それは2002年の夏。突然降りかかってきました。
「高校生を尾瀬まで連れて行ってくれませんか?」
ええええっ
湿原の花
あらましはこうです。ある高校の先生が,高校の生物部の生徒たちを尾瀬に連れていく計画を立てました。その方は山はど素人,でも情熱だけで突っ走るタイプでした。ぜひとも高校生に尾瀬の自然を見せたい! いやいやその方も行ったことはありません。そこで実際の行動計画は山岳部の顧問の先生に委ねられました。これがまた問題だったのですが。
アカモノ
さて山小屋の予約も済み,茨城からだと乗り換えが多くとても行程が複雑な鉄道の切符も購入して,あとは行くだけという段階になって,この先生,自分が別用で引率できないことに気付きました。
アザミの類
おいおいおいおい。
イワシャジン
で,私にお鉢が回ってきたと。
イワショウブ
ここでとにかく声を大にして言っておきたい。心の底から言いたい。
ウメバチソウ
わかってます。尾瀬の管理は入山者が落とす様々なおカネで成り立っていることを。だからミーハーおばちゃんとかイキがりジイさんが行くことは制限しません。せいぜいわーここが尾瀬よーキレイねーちょっとナカムラさんお花摘んじゃダメよえーだってせっかく来たんだしーさあみんな写真撮るよーうわあ木道から落ちちゃったぜおい花踏んでるぞ仕方ねえなあとかやってください。でもナチュラリストは,少なくとも自然のシステムを理解していて,単独行を好み,尾瀬の自然を守りたいという心を持っている人なら,行ってはいけません。人が行くことで尾瀬の自然が汚れるのだから。
オオカメノキ
大型動物である人間一人が動き回り,食事し,排泄し,休息する。それだけでどれほどのエネルギーと物質が動くことになるか。自然に対してどれほどのストレスになるか。いくらヘリコプターまで使って出たモノを運び出しているとはいえ,影響はあるのです。だから,少なくともナチュラリストは,心すべきと思うのです。いえ強制はしません。ただ私は,生涯尾瀬には行かないと心に誓っていたのです。
オオバスノキ
それがこの騒ぎだよ。なんやかんやで,あっさりこの誓いはホゴにされることとなりました。
オゼコウホネ
山岳部の先生が立てた計画がまた無茶で,初日に鳩待から山ノ鼻に入り宿泊,翌日は至仏山に登頂したあと尾瀬ヶ原を縦断して温泉地区の山小屋へ。最終日は4時起きで御池まで直行してバスに乗るという山岳部的強行軍。女子までいる山ど素人の高校生集団なのに。
オゼヌマアザミ
そんなわけで行ってきたのですが,初日は台風の接近もあって天気の不安があり(それでも降らなかったのは我が神通力),以後もトラブル続きでやっぱり楽しかったとは言いづらい山行となりました。季節も8月後半の,尾瀬の花を見るには微妙な時期だったし。
オゼミズギク
でもとにかく花々の写真は撮りまくりました。当時の旧式カメラとヘタクソな腕前ですが,こうして記録を残せたことは,まあよかったなと。ここをダムに沈めようとしていた某電力会社がとうとう水利権を放棄したとはいえ,尾瀬がこのままあり続ける保証はないのだから。偉そうに誓いとか言いましたけど,やっぱり行って良かったな,と正直に申し上げます。
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ゴマギ
ゴマナ
ジャコウソウ
ソバナ
タカネオトギリ
タケシマラン
チョウジギク
ツルリンドウ
トモエシオガマ
こんな看板があっても
人の言うこと聞かないひとはいるものです
トモエソウ
マルバダケブキ
ミツガシワ
ヤマトリカブト
燧ケ岳 これ有名な木なんだって。
尾瀬ヶ原全景
はるかな尾瀬。遠い遠い山のかなたに,それはまるで夢の異世界のように,霧に隠された禁断の桃源郷のように,私の胸の内にあり続けるでしょう。