質問です。最も高温に強い動物は何でしょう。
答 人間です。
「強い」をどう解釈するかにもよるけど。
暑いとき,多くの哺乳類はどうするか。例えばアフリカの昼下がり。百獣の王ライオンが木陰でゴロゴロと寝ています。これが哺乳類としての正しい反応。そう暑いと眠くなるんです。体温は外気から維持できるので,動いて熱を作る必要もなし。むしろ動くことで発生する排熱を処理できない。エネルギーも浪費する。寝ればエネルギーの損耗を防ぐことになります。そこで「副交感神経」が作用して眠くなる,と。
ところが,百獣の王がグースカ寝ているその先を,槍を持ったマサイ族のおっさんたちがえっほえっほと走っていくわけです。アツいぜマサイ族! まあ何が楽しゅうて。私から見れば夏の炎天下に野球やサッカーをやっているのも同類です。いえ非難するのでなく,つまり人間にはそれができてしまうということ。人間だけが,体温を超える炎天下でも活動できてしまうんです。
さあその秘密が「エクリン汗腺」!…… なんだか健康食品のTV通販みたいだけど続けるぜ。
8×4 様のHPより
哺乳類の汗腺は通常「アポクリン汗腺」で,これはつまり「ニオイ」を作るための汗腺。そうです人間にはワキの下や足指にあるヤツです。その効果はご存じの通り。これでも他の動物と比べればかなり機能は抑えられているんですよ。そしてもう一つがエクリン汗腺で,驚くべしこれは人間にしかありません。全身の体表にあって,90%が水である血漿成分を排出します。導管から体表に出された汗は蒸発するさいに1ccあたり2キロジュール,だいたい7グラムの氷を溶かすほどの蒸発熱を奪っていきます。
えーわかりやすく言うと,人間は体表から出る水を蒸発させることで積極的に体を冷やすという,全動物中で唯一の能力を持っている。だから炎天下でも活動できるということです。わかりやすく言えたかな。
イヤほんとにこれ,声帯とか前頭葉とかと同様,神さまがヒトだけにくれた機能です。不思議だなあ。恒温動物であることを加えて,人間は夏でも冬でもものすごく幅広い温度帯で活動できちゃうのである。
もちろんこれは良し悪しです。なぜなら「快適」に活動できるわけではないから。
夏の夜,暑くて汗が出て眠れないのはなぜ? それは発汗を促進するのが体を興奮状態にする「交感神経」だから。他の動物なら「副交感神経」が働いてぐっすり眠れるのに。
なにより我々は,この能力のために夏の日中にも活動を強いられることになってしまいました。汗だくになって。ライオンでさえ寝てるのに。せめて水は補給しなければならないのに,昔の運動部なんて練習中水を飲むと怒られたりしたよなあ。
そしてもっと問題なのが,この能力が東アフリカの乾燥地帯の環境を前提にしていること。汗がすぐ乾く故郷では有効だったけど,遠く離れた東アジアのモンスーン地帯の高温多湿の夏にはあまり役に立たない。汗が蒸発しない環境ってのは,人間の生息環境ではありません。ましてや活動するなどとは。
ああようやく結論にたどり着いた。要するに,生物の研修で一日炎天下を歩くことになったことを愚痴りたかっただけなんです。
というわけでここは県南,霞ケ浦のほとりの湿地帯。ご覧の通り,陽光を遮るものはありません。湿地帯だから湿度MAX,汗なんか乾くワケない。
ここを中心に日がな一日生物観察をするとやら。なぜここを,という問いに実習係いわく「下見の時は気持ちよかったんですう」。ああ,私もやらかしたことがあります。5~6月のころは太陽も風も気持ちいいんです。それで夏の計画しちゃうんです。
ぐわあああ,暑い。言うても詮無いけど暑い。
昆虫だって木陰で休む。チャバネセセリ。
暑さで死んだとは思いたくないけど,魚類がいくつも浮かんでました。ゲンゴロウブナ。
1メートルになんなんとするハクレン。利根川から迷い込んだか。この眼の付き方がたまらん。おマエ,スターウォーズに出てたよな。
ボラ。
植物ではエゾミソハギ。構図を考える余裕もなくシャッター切ってます。
寄生植物ナンバンギセル。
ヌマトラノオ。ああ頭が朦朧としてきた。
ほかにもカメの卵とかいろいろあったけど,カメラ向ける元気もなかったぜ。
午後の日も傾いたころ,堤防の上を進んでいると黒い甲虫がぶーんと。網で捕まえてうわあと叫んだのは,それが毒虫・マメハンミョウだったから。
猛毒のカンタリジンを生成し,捕まえると関節から分泌してきます。肌に付けば痛みと水膨れのヤケド様の症状に。食べれば内臓に障害が出ます。4匹分くらいからヒトの致死量になります。よく時代劇で若君の暗殺に使われるやつ。
幼虫はイナゴなどバッタ類の卵を食べます。農薬の影響でイナゴが減少した時にはこの虫も数を減らしましたが,イナゴとともに復活。成虫はよく群生して葉っぱを食べています。畑で大豆を食害して問題になるのですが,こだわりはないようで今日はムラサキツメクサを食いまくっています。暑いのにたいした食欲。体が小さいと,放熱も効率がいいんでしょう。東アジアの特産で,ここらの気候の元で生まれた生物です。酷暑も身の内。元気に食って飛び回って夏を謳歌しています。自分が毒持ちと知っているので,人間に覗き込まれても無視。複眼の端っこでぐったりと疲れ切った我々を見て,なにを思ったことか。
いやさすがに,マメハンミョウになりたいとは思いませんでしたよ。