こういう露出オーバー気味なのも紅葉の撮り方の一つだし、モニター上でも映えるのだろうけど、私は露出を抑えて色味を濃くするのが好きです。以下暗い写真が多くなります、ご理解ください。
この小旅行で気付いたというか不気味なことが一つ。水戸から常磐道・磐越道を走り来て「猪苗代磐梯高原」インターで降りたすぐ目の前に道の駅があります。ここで観光マップや道路情報をいただきます。ここは福島県猪苗代町、北側の裏磐梯は北塩原村。さらにその北は県境を越えて山形県米沢市になります。この裏磐梯から米沢へと抜ける山岳道路が「西吾妻スカイバレー」。地形図を見るとまるで腸のようにうねうねと西吾妻山の肩を越えて行きます。かつては有料でしたが建設資金を償還し終え、今は無料で通行できます。沿線は紅葉の名所で、ネットではここで撮られた写真がにぎやかです。
不気味というのは、ここ猪苗代の道の駅にはスカイバレーの情報が一切無いんです。それはもう見事なくらいに。地元の観光協会のHPを見ても、冬季に閉鎖されるなんて重要な情報が一切載っていなかったのが前回の悔やみとなりました。
例えばもらった地図。
ね? 地図上の桧原湖の上、赤丸で囲ったあたりがスカイバレーなのですが、字をかぶせたり別の地図を乗せたり地図が切れてたり。図上に無く、広域地図にもスカイバレーのスの字も無いのです。これは一体どういうことか。
思うに、スカイバレーというのは実在しないのではないでしょうか。国家の陰謀で、みな幻覚を見せられるか洗脳されて行ったつもりになっているのではないか。毎年ネット上にたくさんアップされるここからの紅葉の風景も、じつは当局によって作られたCGなのでは。ううむ、本当にあるのかスカイバレー。
行くまでは半信半疑だったのですが、初日にこれを通って天元台まで行けたのでどうやら幻覚ではないようです。しかし謎は残る。なぜフクシマはあんなことを。
さてその初日、まずは天元台に行くことを優先したので、スカイバレーでの紅葉撮影は帰路になりました。ここは山形県側の展望スペース。一定の高さより上が真綿のような雲に覆われてます。
手前の山は黄色いダケカンバと茶色に枯れたブナ。
中段は標高が上がり、ダケカンバと常緑の針葉樹。
右奥ではダケカンバも葉を落とし
その上では霧氷に覆われる。
…… 一つの風景の中に数週間分の時間が内包されています。
ああ、やっぱり紅葉写真は陽射しが欲しいなあ、なんて思いながら三脚を据えたら
ぱーっと一条の光。神さまありがとう。
ちょうど温帯樹林と針葉樹林の境目を、指で指し示すように。はい、もう文句は申しません。ここは植生の観察にも良い場所でした。
ダケカンバ。この個体の紅葉は茶色が強めです。亜高山の針葉樹に混じって生えます。
ブナ。この地のブナは黒い。
ふつうブナは幹が滑らかで、白い地衣類が着生しています。でもここのはごつごつして黒い地衣類が付く。見慣れた茨城のものとは少し印象が違います。
ブナは一瞬黄色く紅葉し、すぐに茶色に枯れて散ります。見ごろは一刹那。
今年はブナの実が豊作のようです。森の動物の重要な食糧で、これが不作の年はクマが人里に降りてきたり。
そのままスカイバレーの最高点白布峠しらぶとうげを越えて行きます。高度が上がれば季節が進み、高度が下がれば季節が戻る。秋の山岳道路の楽しさを味わいます。
思わずブレーキを踏む気持ち、わかりますよ。カーブを曲がったその先に現れるこの磐梯山の雄姿。でも危険な場所ですから停まってはダメよ。私は数百メートル先に安全な駐車スペースを見つけて、そこから三脚担いでここまで戻りました。足腰を鍛えているのは、人に迷惑をかけないためでもあるのです。
紅葉を入れて。
でもこういう写真が好き。
