ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

天元台の呼び声

    

     
       ここに来い… 天元台に来い…


 この30年間、ずっとそんなささやきが聞こえます。折に触れて私の耳元に現れます。まるで逃れられぬ宿痾しゅくあのように。行かねば。だがそこに何が待っているのだろう。

 


 …… 三流伝奇モノのようなオープニングですいません。山形県米沢市天元台。30年前に生物調査に訪れるチャンスを逃したことをずっと悔やんでいたんです。でもどういう場所なのか知りません。行ってみなけりゃわからない。


 ようやくそれを果たす機会ができた2年前は、無慈悲にもアクセス道路「スカイバレー」が冬季閉鎖になった直後でした。またもチャンスを逃した。もはや「天元台」は地平線の彼方の行きたくても行けぬ桃源郷、私にとってのシャングリ・ラです。私には、あの山を越える力はもう残っていないのか。

 


 そんなことあるものか。とうとうその機会を作ることができました。いま私は天険の山稜を(車で)越えて、天元台のふもとに至りました。唯一のアプローチ、ロープウェーで登りつつあります。愛車よ、しばしそこで待て。

 


 驚いた。正面の谷のどん詰まり、見た目にはほとんど垂直に見える斜面に立派な建物が。温泉旅館だそうです。こんなところにも人の生活となりわいがある。

 


 紅葉の中を鉄の箱は進みます。向こうの山の黄色いのはダケカンバ。手前にはまだ紅葉しきらないブナやミズナラ

 


 山上駅着。樹林地帯を通り抜けたそこには草原が広がっていました。

 


 青空をバックに子供向け遊具。向こうの空は晴れていてもここは陽が陰り、なんかマグリットの絵のようなシュールな光景です。この遊具は来客のみならず、後述するここで暮らす家族のためもあるのかな。

 


 天元台は、要するに山上のスキー場です。四季を通じて楽しめるリゾート、という売り文句らしい。

 


 ロープウェーの山上駅、ロッジ、リフトの起点。

 


 舗装された広場、ゲレンデ、周囲に樹林。

 


 そしてペンション村。

 


 おしゃれな建物ですけど

 


 廃屋になっているものも。

 


 このあと裏磐梯の宿に泊まるのですが、なんとそこのオーナーがかつてここのペンションの一つを経営してたと聞いて驚きました。すごい偶然。この標高1300メートルの高原、一晩で雪が1メートルも積もる山上の村邑で、真冬にも人の日々の生活があり客商売が成り立っていたんです。ところがふもとにあった小学校が廃校になり、登校に米沢まで片道2時間、とても子育てと商売が両立できないと、泣く泣くここを人に譲ったと。ああ、やはり大変は大変なんだ。

 


 日々家族で暮らすには大変でも、いまここに立つ私には天空の夢幻境、いや褒めすぎか。でも宿願を果たしたことで胸が一杯というか、ほとんど無心で歩き回りました。茨城から来た身にはかなり寒いけど、完全冬装備で登ってきたので大丈夫。ただジーンズの上に履いたオーバーズボンはやりすぎでした。暑いばかりか見てくれが、バイクに乗る出川哲朗 みたいになってしまった。

 


 オーバーズボンは脱いで記念撮影。自らの存在記録。もう来ることはないでしょう。

 


 周辺の紅葉はまさに盛りです。

 


 西吾妻山への登山口でもあるのだけど、リフトで上まで行った人の話では、ガスに巻かれ周囲は霧氷に覆われていたそうです。標高が少し上がればもうそこは冬の山。ここはそういう所でそういう季節なんですね。やはり茨城の者には異世界です。来てよかった。

 


 はてこれはホソバノキリンソウ。紅葉して、枯れ果てて。

 


 オヤマリンドウはまだ顔色を保ってます。これで実は咲いている姿。

 


 ヤマハハコがそのまんまドライフラワーに。

 


 よくわからないキク科。いかにも寒冷地仕様な毛むくじゃら。日が照れば開くのかな。

 


 廃れたペンションの下に、たぶん園芸種、クマツヅラ科っぽいのですが名は知らず。ひょっとしてオーナーが植えたものの生き残りでしょうか。往時の思い出を語るのか。

 


 紅葉の向こうに一筋の滝。

 


 遠くに蔵王連峰、雲の中。

 


 飯豊連峰。ここからは遠く月山や鳥海山も見えるそうですが、今日は無理のようです。そちらにはいつか行ってみよう。

 


 米沢盆地が一望です。米沢市、なんて美しい見え方のする町なんだろう。ヨネザアドなんて言葉を思い出しました。久しぶりにますむらひろしが読みたくなった。

 


 雲が切れてきました。陽射しはそれなりに暖かい。

 


 雲高が上がり、蔵王連峰が見えてきました。大きいなあ。

 


 西吾妻山方向の前山も雲が上がり、ダケカンバに霧氷の付く様子が良く見えます。

 


 草原の遊具は…… やっぱりシュールに見えます。きっと、子供が遊ぶ風景じゃないからでしょう。

 


 たっぷり3時間。特にこれといったものを見たわけではありません。でもずっと心に凝り固まっていたものが、すうっと霧の彼方に消えていきました。カタルシスとはこれか。

 


 下りのロープウェイでは、紅葉が陽光に輝いていました。下るにしたがって木々の葉の緑味が濃くなるのがわかります。まさに天元台の山上は紅葉のベストタイミングでした。

 


 さらば天元台

 


 ご参考に申し上げますと、1800円のはずのロープウェイ代が「サービス期間中ですう💗」の一言で1200円になっていて、おみやげまで頂けてしまった。きっとコロナ禍でご苦労なさったのでしょう、大変なサービスです。まだあと1週間やそこらは紅葉が楽しめます。裏磐梯からのアクセスルート「スカイバレー」は10月いっぱいで閉鎖されますので、それまでにどうぞ。

 


 今回のタイトル、元ネタはラヴクラフト大先生の「クトゥルフの呼び声」。いっそ伝奇ホラーな書き方にした方がウケたでしょうか。

 

 

 

 

 

↓ 前回の裏磐梯旅行3部作+1、どうかご覧ください。

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