昨年の記事(真っ赤な秋のカラスウリ - ジノ。)で,カラスウリの花の写真が無い,来年撮ってここに貼り付けます,なんて書いたことを思い出した。いけねえ,約束は守らねば。
まずは明るいうちにロケハン。昨年トリカブトの写真を撮ったあたりがいちばん家から近いかな。
夕方6時ではまだつぼみ。宵闇に咲く幽界の花です。
なんかヤバそうなのがいた。いかにも夜に蠢きます,みたいな。気を付けよう。
暗くなって出直すと,はい咲いてました。夏のころから咲いているので,早いのはもう実になってます。
カラスウリは雌雄異株。これは雄花。開きかけなのか雄花はこんなものなのか。
こちらは雌花。3つの柱頭が見えます。でも見かけ上の大きな特徴はこのレースのような花弁。こんなキテレツな形質,きっと意味があるはずですが私にはよくわからない。なぜこんな。
ツユムシが来ていた。花びらを食べているように見えるのですが…?
顔を覗かせているのはムカデ。花に来る虫を狙っているように見えます。確かに肉食だけど,待ち伏せなんて高度な芸当ができるのだろうか。私が多足類をナメてるだけか。それをマイマイが覗いているのもまた一興。
妖艶な姿でスズメガを誘います。口吻こうふんの長いスズメガしかこの花筒の奥にある蜜にありつけません。
海生の棘皮動物でクモヒトデの仲間「テヅルモヅル」ってご存知ですか。5本の腕がさながらフラクタルのように分岐していて,それを漆黒の深海で大きく広げてエサを捕えます。実はこの花を見るたびにその姿を思い出すのです。何か妙な類似性があります。類似するには必ず訳があるはずです。
テヅルモヅルの写真は持っていないので,そのスジでは有名なエルンスト・ヘッケルのスケッチを。ヘッケルは生物学者・医師・哲学者・生物画家・ヴァンパイアハンター笑として知られる人で,反復説を提唱した,系統樹を初めて作った,生態系という言葉を初めて使った,などなど功績あふれるスゴいひとです。神秘絵画とみなされる数々の図版はネットで見られますので,ぜひ。
カラスウリの花の寿命は数時間。夜のとばりの中で,人知れず咲き,人知れずしぼみます。知らない人は,きっと一生この不思議の花を見ずに終わるのでしょう。
しぼむときは普通きゅっと花弁を収納するのですが,この雄花は雨にでも打たれたのでしょうか,そのままの姿で朽ちていました。昼の世界に置き去られ,晒されているようです。
近縁にキカラスウリというのがあって,茨城では暖かい海岸沿いに分布しています。名の通り実が黄色い。「日本栝樓にほんかろう」の名で薬になります。でもカラスウリの方にはあまり薬効はありません。食用には,若い実は食えるという話もありますが絶対に不味い。いいとこありませんカラスウリ。でも私には,少なくとも私には,秋の赤い実だけで十分に存在意義があるのです。