ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

山歩き。目的は忘れた

 

     
      そういえばサイハイランがあったっけなあ。


 突然そんな記憶が湧き出ました。この冬に、常緑の葉を広げる姿を見つけていたんです。そろそろ花期だなあと。

 


 やって来ました水の谷。このところの降水で沢の水量は豊かです。背後の森に分け入ります。

 


 咲いてた。でも残念、盛りは過ぎていました。

 

         
 サイハイランは咲き初めの一瞬、このたくさんの花がピンと横に張ってそれは立派な立ち姿を見せます。でもそれは本当に一瞬。やがて皆うなだれて悲しそうな姿に。この個体も花数が多いのは褒めてあげたいけど、ほんの少しだけ盛りを過ぎてました。いや本人に罪はない。

 


 別個体。これはもっとうなだれて。

 


 ちゃんとランらしい花です。茨城のはやや花色が薄いような気がします。

 


 この時はむしろ、ヒイラギソウの群落を見つけたのが戦果かな。希少な植物です。春の花をいずれご覧に入れます。あ、写真で白く見えるのは別の花の落花ですよ。

 


 さてどうしよう。サイハイランの大絶頂期を見られなかったのが小さな心残りになりました。低地のはみなこんなものでしょう。高地ならまだ咲き初めのがあるでしょうけど、私の知る産地にそんな場所はない。…… 探してみようかな。

 


 思いついたのはこのブログでおなじみ鍋足山。春の頃は雪割草目当ての方々でかまびすしい(ごめんなさい)けど、この季節の平日なら静かでしょう。これまでサイハイランに気付いたことはありません。これは一つ、普段歩かないルートで探してみよう。

 


 やって来ました鍋足山。いつもは左の道から本峰(Ⅰ峰)を目指しますが、今日は右を登って「三角点峰」を越えて行こう。一気に高度差300メートルを詰める道です。わあ久しぶり、大丈夫かなわし。何がってのは後述します。


 はいここから写真3枚、足の多いのと少ないのが苦手な方は【閲覧注意】でお願いします。ここで言われても困るでしょうけど。

 

 

 


 山道でよく出会うオオセンチコガネ、私の姿に慌てて落枝の陰に。どけて見れば怯えた複眼がこちらを見上げてました。写真だけ撮らせてね。

 


 ヤマカガシも少し慌て気味にやぶへと消えていきました。人を殺せる毒があるからといって、それを無闇に使う愚か者は自然界にはいません。

 


 特大のヤスデがいた。脇にいる小さいのもタマヤスデという同類です。朽ち葉を食べてました。拡大写真は自粛しますね。このあたりの森には、もっと巨大で肌色をしたニクイロババヤスデという化け物がいます。長虫嫌いの人には一生もんのトラウマになるでしょう。まあこれも多様性です。

 

 


 イチヤクソウの盛大に花芽を付けたものがありました。6月は森の花の一つの開花期です。

 


 やがて登る道に集塊岩の岩場が現れ始めました。この地域を代表する環境にこの地域を代表する植物が生育します。まずはイワヒバ。これも山草業者に狙われるものですが、今ここでは増加した登山者による踏み付けが最大の敵です。

 


 ナガバノキリンソウ。花期は夏。

 


 シモツケ

 


 マルバマンネングサ

 


 一番減ったのがこれ、イブキジャコウソウ。こう見えて草ではなく低木で、踏み付けにものすごく弱い。雪割草目当てに団体で登ってくるような人間にはもちろんその姿が見えず、遠慮なく踏まれて消滅しています。今日の行程では1カ所でしか確認できませんでした。ハーブとして知られる「タイム」とほぼ同じもので、踏み潰される瞬間まるで悲鳴のように芳香を放ちます。

 


 さて、道はついに稜線に出ます。さあここからが問題です。何がって? それはこれまでブログ記事で私がこの道を避けていた最大の理由、ここから三角点峰までの、またそれを越えてからの道が狭い岩場の稜線歩きで、ところどころ両側が切れ落ちたナイフエッジになること。そして私の数多い弱点の一つにして最大のもの、それが高所恐怖症なのだあ。


 いや本当に怖いんですよ高いとこ。脚立の上でさえガクブルになるのです。プロの登山家の方が、落ちれば二千メートルくらい一直線に転がるような雪の稜線を歩いたり、クレバスに渡したアルミ梯子の上を歩いたり、見ているだけで気が遠くなります。こいつらバ〇か超人かくらい思ってしまいます。まったくほんとにごめんなさい。


 鍋足山で怖いのは歯ぁ食いしばって歩く集塊岩のてっぺんの道。横を見るな、下を見るなと自分に言い聞かせながら進みます。わし何のためにここにいるんだっけ。いや問うな迷うなとにかく進め。途中で草葉に隠れた切り株に思いっ切りすねを打ちましたが気にする余裕はありませんでした。

 


 やっと出ました三角点峰。

 


 鍋足山の峰のうちの最高峰。

 


 向かいに見えるのが左に本峰(Ⅰ峰)右にⅡ峰。

 


 これで終わったわけではなく、下りも岩場は続きます。カメラは万能無敵の「権三ゴンゾーさん」なのに、撮る本人がガクブルなのでピントが合わない。

 

     
 途中の鞍部に枯れて立つのが、かつて本峰から見る八溝山の姿にワンポイントを付けていたアカマツです。なんて哀れな姿に。最後にその記事のリンク貼っておきますね。

 


 そして道は森を下り、とうとう見慣れた風景にたどり着きました。静かの谷に到着。

 


 あ、「静かの谷」ってのは私が勝手にそう呼んでいるだけですからね。

 


 断崖に囲まれた北向きの谷間です。いつでも静謐な空気に満たされています。奥で1本の木が倒れてそこだけ陽が射しこむ「ギャップ」ができていて、これは新たな木が育つ苗床になります。

 

   
 周囲の岩壁にイワギボウシイワウチワ。夏が花期になります。キレイだろうなあ。

 


 トチバニンジン

 


 アラゲコベニチャワンタケ。こなれてない名前ですけど普通種です。

 


 コンロンソウの果実をスジグロシロチョウの幼虫が食べてます。生きるため。

 


 これは何かの実生、たぶんトウゴクサバノオ。どれかが生き残って、あの白い清楚な花を見せてくれるはずです。さあ山を降りましょう。

 


 降りたところで見かけたタチクラマゴケ。こう見えてシダ植物。

 


 立ち上がった茎にソーラス、つまり胞子のうのカタマリができかけてます。生殖器官です。こんなものでもちゃんと1年のめぐりと種としての義務を果たそうとしているんです。

 


 野山を歩いて目にするのは「生きること」と「子を残すこと」に必死な生き物たちの姿です。センチコガネだってヤマカガシだって今日の糧を得るために、そして自分が他の糧にならないようにいつも全身全霊を傾けています。私が好んで被写体にする花やキノコに至ってはあれはまさに生殖器官、彼らはそれを作るために日々エネルギー生産に打ち込んでいる。そしてそれを見る私は、人はどうあるべきかと考え込んだりするのです。

 


 サイハイランを見るためのはずが、大変な山歩きをする羽目になりました。明日の筋肉痛が心配です。

 

 

 

 

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