【虫】回ですよー。
晴れ上がった空を見て、気温が上がるという予報を聞いたら、そういうことに敏感な生き物がいることを思い出しました。本当に久しぶりに思い出しました。卒業研究が「蝶」だったことも。
というわけで県北山地に来ました。骨の髄から茨城県人の私には、県境はドーッと滝になって落ちている感覚があって、ここ福島県近くはすでに心象世界の北の果てです。え? 福島に失礼だろうって? いえいえ栃木も群馬も千葉も、ヤリ持った原住民がいる怖いとこだって小学校で教わったぞ。トミタ先生お元気ですか、ボクは相変わらずです。
先に言っときますが、決して珍しいもんは見てませんからね。そうそう毎回福音はありません。
車を降りた路傍にいきなり黒い蝶。知ってるぞお前。
翅を開けばクジャクチョウ。成虫越冬なので翅が痛んでいます。どこでどうして極寒の県北を生き抜いたやら。
キタテハ。食草のカナムグラははて、この山中では見かけませんが。これも翅はボロボロです。
シータテハ。キタテハと近縁ですが山地性。もっとも昔は水戸市内にいたとか。これも食草のエノキを山中では見かけません。翅がキタテハほど痛んでないのは、越冬場所の選択がより注意深いということです。
アカタテハのメスが産卵しようと藪の中で食草を探し回ってます。冬を乗り越える力のある者だけが、次の世代を残す決まりです。
以上、成虫越冬のタテハチョウ科でしたが、蛹越冬のメンバーも元気に春をことほいでいます。
ミヤマセセリがモミジイチゴで吸蜜しています。この翅色のおかげで誰からも褒められることのない「春の精」ですが、まあ本人のあずかり知らぬ話ではある。
わあ、サカハチチョウの、たぶんメス。早い発生です。例年より強めの日差しに、蛹の殻を脱ぐのが少し早まったかな。
幼虫越冬のシジミチョウも羽化してます。ツバメシジミ。目立つこともないけれど、小さい体とありふれたマメ科が食草という小回りの良さで、種の存続を誰にも脅かされることはありません。そういう生き方。
ベニシジミも簡便な生き方で繁栄しています。生きること、増えることが生命の存在意義であるならば、美しさまで兼ね備えたこれはもはや奇跡です。…… すいません好きな蝶なので。
フデリンドウきれい。深い山の中、陽光は強く風は冷たく、ウグイスのさえずりが響く谷間です。暑くもあり寒くもあり。…… 世界のどこかには、今日はTシャツにしようかダウンを羽織ろうか、毎朝そんなことを考えねばならない国もあるそうだけど、一年中こんな気候なのかなあ。
山菜になるニリンソウと猛毒のトリカブトが仲良く混ざっちゃって。毎年中毒事故があります。きっとこんな生え方してたんだろなあ。ひょっとして狙っているのかも知れません。いっちょ人間をヒーヒー言わしたろか、とか。
ミツバツチグリの花があらきれいと見ていたら、来ましたよ「春の毛玉」が。ビロウドツリアブはこの季節だけの空飛ぶぬいぐるみ。あああ触ってみたいぞお。
この尻が、この尻がああ…… って、性癖を疑われそうなのでこれくらいで。丸いもふもふボディに細く長い脚。神さまは何を考えてこんな生き物を作ったか。
風に吹かれるキクザキイチゲを撮っていたら
その一枚にホソヒラタアブが写りこんでいました。ああ虫の季節の始まりだ。
谷間の水たまりにクロサンショウウオの卵のう。一時期森林伐採の影響でこの水たまりが干上がったときにはどうなることかと心配しましたが、何とかなったようです。先のシジミチョウのような逞しい連中もいれば、たった一つの水たまりを拠り所にする生き物もいるわけで、まあ横領のいいやつ悪いやつ、自然界も多様です。
さあ帰ろうと車に寄ったら、青空とヤマザクラがまるでテレビ番組のワンカットのように映り込んでいて、思わず自撮り。
退職してまる1年、お誘いも断って、いっさいの仕事から離れて好きなことだけで過ごす日々でした。家族への義務は果たしたし、仕事ではそれなりに認められもしたし。でもそのために多くのものを失い、あるいは深いところに沈めました。いえ、自分で望んだことです。すべてに区切りをつけたところで、社会人として身に付けたことを切り捨て、かつての感覚を取り戻す、これはつまりリハビリの1年でした。
おのれの魂に呼びかけ、天地の声に耳を傾け、失ったわざを取り戻す。そうなればきっと、今よりできることが増えそうな気がする。…… って
待て。待て待て待て。
おマエは何になる気だ。魔法使いか中二病のジジイか。我ながら、手段のためには目的を選ばないというこの性癖に呆れる日々であります。
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