タイトルの古いCMネタ、通じるのかな。
さて無事に越後入りしたジノ。でございます。これより二泊三日。
第一目標 ギフチョウ
第二目標 雪割草
第三目標 黄スミレ
ここは水も気も異なる地。私ならその違いがわかるはず、目標物があれば見つけられるはずです。問題は場所と天気。場所はネットで調べまくり、合わせて6ポイントを地図にプロットしました。それをどう回るかはバクチです。天気は…… 昨日の予報だと1日目晴れ、2日目降水確率 50%、3日目 90%。この晴れ男と土地の天気の相性がどう合うか。
関越道を越後川口で降りてすぐ、ここに山本山という山というか丘陵があります。ホントにあるんだこう言う山。回る効率を考えてここを最初のポイントにしました。
ふもとに到着。水戸を出て4時間半、295キロ。そして車道が積雪通行止め。うむ、この手のオチには慣れた。これまでの私ならうぎゃあああとか叫んでいるところですがそれでは埒があきません。さすがにカンジキの用意はありませんが、雪はだいぶ融けているので長靴を履けば大丈夫でしょう。積雪地の生物は雪解けに従います。早く融けた場所では花も咲いていることでしょう。ギフチョウも飛んでるかも。車を置いて徒歩で登ります。
三角コーンがひしゃげるほどの雪圧って想像できません。3メートルとか積もるんだろうなあ。
山本山全景。台形の丘、というところでしょうか。
登る途中でふと脇道に逸れてみると、南向きでよく陽が当たり、植物の萌え出ている土の斜面がありました。それが花だらけ。よし見つけたぞ。
カタクリ。茨城では貴重でした。わあたくさんあると小躍りしたのですが…… この旅で訪れたどこの山でもびっしり咲いてました、まるで雑草のように。雑草のようにカタクリ。うわあすごい。やはりこれは冷温帯の、夏緑樹林の植物なんですね。これだけあればジジイに掘り盗られる事もないでしょう。北国のカタクリは色が濃いと聞いていたのですが、ここ山本山のはさほどでもありませんでした。
やたら目についたのがこの葉。青空を映すほどにテカテカの光沢。異質なのにどこかで見たことがある。帰宅して、オオイワカガミという名を知りました。近縁のイワウチワやイワカガミは山の岩場で見ましたけど、これは落葉林に生えます。日本海側の多雪地帯特産。さっそくこの地の植物に巡り会えました。花はもう少し先です。
ショウジョウバカマはカタクリに増して色が薄い。茨城では分布が限られますが新潟ではカタクリと同じ場所に必ずありました。
うおおおお、本場もんのナガハシスミレだああ。見たぞこれが本物。…… 茨城のものは氷期の遺存分布。こちらのが本来の気候に生育するものです。茨城のがニセモノってことではないけれど、本家の姿も見たかったのでうれしい。……なんて浮かれて、これ土の斜面のかなり高いところにあるのを登って接写しようとしたら、ずるずると滑り落ちて泥だらけになりました。茨城と土質が違う。忘れてた、ここはあちらでの流儀が通用しない異世界であった。
↓ もし未読でしたらどうぞ。
トキワイカリソウ。葉が常緑なのでトキワ。これも日本海側特産。花期はその場のカタクリより少し遅いように見えます。
この二つは現時点で不明です。咲いて花姿を見れば名前の見当が付くんだけどなあ。
さっそくに、日本海要素の花々を堪能してしまいました、泥にまみれたけど。舗装された道に戻ります。この程度の積雪なら私のエスクードで十分行けると思えるのだけど、知らない土地でバリケードをどかすような乱暴はしません。
そしてとうとう、登る途中の斜面に陽光に輝く黄色の花弁、オオバキスミレを見つけました。日本海側特産の黄色いスミレです。目標の一つ達成。黄色のスミレ、高山の岩場のものは見ています。でもこんな低山の林下に咲いているのは初めてです。太陽のかけらのような眩しさ。
黄色のビオラとか言わないでね。本当に野生のスミレです。黄スミレは高山か本州の日本海側、そして富士山や阿蘇山にしか分布しません。
さらにずんずん登っていきます。心が前のめりというか、足が驚くほどに軽い。初めての土地に興奮したか。ただ一度の機会を逃すまいとするか。
ここは頂上に展望台やら牧場やらのある、雪がなければ観光地です。途中に見晴らし台がありました。わああ、茨城で見せたらおカネの取れる風景だぞ。
かなたに見えるは
越後三山。
看板にそう書いてあるから間違いない。
その北側も
茨城に持ってくればヒーローになるような山々です。
傍らにあったこの桜は、さあこれが難しい。とりあえずカスミザクラとさせてください。
ルリシジミが足早に道を渡っていきました。この日見た唯一のチョウ。
さらにずんずん登って、頂上の平坦部に着きました。絵のような風景だなあ。
ウサギの無駄のない足運びに比べ、私の足跡のなんと無様なことか。
スギの陰になって雪のない地面に星を散らすように
キクザキイチゲ。茨城のは白色が多いのですが、ここのは見事な青色でした。
