13年前,今の職場に異動になった時に女の子にもらった小さなサボテンがありました。一辺5センチの四角いガラスコップに赤い樹脂の砂が詰められ,真ん中の紙で仕切られた中に,わずかな土とともに小さな小さな丸いサボテンが鎮座しているのでした。
職場の作業室の窓際に置いて,最初は水やりの一つもやったものですが,多忙のうちにその存在を忘れました。多忙を理由とするあたりに,他人の気遣いに対する自分の無神経さが垣間見えていやになります。
先日。
久しぶり,本当に久しぶりに当の作業室の窓際を見やって,あのサボテンのコップが窓際にコケているのに気付きました。なけなしの土は散逸し,サボテンは根をむき出しにして陽に焼かれてました。もう何年も水を与えられず,夏は40度を超すであろう窓際に転がっていたのです。しかし驚くべし,それは緑を保っていました。
何だろうこの感覚は。亡き主人を待つ忠犬?… 違う。引き出しの奥から見つけた思い出の木の実?… 違う。もっと力強く,もっと私を責めるもの。かくも過酷な環境に放置されながら命の光を宿し続け,その光が私に罪悪感を投げ掛けます。ごめんね,本当にごめんね。
手の平の上でカラカラ音を立てそうなサボテンを家に連れ帰り,きちんと植木鉢に植えてやろうと思うのですが,このままではいつ干からびて死んでしまうか気が気ではありません。
当座の水だけでも吸ってもらおうと,浸けてみました。悲しいくらいに軽く浮かんでしまいました。本当はこんなことやっちゃいけないのだろうけど,30分ほど。
いったん乾燥させた一日後,底を見てびっくり,発根してます。ええええ,早い。よっぽど餓かつえていたのでしょう。
すぐ植えてやりました。直ちに水をやりたいところですが,根が伸びるまでは厳禁だそうです。私は植物を育てるのが上手ないわゆるグリーンフィンガーではなくて,サボテンも植替えで枯らしてしまったことが何度もあります。ああ心配。
ちゃんと育ってください。精いっぱいお世話します。かくも長き不遇を与えてしまった,その償いをしなくては。
古いフランス映画「かくも長き不在」は,帰らぬ夫を待ち続けた女の人のお話です。感涙必至,機会があればぜひご覧くださいませ。
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