なんじゃこの石,と思われるでしょう。これ,オルソクォーツァイトと言います。久慈川で拾いました。いやまたかとか言わずに。
夏に地学の先生たちの巡検に参加させて頂いた時のこと。福井県から石川県にかけて,そのスジで有名な「手取層」の恐竜化石がテーマでした。手取層の名は当地を流れる「手取川」からでしょう。
最終日にその手取川の河原で石拾い,という研修がありました。モノ知らずの私はただ茫洋と河原を歩いたのですが,地学の専門家さんたちには目的があったようです。
それがオルソクォーツァイト。
オルソ →「正しい」とか「ゆがみがない」
クォーツ → 石英
アイトite → 石
で,オルソクォーツァイト。「正珪石」なんて和名もあります。
なんとこの石,原料は砂漠の砂なんです。
砂漠の砂って,ほとんど石英だって知ってました? 鉄分のせいで赤くなってたりしますが,ほぼ石英の,丸くて大きさの揃った粒。理由は簡単,他の鉱物,長石とか輝石とかは,風化作用の結果消滅しちゃうんです。ホコリになってどこかに飛んで行ってしまう。あとに残るのは硬い石英だけ。この砂漠の砂こと石英がそのまま地下深くに埋没し岩石になったもの,それがオルソクォーツァイト。要するに砂岩なんだけど。世界各地,かつて砂漠があった場所に普通に見られる岩石です。考えてみると,本格的に生物が陸上に進出する4億年前より昔は,陸地は基本的に砂漠だったわけで,珍しいものであるはずがない。最も古いオルソクォーツァイトには23億年前というのもあるそうです。どんだけ昔だ,それ。
しかし日本にオルソクォーツァイトの地層はありません。これも理由は簡単,日本のある場所は常に大陸の隅っこで海に沈んだり浮かんだり,大陸砂漠なんて有りようもない。しかも地殻変動が激しくて古い地層なんかそのままでは残らない。茨城県の日立に日本最古というカンブリア紀の地層がありますが,徹底的に変成作用を受けちゃって元が花崗岩だなんて言われても片鱗もありません。
じゃあ何で手取層に?
じつはこれ,その場で出来たものじゃないんです。手取層は現代でいうナイル川とかアマゾン川レベルの大河の堆積物。中生代にそんな大河があって,上流にかつて砂漠だった場所があって,そこのオルソクォーツァイトが砕かれて流されて大河の下流に恐竜の骨なんかと一緒に堆積した。つまり「河原の石」,礫れきです。それがまた埋没して礫岩という岩石の一部になって,その礫岩がまた川に砕かれて流されて,礫がまた礫になる。それを地学の先生たちが拾う。
で,さらに言うとこの礫岩,手取層だけでなく,日本各地に中生代の地層として存在します。そうこの茨城県にも! 那珂川にも久慈川にも! 拾えちゃうのだ!
あーこらこら,ここまでちゃんと読んでる? おじさんのウンチクには素直に耳を傾けるのが礼儀ってもんだぜ。とはいえさすがに退屈でしょう。図示しますね。
はるか大昔
遠い大陸のどこか
① 砂漠がありました
② 堆積した石英が地層になりました
ここらから中生代
大陸のはしっこ
③ 地層が川に浸食され
④ 下流に流され
⑤ 礫岩になり
ここらから新生代
日本列島になる場所
⑥ いろいろあって
ここから現代
⑦ 久慈川に浸食され
⑧ ジノさんが拾う
わかった?
まあ本当にオルソクォーツァイトかはともかく,透明感があって握り心地がいいのですっかり気に入って
磨いたらさらに透明感が出ていい感じになりました。
本当に握り心地がいいんです。持ち歩いてみようかな。機会があったら触らせてあげるね。
オルソクォーツァイト。遠い遠い昔の,はるかなる砂漠の記憶。私の掌に包まれるまでに,何億年の日月をかけたことか。語ってほしいものです,その長い旅路を。
おまけ
夏の手取川で私が拾った石。何じゃこりゃ,と若ハカセに見せたら流紋岩だって。調べると確かに「顆粒流紋岩」というモノらしい。
赤い部分,ざくろ石です。まさかこんな形で相まみえようとは。
追記
で,専門家にお見せしたら「石英の集積した珪石には違いないが,オルソクォーツァイトとは言い難い。本物は九頭竜川や手取川でのみ拾えるのである」というキビしいお言葉でした。ううう。まあこれで九頭竜川に降り立つ理由ができました。待ってろよクトウルー。
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