冷たい雨の降る土曜の夜でした。のっぴきならない所用で夜の街に車を乗り出しました。ヘッドライトに次々と,まるで深海魚のように夜の人々が浮かび上がり,車窓をただ通り抜けていきます。
水戸で一番の繁華街,大工町の裏道。客引きのお兄さんたちもあちこちのひさしの下に固まって,タバコを吸いながら所在なげに目を泳がせています。
ビニール傘を差したお姉さん。職場に向かうキャバ嬢かコンパニオンでしょうか。白とピンクの,太ももも露わにきらびやかな衣装。サンゴ礁の海に暮らすある種の生き物のようです。でもその華やかないでたちとは裏腹に,傘の下の顔は暗くうつむいたまま。目先の職場の憂いではなく,そのあとのことを考えているように見えました。早朝に帰ることになる狭い部屋にはどんな現実が待っているのでしょう。彼女にパチンコ代をせがむヒモ男? ひもじい思いで肩を寄せ合う幼い兄弟? 夜が明けてお姉さんの心に光は射すのでしょうか。
制服の男子中学生がいました。冷たい雨の中,傘もささずに。濡れそぼった学生服に包まれて,ただ下を見て歩いていました,こんな繁華街を。何があったのか。そもそも家はどこなのか。今向かっているのは家なのか。家族はどこにいるのか。この子にもまた,私なぞには想像もつかないような現実が待っているのでしょう。
こんな冷たい雨の夜は,出会う人みんなの幸せを祈らずにはいられません。
偽善者と言ってくださって結構。私はただ,人の痛みのわかる大人であり続けたい。体を鍛え,心を鍛え,誰かを救える人であり続けたいのです。