今日は研修。生物仲間と東大の柏キャンパスに行って講義を聞いてきました。
面白かったのはこの先生。
大気海洋研究所とやらに所属。たまにテレビにも出ているそうです。ウミガメの背中にビデオカメラを付けてウミガメビューの動画を撮るという,ものすごく面白い研究をしている方です。お話も上手で,東大にもこんなオリジナリティのある研究者がいたんだと感心したら,学部は京都大の水産学部だったとか。
いえいえ,おかしな先入観はいけません。確かに東大の先生には諸悪の根源としか言いようのない方々もおられます。しかしこの研究所のパンフレットを拝見したら,写っている東大のフィールド系の先生たちが皆とてもいい笑顔なのに驚きます。私が野で出会う方々と同じ顔。フィールドに求めるものがある研究者独特の,一種の幸福感に満ちたお顔です。この一点だけでも,理系のフィールド屋ほどステキな商売はないと思う。
さて,こんなところに東大があったんだという驚きの柏キャンパスを後にして,隣の野田市にある「こうのとりの里」に向かいます。こんなところにコウノトリがいるんだ,とまた驚きです。どうしても私の世代にはアレは絶滅したものというイメージがあるので。
着いて早々,4羽がまとまって田んぼにいました。これがここにいるコウノトリのすべてです。そのうちエサ取りに歩きだす者が。
絶滅,という頭があるものですから,それが目の前をのっそりのっそり歩いているのはいささか現実離れした光景です。
こんな大物にもカラスはちょっかいを出すのですが,すぐに追っ払われました。直後には羽毛を逆立てて興奮気味。
おお,電柱の上にコウノトリ。絵に描いたような。
掛け軸によくある松の木の上にツルが乗っている画題は,じつはコウノトリを誤認したもの。ツルは木の上に止まったりしません。
兄弟,ということでした,この2羽。
アオサギ先輩,あえて近づきます。ふだん水辺で無敵の先輩ですが,コウノトリ大先輩の前では劣勢。コウノトリはデカいだけではなくかなり攻撃的で,この大きなクチバシで恐怖の打突攻撃を仕掛けてきます。私,動物園のコウノトリに金網越しに連続打突をかけられてかなりビビった覚えがあります。実際にオス同士の争いでこれを使い,相手を死に至らしめることもあるとか。この大きさとこのリーチは脅威です。
余裕たっぷり,大先輩。
保護施設では飼育係の方のお話も聞けて,まあ有意義な見学となりました。
大きな鳥ですねえ。
鳥って恐竜だよね。特にウロコに囲まれたあの無表情な目。どうしても私が鳥を好きになれない部分です。
それにしても千葉にコウノトリ? なんの脈絡もないでしょ。福井県武生市とか兵庫県豊岡市とか,最後の野生群がいた場所ならともかく。
ここでいうコウノトリは,西洋で赤ちゃんを運んでくるというアレとは別種の,東アジアのコウノトリです。中国からロシア沿海州にかけての広い地域に分布し,渡りをするものしないもの,越冬地に居ついて繁殖するものなど,決して固定されていません。しかし日本本土に留まり繁殖していた個体群は,1971年に最後の一羽が保護のために捕獲されて野生絶滅し,飼育されていた個体も死に絶えました。いま日本で飼育あるいは放鳥されているもの,多くの人々がその保護に取り組んでいるものは,中国から導入されたコウノトリです。ホタルやメダカで同じことをやったらどうなるでしょう。今どきなら間違いなく非難されます。それ日本のDNA持ってないじゃん,と。
わざわざニホンコウノトリと表記してありました。こんな正式和名ありません。大陸にいるのも日本本土にいたのも,種類としては同一の「コウノトリ」。もし日本本土にいた地域個体群をあえて勝手に「ニホン」と呼ぶにしても,もう絶滅してます。いま日本の空を飛んでいる100羽はすべて大陸から来たものとその子孫,それをニホンと呼びますか。今でも自然に大陸から日本に渡ってくる個体があるそうなので,それをニホンコウノトリ,それなら大陸のもニホンだろう,という強弁ですか。何か,オレの国の大陸棚にあるものはすべてオレのものと言い張る某愚国を思わせます。こんな一事で,本来はとても純粋で意味のあるこの事業全体がうさん臭く見えてしまいます。
誤解なさいませんように。今現在日本全国で行われているコウノトリの保護・増殖事業にケチをつけているわけではありません。「外来のコウノトリでも定着して繁殖を継続できるような,かつての豊かで安全な水辺の自然環境を再生させよう」という意味合いなら,大いに共感できます。環境改変,水銀汚染,狩猟などの人的要因が複合的に作用して絶滅したコウノトリ。そのコウノトリがまた住める環境を作り出そうというのは,近視眼的になりがちな自然保護運動の中では随分と視野の広い,深い取り組みを必要とする事業です。事業そのものの象徴としても,コウノトリは適任です。ただそのコウノトリの位置づけや一般への説明については,生物学的に厳密にやっていただきたいと。生物屋に違和感を持たれるようではその成否は微妙です。
今回のタイトル,「ウルトラQ」の一篇のパロディのつもりだったのですが,これまた微妙でしたね。元ネタ誰も知らないって。