新車を駆って今日は北茨城へ。どうしても確かめたいことがありました。
北茨城市北部、石を投げれば福島県というあたりの海岸に、関東地方でここだけの「鳴き砂」の浜がありました。鳴き砂というのは、踏みしめるとキュッキュッというかクックッというか、そんな妙に生物的な鳴き声をあげる砂のことです。水のきれいな海岸の、石英を多く含む砂浜に見られます。砂が汚れると鳴かなくなるそうで、砂浜の汚染のバロメーターだとか。
気になっていたのはそう、あの大震災です。一帯は津波に洗われ、漂着物で埋め尽くされたはず。汚染に弱いという鳴き砂がどうなったのか、9年間ずっと気になっていました。9年間ほったらかしかよと突っ込まれそうですが、悲観的な予想しかできなくて行く勇気が出なかったのです。それがなぜ今かというと、年末の記事でお伝えした「高温石英」絡みです。鳴き砂で有名な京都・琴引浜が高温石英を多く含む砂からできていると知ったから。ひょっとして北茨城にも高温石英があるのかと思ったのでした。
で、行ってみたら。
砂浜がない。
これが震災前の海岸。(茨城県HP「いばらきフォトダウンロード」より)
この時間は昼間の引き潮でやや水面は下がっていますが、砂の濡れ具合から満潮時には完全に水没しているようです。
このあたりが地盤沈下していたのは知ってました。今日が大潮なのも知ってます。しかし、昔はちゃんと砂浜があったんです。それが今や、干潮時の干潟になり果てている。なんてこったい。
乾いてないと「鳴き」を確かめられませんが、踏んだ感触は悪くなかった。夏の干潮時には鳴くかも知れません。しかし潮が満ちたら消えてしまうのでは「浜」とは言い難い。残念ながら関東唯一の鳴き砂の浜は消滅したと言うのが妥当でしょうか。あうう。
海岸の崖。
断層による破砕帯。こんなものも観察できたりして。
貝化石を含む岩。この辺りでは珍しくないもので、上の方の地層にいっぱい含まれてます。
トベラの木が一本、身を投げるような姿のまま潮風に吹かれてます。たぶん、崩れ落ちるその瞬間まで平常心のまま、遠い水平線を見続けていることでしょう。植物のこの達観というか悟りというか、根を張ったその場所ですべてを受け入れる覚悟。これはこれで一つの在りようかと。
黒いのは磁鉄鉱つまり砂鉄。ここも砂鉄の豊富な浜です。
階段に残った砂。ほぼ砂鉄と石英だけの不思議な砂。
ビーチグラスと。砂鉄は浜の一部に局在するのみですが、確かに石英の多い砂です。
イソヒヨドリ。色の対比が美しい。
カイツブリの仲間でしょうか。
この崖。思い出があります。
地震の地盤沈下で海に没してますが、かつては崖下を歩けました。
地層中のぼこぼこしたのはノジュールといいます。中に化石が入っていたりして、よくハンマーで挑んでいました。
割れてるノジュールがあった。こんな感じに化石が入ってます。…… ああ、もうこの場所には近づけないんだ。
少し寂しい思いをしてしまった北茨城の海岸ですが、北茨城そのものはとてもいいところです。一通りお店はあって便利だし、気候はいいし、食べ物が安くておいしいし。特に海産物は大津港あたりにいいお店がたくさんあります。どうぞおいでくださいませ。
帰りに寄った公園で、よい香りがすると思ったらロウバイが咲いてました。いつまでも石にこだわっていたりノスタルジーに浸っていたりすると季節に置き去りにされます。春よ来い。