わしゃわしゃとお堀の斜面を埋め尽くしています。
以前はノカンゾウもあったのですが、ほぼ置き換わりました。
いつものうんちく。飛ばしてもさしつかえありません。
ヤブカンゾウ 藪萱草 2n=33(3倍体) 八重咲き
ともにワスレグサ科ワスレグサ属、中国にある本来の「萱草かんぞう」ホンカンゾウの日本亜種。かの国では古来「憂いを忘れさせる草」とされてきたことから訓読みは「わすれぐさ」、科名・属名もここから。
湿り気のある肥沃な草むらに群生し、夏に大輪・オレンジ色の一日花を次々と開花する。
つぼみと花は食用・薬用で、中国では栽培される。根も含めて、解熱・消炎・止血・風邪・むくみ・不眠に効果がある。春の新芽もまた美味な山菜である。
ワスレグサ科とは聞きなれない名ですが、もとはユリ科でした。APG分類体系と言って、DNA解析で植物の分類が一新されたのがここ20年ほど。形質で分類するしか手段のなかった時代「他人の空似」ゆえの混乱があった植物分類ですが、DNAを比べることでその進化系統がスカっと明らかになり、例えば「合弁花・離弁花」とか「単子葉・双子葉」なんて分類が絶対的ではないことが判明、中でも「単子葉・3数性」などの特徴でひとくくりにユリ科とされていたものが実は多様な系統であることが分かり、キジカクシ科とかシュロソウ科とか、新たな分類群が作られました。ワスレグサ科も新しい科のひとつ。どう見てもユリなんだけどユリじゃないんです。まあ、安易な「新種発見」の手段にするよりは、DNAシークエンサーの正しい使い方だったと思います。
この類は東アジアを中心に分布し、いずれも美しい大輪の花を咲かせます。ツルボラン科と呼ぶ学者もいますが、私にはその言語感覚は受け入れがたい。私はワスレグサという花とヒトとの精神文化にまで昇華した呼び名を貴びたいと思います。
ワスレグサ類というとまずゼンテイカ(ニッコウキスゲ)でしょう。今年も何度も記事にしました。でも北海道から九州まで(沖縄ほか南島のみなさんごめんなさい)、人の身近にあるワスレグサはこのヤブカンゾウです。
バナナなどと同じ3倍体植物で、正常な生殖細胞が作られず、種子ができません。のみならずおしべめしべが花弁化してこの煩雑な花を構成します。これを美しいというか否かは個人差の出るところ。派手なところは認めますが、私は否かなあ。暑い盛りになお暑苦しい。
でもこれも3倍体の常としてデカくて丈夫。おかげで日本中の炎天下で元気に開花しています。都市部にもあります。
図鑑には中国からの史前帰化植物であると判を押したように書いてあります。でも実は中国には自生しておらず、あちらではわざわざ日本から移入して栽培しています。思うに、昔のエラい植物学者がそう言ったのをみんなが鵜呑みにしているだけではないのでしょうか。
このひと群れ、そばに寄れたので見てみると
一見ノカンゾウのような一重の花がありました。でもよく見るとめしべが花弁化しているからヤブカンゾウです。
こちらも。ヤブカンゾウ化、ヤブ化しています。このお堀でノカンゾウがいなくなった原因はひょっとしてこれか。つまりヤブカンゾウと交雑することで染色体数のおかしな個体に置き換わっていく、なんだかゾンビ化みたいなことが起きているとか。いや根拠のない思い付きですけど、ヤブカンゾウも花粉は作るし、タンポポではそういう現象が知られているので。
まあいいや。この花に賛辞の言葉はあまり出てこないけど、嫌いじゃありません。夏の田んぼまわりにはこのオレンジのわしゃわしゃした花がよく似合います。
万葉集にもワスレグサはたくさん詠まれていて、日本人に愛された花なのは間違いありません。そのワスレグサというのはノカンゾウだというのが定説ですし、否定はしない。でも帰化でなく昔からあったのなら、このヤブカンゾウを愛でた人がいても不思議ではないかなと思えます。
夏の夕暮れ、斜陽を浴びてそちこちで輝く姿は太陽の残り火を掲げているようで趣が深い。ああ今日も暑かったなあと思いながらふと見やると、その炎熱を捧げ持つこの花があるのです。日本の夏を象徴する暑っ苦しい花。麦わら帽子にランニングシャツで虫捕り網を持った少年、とかと同じ匂いがします。
お堀の土手ではもうアキノタムラソウが咲いてます。
ヤマユリはこれから。いつの間にか数が増えました。ここがあの、これも夏を象徴するような強烈な香りに満たされるかと思うとわくわくします。ちなみにヤブカンゾウも良い香りを持っていて、群落の傍らに立つと優しい気持ちになれますよ。
ちなみに水戸は、また海からの東風が吹き始めて涼しくなりました。
いつまで続くかな。
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