雪国のヤブコウジは実の付きがやたらいい。
さて雪解けが進んでいるとはいえ、ここはまだ白い世界。第一目標のギフチョウはどう見てもまだ発生していません。先に進んでも無駄なようです。ここらで踵を返します。雪景色なのにすごく暑い。のどがカラカラのガラガラで、まずは車に戻って飲み物を。
ここでひと思案。現場の状況がわからない今日は、4つの調査ポイントを考えてました。その一つ目でこの雪。残り3か所はもっと内陸なので状況が良い、つまり雪が融けているとは考え難い。無駄な移動をするより、花々が見られたここ山本山をもう少し歩いてみよう。というわけでまた道を外れて、山から見て雪が少ないように見えた林に向かいます。ギフチョウは望み薄ですけど、この山域にはまだ何かあると思うので。
雪がないと見えたのは笹のせいでした。結局は膝までの雪にヒーヒー言いながら、それでもガツガツ進みます。進みながら、わしってこんなにタフだっけと驚いています。二度と来ることはない、見るべきは見ておけとゴーストが囁くのです。
林の中にほんのりと漂う芳香。香りの元は木に咲く白い花、これはコブシではありません、タムシバと言います。混同されがちですが別種。香りはコブシより遥かに強く、かぐわしい。私には温泉場ですれ違ったお風呂上がりの女の人から漂うせっけんの香りと思われ…… すいません、余計なことを言いました。これもやはり日本海側の植物です。
谷間なので雪が深い。こういう融雪期に気を付けねばならぬのは木の枝の起き上がり。雪の重みで地に伏していたのが、私の歩く振動でばねのようにぴょんと跳ね上がります。下手をすると、結構太い枝に股間を打たれて ひぎぃぃっとか叫ぶことになるので要注意です。
雪の消えた場所から順にカタクリが咲いていきます。オオイワカガミも繁茂しています。これが日本海側多雪地帯の春景色なんだなあ。
そして…… 見つけました。コシノカンアオイ。ギフチョウの食草です。カタクリがあって食草がある。ここはギフチョウが分布する場所です。数週間後にはあの、だんだら模様に宝石のような赤青の紋を配した春の精が舞っていることでしょう。山のふもとでお会いした地元の方に聞くと、この冬は雪の量は例年並みだったけどとにかく寒かったと。いつもの年ならギフチョウたちも夏・秋・冬と閉じこもっていた蛹の殻を抜け出ている時期ですが、今年はもう少し耐えねばなりません。
谷を出て車に戻る途中の水田のあぜに、巨大ミミズが這いまわったような跡が。たぶん雪の中にトンネルを掘って動き回っていたネズミの穴だと思います。そこをキツネがぴょーんと飛んで捕まえたり。人跡の絶えた雪山は動物たちの世界です。
水戸ではもう終わっているツクシが、ここではこれからです。
田んぼに卵のう。カエルも繁殖期。
ここでまた地元の方にお会いしました。林に囲まれた農園付き別荘「クラインガルテン」に定住していて、今は山菜を採りに出てきたのだと。わあ、なんて羨ましい里山暮らし。歓談するうちに、何と近くに雪割草の咲く林があるのだと。おおお、やはり地元民との情報交換は重要です。
聞いた場所はここ。何の変哲もないコナラ林です。
あった。花色が違いますが、これ全部いわゆる「雪割草」です。…… 少しモノ申してよろしいでしょうか。
日本の図鑑には、この類はミスミソウ、オオミスミソウ、スハマソウの3種類として掲載されています。でも3つとも、学名ヘパティカ・ノビリスというキンポウゲ科植物の日本亜種。オオミスミソウとスハマソウはその中の「変種」という扱いで、実際には葉の先が尖るとか尖らないとかガラが大きいとか小さいとか、とても絶対的な違いとはいえないもので別種のように扱われています。もちろん交雑も可能で、繁殖能力のある子孫ができることでしょう。例えるなら「人類」から「日本人」を分けて別種扱いにして、さらに「関東人」「関西人」を別種にするようなものです。しかもその「関東人」の中でも花の色や大きさが多様、まちまちなのです。分ける必要がどこまであるのでしょう。
こんな理屈、興醒めでしたね。失礼しました。とにかく新潟のものはオオミスミソウで、花の変異が極めて大きいことで知られます。私はそれをこの目で見に来ました。目標達成また一つ。では皆さまもご覧ください。「雪割草」の名で雪国の人に愛される、可憐な一族です。
ちなみに葉。先が尖っているから三角草だって。
ここ山本山で4時間、たっぷり楽しみました。これだけで新潟が好きになりました。念のため、ガソリンの無駄になると思いつつ、もっと山間部のポイント「節黒城跡」に行ってみましたがやはり雪で封鎖。ギフチョウは明日のポイントに持ち越しです。長岡の宿に向かいました。
これで第一日が終わり。初日から頑張り過ぎたけど、図らずも目標三つのうち二つが達成できて、何より無事に終われて良かったです。
さて、明日の運命はどんなかな。
↓ どんなもんでしょう。よろしければ。