加波山。かばさん。 ……やはり名前で損してますよね,この山。
修験道では著名な聖地で,明治年間には自由民権運動の暴走である加波山事件の舞台となるなどそこそこ名前の出る山ではあるのですが…… 筑波山の並びにあってその亜流みたいな名前なのもよろしくない。
そんな地味な印象もあって,山頂部にはブナ林もあるというこの709メートルの山に私は未登頂でありました。今回,故あって初トライです。さて。
加波山神社の駐車場に車を停め,神さまに今日の無事を祈ってから出発です。
右のピークが加波山で,左は燕山。ね?山姿も地味でしょ? 登りたい!って思わせる山じゃないでしょ? 加波山のほうが少し高いのですがそうは見えないし。実際これだけ山ブームだというのに,日曜日の今日でも他の登山者がいません。
駐車場を使わせていただいた加波山神社。おお,ご立派。拝殿わきに備えてあった地図がとても役に立ちました。ありがとうございます。
さてしかしこの地図,気になる一言が。「加波山神社の名を不正に使う神社が近くに在ります 注意してください」 …… おいおい。
神社の 公式っぽいの
確かに公式の地図には,すぐそばの「加波山神社本宮」が記載してあります。まあ大体のとこは理解しました。本家とか宗家とか,八つ橋じゃあないんだから。税金が安くなるからと家の間口を狭くするような街の連中ならともかく,神さまをお祭りする者がよくないよな,こういうの。おそらく,不人気の原因もこれでしょう。これだけパワースポットブームだというのに,同名の神社が複数あって,神職同士がいがみ合っているなんてとこ誰も有難いとは思いません。
と苦言を呈してさて出発。5合目までは舗装路,さらにその3合目以上は直登一直線の急角度コンクリート道。この筑波山塊は巨大な花崗岩・石英斑岩のかたまりで,いたるところに採石場があります。これはその搬出路。花崗岩を積んだトラックがガーっと降りてくるわけですか。日曜日でよかった。
太陽照り付けるこの直登路,意外にも生物が色々と。
テングチョウ。いっぱいいて,路上で吸水してました。
あらびっくりウラミスジシジミ。「ゼフィルスの卵 - ジノ。」もよろしく。
わあ,ニガイチゴ。美味。とても美味。
種子をかみつぶすと苦いのでこの名がありますが,野生のキイチゴ類では上等の味です。おいし。
落ちてる。こんなに。ああもったいない。
ニワトコの,実……? ふつう赤いよな。調べてみたら「キミノニワトコ」という変種でした。初めて見た。
5合目からようやく森に入ります。
しまった。ナガバノスミレサイシンがあったのに写真を撮り忘れた。
サンショウウオ谷。サンショウウオがいるからサンショウウオ谷。いえ,人様のネーミングセンスにケチ付ける気はありません。ただ,希少なサンショウウオが生息するのですからあえてこんなに公言しない方が種の保護になるのでは,と申し上げたいわけで。
いました。ツクバハコネサンショウウオです。2013年に遺伝子解析の結果として他のハコネサンショウウオから新種として分離されました。そりゃ隔離された産地だから遺伝子が特化してるのも当然でしょう。最近の分類学者が,大学の廊下に並んでいる遺伝子解析装置をちょちょいと使って「新種発見」をするのを私は少し情けなく思ってます。科学のいろいろな分野でフィールドを軽視する人が増えているのも残念です。かの下村 脩先生は,純粋な好奇心からオワンクラゲを自分で数十万匹採集し蛍光タンパク質の研究をなさったそうですが,いまの分類学者がさてどれほどフィールドに出ていることか。
なんて考えている間に山頂が近づきました。はい第一の「加波山神社」。
岩場をすり抜けて……
第二の「加波山神社」。これが山頂のようです。他にも「加波山神社」があるようですがもういらん。それ以外の社も次々に現れて。たばこ神社とか。もう好きにしてください。
ネジキが咲いてました。
ブナの大木。立派なブナ林に見えますが,実は幼木がほとんど育っていないことが問題になってます。
感心したのはこの奇岩群。この加波山の稜線には,いかにも神さまが寄り付きそうな立派な磐座いわくらが並んでいます。いずれもほれぼれするような花崗岩の大岩。
大岩をたっぷり堪能して下山です。帰りは森の中を一直線に下降します。
アズマヒキガエルにじっと見られてました。何を急ぐのだ人間よ,とか。
ハンミョウ。
ニホントカゲ。最近減ってます。
今日もよく晴れました。ハンググライダーの名所でもある筑波山塊。上手な人は,筑波山の上の上昇気流を捕まえて1000メートルを超えていくのだとか。こういうのもステキですね。
今日の山行は,実は下見でした。来月初め,いつもの生物仲間の集まりで,加波山の生物観察をすることになったのです。私が世話役兼案内役の,本当に気安い仲間たちです。老若男女の人材豊富なのが自慢の生物屋の集団。強制はないのですがいつも数十人が来てくれます。その中の若い人から加波山を見てみたいというリクエストがありました。なるほどわしも見てみたい,と採用したのですが自分も行ったことがなく,今日の下見となりました。もちろん何のお手当てもつかないボランティアで,日曜日をつぶすことにもなりましたが苦ではありません。
集団でぞろぞろ行動したがる人間をむしろ憐れむ私です。蟻かレミングかお前らはと。こんな奴なんですよ,私は。 …… でもそんな私を信じて,山歩きに付き合ってくれる人たちがいる。生き物を共に見てくれる仲間がいる。大切に大切にしたい仲間たちです。