夜半まで暴風雨。水戸の那珂川沿いは大洪水になりました。
飛び交う救助のヘリコプター,これは自衛隊のUH-60。そういえば30年前の洪水では今は退役したV-107「バートル」が大活躍してましたっけ。
田野川と那珂川の合流部。
「田野川」は通常は幅4メートルくらいの,谷津田の湧き水から田んぼの用水路を経る,何ということのない長さ数キロの小河川です。水がきれいでゲンジボタルが生息しています。秋にはサケが産卵に来ます。
それがこんなことになろうとは。あのわずかな流域面積で,よくこんなに水が出たもんだと。
市道の橋を渡ったところで道が水没。係の人が二人,バリケードを突破してくるバ… いや車を引き返させてました。ところが。
軽のワンボックスが制止を振り切って水に突入! たちまち立ち往生して,運転していたジイさんが先の係の人に引っ張り出された直後に車は横転し,あっという間に濁流の中に。
台風のたびに用水路見に行って流される人っているけど,つまりはこんな感じの方々なんだなと納得。聞けばこのジイさん,どう見ても90歳越えてますが,わざわざ大洗から洪水見物に来てこの騒ぎを引き起こしたようです。ああ,人間ほど面白い生き物はない。
悪草セイタカアワダチソウも水の中。福島の津波の被災地の田んぼは,いま一面にこの黄色い花が揺れてます。ここがそうなりませんように。
草むらの花々は,冠水しなかったものは何事もなく咲いています。そこにチョウたちが群れています。昨夜の雨風をどこでやり過ごしたのやら。
キチョウ。
モンシロチョウ。地味なセンダングサの花もチョウたちには人気です。
チョウたちもまた何事もなかったように日常を繰り返してます。命以外に失うものがない強みですねえ。
ドングリがたくさん落ちました。
街路樹,ひどく虫に食い散らかされていますが,その街路樹のカエデからは
ヒロヘリアオイラガが叩き落されてました。哀れとは思うけど,我が家の庭木の仇敵なので助けないよーだ。
大きく台地上を迂回して,その田野川の中流域…… といっても先ほどの地点から直線で1キロ程度なのですが,田んぼが広がる谷にやって来ました。田野川流域は,実は私の中学時代からのフィールドなんです。それがこんなことに。稲の収穫のあとだったのがせめてもの幸いか。
このあたりの川幅は2メートル程度…… だったと思うのですが,もう何が何だか。
かつてホタル観察に来た時の,少し上流の様子。前述のように,ここはゲンジボタルの生息地でした。この季節は若齢幼虫で,川底でカワニナを食べていたはずです。ああ,無事だとは思えない。
周囲の草むらにいた虫たちも,暴風雨の暗闇を右往左往するうちに次々と水に呑まれてしまった事でしょう。水没を免れた土手の草間に,生き延びた幸運なものたちが潜んでいます。
ハネナガイナゴに
ツチイナゴ。
エノコログサの穂にハサミムシ。
カメムシやらクモやら。本当に,生き残れたのは幸運です。
ラッキーな子どもを産んでね。
たぶん最大水位の時にぎりぎり水上にあったガードレールにハエトリグモ。
そのガードレールになんか付いてる…… と思って近づいたら
アリだあ。我が家でおなじみアミメアリ。
アリは石垣アリは城。アミメアリは固定の巣を持ちません。女王も持ちません。ぞろぞろとさすらいながら,気に入った場所で集合して塊になり,働きアリの一部が産卵してみんなで子育てします。オスはいません。女だけのさすらい生活。今回の洪水,巣のあるアリと巣のないアリ,どちらに分があったのでしょうか。
なんかアリに馴染まれている虫がいました。アリの巣に居候する昆虫が知られていますが,さすらいのアミメアリに付き従うのもいるのでしょうか。ゴキブリっぽいですが尾角の形がちょっと違うような。
そのガードレールを見ていたら,1匹のハラビロカマキリがいました。丸く張った大きなおなか。身重のメスです。
カメラを向けていたら飛びついてきました。てっきり攻撃かと思いきや,なんか様子が違います。カメラから私の腕に飛び移り,そのまま必死の形相で腕を這い上ってきます。私を自分よりはるかに巨大な動物と認識できているはず,危険なはずです。それでも登ってくる。
それで理解しました。このメスは昨夜からずっと,瘴気のように沸き上がり地獄穴のようにすべてを呑み込む真っ黒い水から逃げ回っていたんです。仲間のカマキリが獲物のバッタが次々と姿を消していく中で,おなかの子どもを守るために必死で高いところ高いところと逃げ登ってきたのでしょう。追ってくるのが水で逃れるすべは高い場所。そんな認識や判断がこんな小昆虫にできたというのが驚きですが,現にこのメスはそうして一晩逃げおおせました。そして行き着いたのがもう登れない,隠れる場所もないガードレールの上。たまたま通りかかった人間に,一縷の望みをかけてみます。
お願いです! 助けてください! おなかに子どもがいるんです!
窮鳥ふところに入れば猟師もこれを助けると申します。ましてや私にこのカマキリを害する気はありません。安全な草むらに放してやりました。
カントウヨメナが花開く季節。
翌日,被災した知り合いを救援に行ったのですが,1日経ってもこのありさま。自然の猛威の前には,ヒトも昆虫も等しく無力です。驚き,祈り,逃げ惑い,運が悪ければ命を落とす。せめては,難を逃れて苦しむ人を生き物を等しく救える備えをしておこうと,私は思います。
↓ 庭のアミメアリにふれてます