今日も石拾いに出かけようとしたら,雪。水戸の初雪でした。
すぐ止んで陽も出たのですが,出かけたところで山も河原もぐちゃぐちゃでしょう。ものすごい北風で,体感温度は私の生存を許さないレベルです。フィールドは諦めます。ああ,冬はイヤだ。
せめて春の息吹をお写真で,と古いフォルダを覗いていたら,2008年に春浅い高萩たかはぎ山中の森をさまよった記録が出てきました。当時はまだ日立市内に勤めがあって,県北の山を踏破しまくっていた頃です。今日はこの時の写真で皆様のご機嫌をうかがおうかと。
春の夏緑樹林。甘やかな木々の香りと鳥のさえずりに満ちて。
いきなりアケボノスミレをいじり倒してます。おおオマエ元気だったかと。現地の標高500メートル。ここまで来ないと出会えない高貴なスミレです。というかもうこの頃はスミレが好きだったんだ,わし。
山家に隠れ住む姫君,と以前ご紹介したエイザンスミレ。絹のような白いお肌と細い指先のような葉は健在です。
湿った谷の底,ニリンソウの大群落。水戸近郊でも神社の林床を埋め尽くして咲いていたりします。そういえば,東京23区のどこだかの「区の花」がニリンソウだと聞いて驚いたことが。今でもあるんでしょうか,東京に。
↑ 水戸市郊外にて
スミレじゃないけどミヤマハコベ。清楚な姿がいいですね。人の世のファッションも一周回るとこんなプレーンなものが流行ります。
なんというか,写真を見るだけで春の夏緑樹林を歩く幸せ,長い冬を乗り越えた開放感がよみがえります。
ツルカノコソウ。こう見えてオミナエシの仲間。
マルバスミレ。こんなふうによく群生しています。
春の森と言ったらやはり。タチツボスミレは日本の風土に特化した,まさに「日本のスミレ」です。この薄紫の群生を見ないと春になった気がしません。
森を歩くと,たまに動物の骨に出くわします。これは歯も眼窩もないので動物の見当が付きませんが,ここで土に還ったのでしょう。死は生の始まりです。
陽が傾きさあ帰ろうかという刻限,急に芳香が漂い始めました。まるで花神が私のそばを駆け過ぎて行ったような,そんなタイミングです。春の山でこれまで嗅いだことのない,甘く華やかな独特の香り。それが急に。何だろう,どこだろう。
… ニリンソウだ。
午後の日差しを浴びたニリンソウたちが,一斉に香りを放ち始めたんです。受粉のために虫を呼ぶのか,それとも春の陽に歓喜の声を上げているのか。いずれにせよこんな話,聞いたことがありません。ニリンソウの群落を歩くことはこれまで何度もありましたが,この花に香りがあると感じたことは一度もありません。ニリンソウは,とっときの,ここぞという瞬間にだけ,この秘密兵器を使うのです。少女が意中の人の前でとびきりの笑顔を見せるように。
知り尽くしたはずの地元の,自分の一部と思っていた自然の中にも,私の知らない秘密がまだまだ隠されてます。今でも驚かされ我が無知を反省させられることがあります。でもそれはナチュラリストの喜びでもあるんです。
この日最後の写真は,何を思ったのか当時の愛車と記念撮影。見たことないクルマでしょ? いすゞビークロス。十数台しか作られなかったというマゼンタ色。これまで乗った中で一番楽しかった車です。こいつの話はまたいずれ。