ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

カキランと約束と

 

         


 また写真 50 枚超えました。真打は最後なのでちゃーっとスクロールして構いません。


 ようやくニイニイゼミが鳴き始めました。例年より遅く、すべからく花期を早めている花々とは対応が違うようです。水戸はまあ暑いは暑いのですが、午後に海からの風が強まるこの季節は耐えがたいというほどでもありません。東京や関東内陸諸都市と比べれば、ですけど。


 今年は絶滅危惧の花を一つでも多く見てやろうと意気込んでおりましたが、6月にもろもろの雑事に足を取られ、花期のごく短い野生の花をかなり見逃すことになってしまいました。それでもせめて、と思っている花があって、それが今日のネタ「カキラン」です。山の湿地に群生する小ぶりの美しいラン。まだどこかに生き残っていることを願って、雑事の合間の6月半ば。

 


 古い記録を辿って袋田の滝の上流、大子の山間部に来ています。湿原に点々と咲くのは

 


 ハナショウブ。とりあえず県のレッドデータで「準絶滅危惧」。

 


 その園芸種ハナショウブもあって混乱します。かつては耕作地だった場所なので、お百姓さんの気まぐれで植えられたのでしょう。

 


 ヒメシロネ尾瀬ヶ原にも生えてます。

 


 オニスゲ。これは普通種。

 


 周囲にはレンゲツツジが茂ります。花期にはさぞ美しい湿原であることでしょう。

 


 ショウジョウバカマもあった。

 


 ごく一部には水田が残されて、トウキョウダルマガエルが憩っておりました。

 


 一通り見て、これ以上のものはないと判断して戻る途中、地図にない道がありました。道沿いの電柱も新しい、比較的最近に拓かれた道のようです。

 


 もちろん行ってみるのだ。登り切ったところが開けてます。異界に通じる門のよう。

 


 ぱあっと広がったのは斜面に広がる畑でした。農家が2軒。道路はここで途切れます。あの道が拓かれる前は、少なくとも手前の家は徒歩でしか行き来できない山上の庵だったことでしょう。かたわらの車庫には軽トラとクラウン。茨城では普通の組み合わせです。山中に住まおうとも下手な都会の人間より豊かな人が多い、当地の県民所得は全国トップテンから外れたことはありません。

 


 手前の農家に人がいます。こちらに気付いてくれたところで、大声で挨拶しました。挨拶を返してくれたので重ねて来訪の許可を求めると片手をあげて許諾の意、いそいそと家に向かいます。

 


 フィールドで出会った現地の方には必ず挨拶するよう心掛けてます。笑顔で声をかけ、三脚とカメラを見せてお花の写真を撮りに来ましたと言い、土地の美しさを褒めるとそれで大抵は信用してもらえます。よそ者と話すのが楽しいという方ばかりです。この時も、穏やかな良い人生を歩んできたのが伝わるような、実に滋味あふれるお顔のご老人でした。今日はサツマイモの植え付けをしたこと、今は樹々が生い茂ってしまったが父の代には山一面が畑だったこと、下には田んぼもあったこと、以前は日立まで勤めに出ていたこと、身体を壊したこともあったこと、食糧は自給できてむしろ出来過ぎた作物を配ったりしてること、町のカルチャーセンターで習ったクラシックギターの練習に余念がないこと。縁側から雄大な空を見上げながら、私より永くこの世にあるその方が人生の有りようを語ってくれます。よく手入れされた庭にオキナグサがあったので聞くと、以前はこのあたりにいくらでも生えていたと。そして先ほど私が見た湿原に、数十年前は確かにカキランがあったことも教えてくれました。麦茶とアイスをごちそうになり、欲しかった情報も得ることができました。聞けばカキランの花期は7月後半なのだそうで、その時期に再訪することを約束してお別れしました。

 


 で、6月末。今年は花期の早まる傾向なので、早めに行動開始です。カキラン探索にかこつけて県北の湿原を巡ってみようかと思います。まずは春の頃にご紹介した廃村の先の湿原に向かいました。途中まで車で行けるのですが、例によって林道の始めから歩きます。往復8キロ、季節の花に触れながら。

 


               ホタルブクロ

 


                イチヤクソウ

 


                 チダケサシ

 


                 アカショウマ

 


           アキノギンリョウソウ
、の枯れ姿

 


 登るほどに森は深くなり

 


 峠を越えて

 


 湿原に到着です。春には冬枯れの光景でしたが、今は花の姿が。

 


 ノハナショウブ。ここにもあったか。

 

         


 ミズチドリ。咲き初めの純白の姿に行き会えました。

 