迷惑なおっさんおばはんを何人も見ました。このスカイバレーは片側1車線で路側帯も狭く、ヘアピンカーブの連続で、片側は断崖です。ところが車中からいい風景を見つけるとその場に路上駐車してカメラを構えたりする年配の方々。ある真っ赤なスポーツカーに乗ったおばはんは展望台の数台分の駐車スペースに斜めに停めて、入れない車の渋滞を引き起こしながら涼しい顔でシャッターを切っていました。ああ、こんな年寄りにはなってはいけない。そもそも車中から見える、あるいは日々何百人もの人が見る風景を同じように撮ろうってのがもうクリエイティブじゃないのよ。いやわしもそうだけど。
はい月並み写真、展望台から見た磐梯山と桧原湖。その場にいた他の皆さんも同じもの撮ったことでしょう。偉そうな芸術論をぶったけど、やっぱり残したい写真というのはみな同じなんです。実にいい風景でありました。
さて翌日。宿のオーナーに今日はどちらへ?と聞かれて、スカイバレーをもう一度堪能してくると答えました。これで帰るのはもったいない。そう思わせる白布峠の紅葉です。
天元台という目的は果たしたので今日は余裕です。道端の草木そうもくにも目を向けてみます。
スカイバレーの入り口あたりで真っ赤な実がたわわに実っているのを車中から見て、はてこんな所にガマズミが、確認せねばとずっと先に車を停めて戻ってみたら、葉の形でカンボクと知れました。私は植物園以外では見たことがありません。
ユウゼンギク。この旅の至る所で薄紫の花を陽光に輝かせていました。しかし困った、名がわからない。北日本で野菊に迷うことはないと思っていたのに、当てはまるものが図鑑にありません。探して探して、帰化植物図鑑で見つけました。北アメリカ原産の園芸植物で、ヒトの庭から逃げ出して寒冷地で広がっているそうです。決して悪さをする種ではないので、歓迎しておきましょう。
ヤマウルシは山の彩り。
ツタウルシ。よく日本画の画題になり、盆栽にも使われます。ただしウルシよりもかぶれが強いのでお気を付けを。
こんなツタウルシもありました。錦秋という字そのものです。
道沿いの紅葉がいい塩梅なのを、今日も安全や迷惑を考えながら車を停めて、足で稼ぎます。
昨日の絶景展望台。残念ながら磐梯山は見えません。実は今日もこのあと晴れる予感はあったのですが、特にこだわりません。あるものをあるがままに。
「これは5日遅いな、うん5日だ」この風景を見ていたら、関東ナンバーの車で来た初老の男性が聞いてもいないのに話しかけてきました。たぶんこの年代にありがちの、通ぶった口がききたい方なのでしょう。「当たれば、ここが一面真っ赤になるんだよ」それは大げさ。樹種はブナですよ。…… まあ言わせておきましょう。私にとって今この風景は十分に感興を呼ぶものです。そもそも昨日から見続けたすべてがここの紅葉として私の記憶とハードディスクに残ります。なんぞ文句があるものか。
最後はダケカンバやカエデよりも、ブナの渋い色合いに心奪われておりました。
幼木から成木へと順に並ぶ林縁のブナ。日本の温帯林を代表する木です。これから長い眠りの季節に入ります。どうか雪に負けることなく。
冬支度を急ぐ樹々の姿を見届けることができました。本当に来てよかった。
やっぱり謎は残ります。なぜフクシマはスカイバレーを邪険にする。調べて分かったのは、この道が山形県の県道2号線だということ。福島県にまで入り込んでいますが、実は山形のモノだったんです。開通記念碑も山形側にありました。だからといってあの地図は大人げないとしか言いようがありませんが、西吾妻スカイバレーが実在することだけは確認できた山越えでありました。
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