わんわんと鳴くセミの声。ねっとりとまとわりつく水蒸気に満ちた大気。吹き出す汗は午後の微睡も許してくれません。およそヒトが暮らすに不適な,その発祥の地から遠く遠く離れたアジア東端の島国の夏です。われわれの身体はこんな気候で快適に暮らせるようにはできておりません。
11月にこんな文章書いていると,文字というものの不思議さを感じずにはいられません。時間の流れからその「とき」が切り離されて存在し続けるのですから。
ま,夏になったら読み返してね。
というわけで,特に関東近県の方に絶好のひんやりポイントをご紹介いたします。栃木県宇都宮市大谷おおやの大谷資料館です。
関東では,家を囲む塀の石材としてポピュラーなのが大谷石おおやいし。旧帝国ホテルの建材としても有名ですが,さて皆さんのお宅の周囲にはありますか? いったい何県あたりまで目にできるものなのか知りませんが,とにかく茨城ではごく普通に塀に使われています。ただ東日本大震災では,心棒を入れない工法が災いして大谷石の塀ばかりことごとく崩れ,かなり評判を落としました。
とはいえ軽く,加工しやすく,耐火性に優れ,緑がかった地に不規則に入る「みそ」が木目のようなアクセントになった変化のある美しさ,いずれもただの凝灰岩から一線を画す石です。こういう美観と実力を兼ね備えたもの,私は好きです。
で,江戸時代から続くその地下採掘場が公開され,入坑できるようになっています。これが大谷資料館。
前置きが長くなりました。
周囲の風景からしてこう。いやがうえにも気持ちが盛り上がります。ちなみに大谷資料館HPには「敷地が広範囲のためカーナビに住所で入力すると迷子になりますのでご注意ください!」とあります。ふふふ。
駐車場は広く,係の人がきちんと誘導してくれます。茨城の観光地に最も見習ってほしいところ。袋田の滝とか。
古トラック,いいなあ。これも展示の一部だったと思うのですが,残念ながら今はもう置いてありません。
業務用の坑道入口。冷たい風が吹き出してきます。
冷たい風を受けて,イワタバコが咲いていました。
とにかく,いろいろな映画・CM・MVの撮影に利用されています。
階段を下りていくと,みるみる空気が変わってきます。
どーん!
HPにはコスプレ撮影禁止!とありました。やった人がいるのでしょうが,まあその気持ちわかります。異世界感がハンパありません。
外気温32℃,坑内気温14℃。一枚上着が必要です。
大谷石の正体は「グリーンタフ」,緑色凝灰岩と言われるものの一種です。新第三紀中新世という今から2300万年から500万年前の時代,日本列島の大部分が海中にあって火山活動がとてつもなく活発だったとき,軽石を含む火山灰が海中に大量に降り積もりました。これが固結したのがグリーンタフ,名前の通り緑色をしているのが特徴です。その中で今から1200万年前,この大谷付近に特異的に堆積した火山灰が大谷石のもとになりました。「みそ」の正体は植物片だとか。
ちなみにグリーンタフ。私物です。
ステージもあります。若い人がキメポーズ取ってました。
謎の石柱。
料金800円は,照明やら維持管理やらを考えれば適切だと思います。ごめんなさい偉そうに。
坑内の空気が外気と触れると霧が発生します。夏にだけ見られます。
そろそろおいとましましょうか。不思議なもので,この頃には外の熱気が懐かしくなってます。
観音様も大谷石。そばにお寺があって,そちらにはもっといわれのある観音様がおられます。
ガレージも大谷石。
どうやらつぶれたレジャー施設のようです。やっぱり大谷石。
いきなりですが戦場ヶ原。足を伸ばせば別の涼しい思いもできます。土日はいろは坂が混みますけど。
夏が恋しくなりました?