷な海岸に生えるキノコがあること。調べたらスナジクズタケというものでした。菌類の適応力も侮れません。
貝類では前記事でも触れたトカシオリイレ。大きいのがたくさん。
読者の方に教えていただいたナミマガシワ。綺麗なのを一つだけ拾うことができました。
貝じゃないけどハスノカシパン。ウニの仲間です。
一個だけメノウも拾えました。
風の強い日です。南からの熱風です。目の前でみるみる風紋ができていきます。今日はこの秋最後の暑い日だとか。
これ前回の記事のもの。肩甲骨かなとか言った謎の骨。謎のままだったのですが、
このソウギョと思われる頭骨を見て
これ。アレはコレじゃないか。調べたらエラブタの骨で「主鰓蓋骨しゅさいがいこつ」というそうな。前回のがソウギョかどうかわかりませんが、コイ科の魚のものなのは間違いないと思います。骨格図鑑を調べまくってもわからなかったことが現場で判明しました。現場ってすごい。
これはボラ。
これは…… 疑似餌かあ。よくできてるなあ。
さてこれは何でしょう。青いビニール袋に見えますけど
砂に隠れているのも
おわかりでしょうか。クラゲです。猛毒クラゲ、カツオノエボシです。触手に触れると「刺胞」に刺されます。電気ショックのように強烈なので別名「電気クラゲ」。
触手の長さは 10 メートル。青袋しか目に見えなくても実は周囲に触手が広がっているので、裸足で近づいてはいけません。
いけないっつーのにー
ビニール袋みたいなのは浮き袋、気泡体と言います。中にあるのは空気ではなく、何と一酸化炭素や窒素ガス。青紫色なのは黒潮に紛れるため。黒潮は栄養塩類もプランクトンも少ないため青黒い色をしていて、このクラゲはそこに紛れてぷかぷかと本州の太平洋沿岸にやって来ます。
踏むと、パチーンとそれは景気の良い音を出して弾けます。触手も弾け飛ぶのでやっちゃだめよー。やるならしっかりした長靴でねー。
この漂着ゴミの中だけで 20 個くらい入ってました。わざと触れて来なかったけど、実は今回の海岸でいちばん目についた生物体かも知れません。
そして、カツオノエボシと共に打ち上げられた者がありました。
これ。同じ青紫色です。
ルリガイです。これはごく小さい個体でしたが
あとから大きいものも拾えました。
カツオノエボシと一緒に打ち上げられました。なんでわかるかって? 一緒に暮らしているからです。なんで一緒かって? カツオノエボシを食べてるからです。泡のようなのが付いているのわかりますか。粘液であぶくを作ってぷかぷか浮かび、隣に浮かぶカツオノエボシを襲って食べるんです。美しい殻は紙のように薄く、とても肉食生物には見えないたおやかさですが実は電気クラゲの天敵。ともに熱帯の海に生まれ、太陽にあぶられ、大波に煽られながら黒潮を旅する者同士です。
今日の第一目標はオウムガイでしたが、このルリガイはその裏目標でした。かなり以前に日立の海岸で見たきりだったんです。お持ち帰り決定。真っ赤なサンショウガイと並べたら綺麗だろうな、なんて。ただ問題が一つ。打ち上げられて日が浅く、まだ中に肉が残っていてかなり臭い。ぐええわしこの腐臭ってダメだあ。貝拾いが趣味の方々もこの中身の処理に苦労なさるようです。私はニオイに耐えてピンセットで抜くなんてできません。塩素系洗剤でなんとかなりそうですが、せっかくの色が漂白されては元も子もない。…… 植木鉢に入れて庭に埋めました。土壌生物に処理してもらいましょう。
青黒い黒潮に紛れて、青紫色の生き物たちの通る道があります。南洋に生まれ、食ったり食われたりの生を満喫しながら北へ北へと運ばれて、ある者は低温で、ある者は干からびて、すべて滅ぶ運命です。哀れと思うのは人の勝手、彼らはただ定めに従って一生懸命生きています。
空に見守られながら。
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