ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

今年もツクツク森を覗いてみよう

 

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 冬虫夏草を探し歩いていた頃だからもう二十年以上前になります。


 水戸市内と言っても山と農地が広がるあたり,その山の中を,それこそタヌキが餌を探してそぞろ歩くように,特に当てがあるということもなく獣道を歩いておりました。そしていくつかのヤブを漕ぎ抜けたところで,突然ぽかりと異質な空間にまろび出たのです。


 なんだここは。


 いえ,それまで歩いてきたのと同じ森なのですが,それまで私の行き脚を阻んでいた篠竹がふっと無くなり,貧相なコナラなどの雑多な低木も消えて,杉や樅の巨木が立ち並ぶやけに天井の高い空間なのでした。


 当時はまだ天地の気を肌で感じるような体験は無かったのですが,そこはまるで結界の中に飛び込んだような,えらく澄んだ空気感が支配していました。


 それは小さな鎮守の神さまの裏山でした。巨木が多いのは神さまの杜もりとして保護されたからでしょう。ああ,いいところだなあと思いました。これがツクツク森との出会いです。


 昨年も9月に雨の中を歩いて,変わらぬ様子に安堵しました。今年も天候は同じようなものですが,今年の「夏の森潜航」をここで閉めようかと思います。

 

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 森の入り口にコレラタケ。日本三大毒キノコのひとつ。門番のつもりでしょうか。雨雲からの青い光の中で,死のチョコレート色が不気味に鮮やかです。

 

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 さあ一年ぶりのツクツク森。相変わらずツクツクボウシが賑やかに。

 

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 さっそく見つけてしまった,ツクツクボウシタケ。今年もちゃんと発生してました。ツクツクボウシの羽化直前の幼虫を菌糸で食いつくしてしまう驚異の菌類です。

 

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 掘ってみるとこんなの。セミというだけで,菌というだけで十分に私の好む異形の生命なのにそれがアウフヘーベンしちゃっているのですからもう最高です。

 

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 昨年訪れたときよりも発生数が多い。森も菌も健在です。食われるツクツクボウシにとっては死の地雷原ですけど。

 

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 百円玉はスケールには不向きですが細かい貨幣を切らしていたので。

 

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 ザトウムシが逃げていく。

 

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 シデムシがじっとしています。ふだんは早足で歩くせわしない昆虫ですが,急な気温低下に戸惑っているのでしょう。

 

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 これはトウゲシバ。こう見えてシダ植物。暗い森の底が安心できる居場所です。いろんな奴がいるもんだ。

 

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 落ち葉の上に,指で隠れそうな小さな小さな菌類。キュウバンタケと言います。名の由来は足元の形から。

 

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 小サキモノヨ。そう語りかけたくなります。これで立派にひとつの生物種。そういう生き方を選んだ者です。

 

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 着生ランの一種,カヤランが落ちていました。何度かこのブログで記事にしていますが,地上では生きられません。落ちたら死ぬだけ。そういう終わりを迎える者もいるんです,ヒトでも菌でも。

 

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 人知れず森に生まれ,消えていく。今年も雨の,ツクツク森。

 


 私がここにこだわる理由がひとつ。この森にはもう数十回も来ていますが,他の人に出会ったことが一度もないのです。決して人里離れているわけでなく,神社のすぐ裏手で,道が通り,近くには人家もあるのに。いえ,もう今となっては出会いたくありません。ここで出会う人間,それはもうヒトではないような気がするから。

 

 

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 森の出口に,行きには気づかなかった小さな草。葉の出方が独特な,これはコシオガマと言います。たぶんお見送りに来てくれたのでしょう。愛らしいピンクの花は,今年の内に咲かせられるでしょうか。元気でね。

 

 

 

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