その昔。
茨城県立図書館は旧県庁の敷地のすみっこ,小さく古くカビ臭い建物でした。内部は正直言って汚なかったし。でもそれが太古の宝物を納めた木箱のようで,古い古い書籍の所蔵場所にはふさわしく思えました。特に地下書架のさながら魔窟のような空気感は私にとって異界そのもの,今なら怪しの森に迷い込んだ時のような興奮を覚えたものです。
そして本の杜に迷う楽しさを堪能して腹が減ると,廊下を曲がった突き当り,図書館の建物の端にある食堂まで行ったものです。学生の小遣いでも無理のない値段でラーメンが食えました。たぶん図書館の直営の,おばさんは無愛想だけど実は親切でさりげなくおまけを付けてくれるような,老人やおじさんやもろもろの行き場のない人でも安心してごはんが食べられるような,そう図書館の食堂とはかくあるべき,そんな食堂でした。
さて。
先の記事(それすらもおそらくは平穏の日々 - ジノ。)で県立図書館に歩いて行ったらカフェ新設工事で閉まっていたお話を書きました。そのカフェが開店したとやら。利用者に迷惑をかけてまで作ったカフェ,ひとつ見に行ってやりましょう。さあどんなステキなカフェなのかなー。
おい。
全国展開のコーヒー屋じゃねえか。丸投げしたなコラ。
しかも図書館の表示より店の看板がデカい。図書館利用者の利便性を図るためにカフェを設置したなんて言っているようですが,利用者第一なら館内カフェの看板なんてそもそも不要だと思いませんか。
正面玄関を入っていきなりうっと息が詰まりました。細かく仕切られたカフェの座席で目の前がびっしりと埋まり,さながら行く道がトラックから落ちた荷で塞がれたような感覚です。かつてそこは天井まで吹き抜けたエントランス,広々とした空間を行き交う人たちを天窓からの光が優しく照らしていました。それがまるでコンビーフみたいにゴチャゴチャしたモノに満たされて。公共の建物に必須の余裕というかおおらかさが図書館とは異質のモノに埋め尽くされていました。
入口左右に同じようなカウンターがあって,片や図書館の受付,片やコーヒー屋のカウンターです。本当に同じような造りで,どちらに行っていいのか戸惑います。どっちが主で従であるのやら。正面のカフェの座席は既存の限られた空間に限られた工期で作られたので,いかにも即席ないまいち感があります。これはもちろんコーヒー屋の責任ではありません。
いったい誰のゴリ押しで作られたんだ。
あ,もちろん利用させて頂きましたよ,コーヒーと食事。セットで千円越えました。日本中で同じものを出しているのでしょうからあえて写真は撮りませんでしたけど,内容が問題なのではありません。新聞を読んでいる行き場のない老人,疲れた顔で子どもたちの手を引いたお母さん,勉強に来た学生。誰もこんなカフェを有難いとは思いません。
聞けば,コーヒー屋もかなりの覚悟をもって出店に応じたとのことです。大体このあたりには駅ビルのス〇ーバックスをはじめとして,いわゆるおしゃれな今どきのカフェが林立しています。仕事をサボるビジネスマンや,午後をおしゃべりで浪費する奥様方や,どうでもいいような学生たちや,つまりはこの手のコーヒー屋に行きたがる連中のその行き場がいくらでもあります。わざわざ図書館に来る奴はいない。飲食店の出店をプロデュースしている人に言わせると,まともにマーケティングリサーチしたとは思えない,本当に誰かのゴリ押しとしか思えない出店だそうです。それに応じた星乃珈琲店も承知のことで,3年は赤字でも営業を続けるという何とも悲壮な覚悟なのだとか。
ああっ 誰のためにもなってないっっ
もちろん図書館本来の利用もしました。お気に入りの生物学書の棚,日本十進分類法の460番から480番。
窓の外には芝生越しに旧県庁が見えます。
気になる本を見つけた。アメーバ図鑑! ぐぬぬ,気になるうう。今度来た時にじっくり読んでやるうう。…… なんて,2階の開放書架は元のままなのでちゃんと本来の楽しみ方ができました。
ひと通り図書館を堪能して出てみれば台風一過の空…… じゃなくて,台風8号はまだ鹿島灘沖にいて,今日の予報は一日風雨です。最近の天気予報がいちいち大げさで良いほうに外れるのはマスコミの罪ですね。
旧県庁も青空に映えて。
前出の記事でもご紹介しましたが,ここは土塁と空堀で囲まれてます。今はどちらも立ち入り禁止になってます。これは土塁上のスダジイの古木。
空堀にノカンゾウの群落。この花は毎年一度は記事にしているような気がします。好きな花なんです。
遠くにはヤマユリ。こんな街中に。
オニユリまであった。
来年になったら週2,3回は図書館通いしようと思ってます。生物学書,棚ぜんぶ読破!とかしてみたいなあ。…… たぶんあのカフェは利用しません。
中国・四川省成都にある本屋さん。図書館さん,どうせ改装するならこんなんどう?
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