 カヤツリグサ科は守備範囲を外れますが、これはアワボスゲでは。

 


 茨城では貴重なサギスゲ

 


 マンネンスギは新しい胞子葉を伸ばしておりました。

 


 実はトキソウとヒメザゼンソウを期待したのだけど、花期は終わってました。いかんやっぱり季節の足が速いぞ。

 


 こちらも急ぐ必要があるようです。日を改めた7月初め、この日は何か所も巡るつもりで早めに家を出ました。阿武隈高地隆起準平原という地形で、山の中に小さな湿原が点在します。歩けば何かに巡り会う、必ずね。

 


 一か所目。日立の入四間いりしけんという辺りの集落の奥、昔イモリを探し回ったことで土地勘がある場所です。かつては谷津田があり、今は一斉にセイタカアワダチソウが萌芽する湿地にぽつんとオオバギボウシが立ってます。

 


 擬宝珠ぎぼしという名の元の花蕾。似てるかなあ。

 


 一面のクサソテツ。春先にはコゴミという名の美味な山菜です。もう採る人もいないか。

 


 ショウブ。アヤメではない本当の菖蒲。野生なのか植栽なのか判断に悩みます。

 


 そして、ガマの間に黄色い花が一面に咲く原野に出ました。

 


 クサレダ。「レダマ」というマメ科の低木に似た草なので付いた名ですけど、これもさほどは似ていないし、他の花の名を借りなくても十分に美しい。「腐れ玉」じゃないのよ。私は見たかった花なので嬉しい出会いです。

 


 華やかさがウリのサクラソウ科…… なんだけど、困ったことがあります。いくらカメラの設定を変えても、肉眼で見たときの強烈な金色を写し取れないんです。ヒトの網膜とカメラの撮像素子の性質の違いだと思います。

 


 やっぱりノハナショウブがあった。絶滅危惧のはずなのに、県北の湿原には必ずあります。花期が長く、花が大きく目立つのでむしろ湿原を探す時の良い目印です。ただ、湿原というのは人間がその気になればすぐに開発で消滅し、放っておいても「遷移」で乾燥化して消滅します。ノハナショウブは守るべきものの指標として大切なんだと思います。

 


 ここでは草刈りに来た養蜂業者の方と話が弾みました。巣箱を置くのに土地を借りたら、周囲の草刈りが義務なのだそうです。四季を巡りながらミツバチを追う日々の苦労と楽しさを語るお顔は、正しい労働に裏打ちされた自信に満ちておられました。違う人生を歩む人の話は、何につけ勉強になります。写真は、草刈り後に萌芽したベニシダです。

 

 


 車に戻ってまた移動です。今日は山と谷をいくつも越える、阿武隈高地を縦断するルートを行きます。茨城の道は山中であろうとよく整備されていて快適です。窓を開放して窓外を楽しみながら進みますと、谷間に残された水田の斜面に紫の光。ノハナショウブ、本当に良い目印です。

 


 ここは以前真夏にコオニユリが咲いていて、いつかゆっくり見てやろうと思っていた湿性の草地、この花がなければ見過ごしていました。

 


 ウツボグサも心なしか下界のものより鮮やかです。

 


 オカトラノオ。これもクサレダマと同じサクラソウ科。

 


 フレームにホソヒラタアブが割り込みます。

 


 ノアザミ。この草地は、これからヤマユリやらカワラナデシコやらでにぎやかになります。

 


 さらに移動して、谷間に田んぼと湿地が混在する山里に来ました。ここでもノハナショウブが目印になりました。ん? でもそれだけじゃないぞ。

 


 ノハナショウブ! ミズチドリ! クサレダマ! わああ三種混合、オールスターだ。そしてその根元に、ついに

 


 カキランがありました。

 


 不思議です。今回ご紹介した中で一番人家に近い場所です。なのに一番希少なものがあり、一番多様性に富んでます。他に見られたものは

 


 ミツモトソウ。いざ探すと見つからないバラ科

 


 わああドクゼリがびっしり繁茂してる。こんな人間の生活圏で、セリと間違って摘む人が居なければ良いのですが。猛毒ですが近県では野生絶滅してたりします。

 


 アキアカネは普通種としても

 


 クジャクチョウが生息するにはかなり低標高地です。ここは何か特別な場所らしい。


 それでは改めてカキラン、接写も含めてお楽しみください。

 


 他の花は湿地のあちらこちらに咲いてましたがカキランはごく狭い範囲のみ。今回の一連の花々の中でも、特に守られるべき者です。

 


 これで当面の目的は達せられましたが、完結ではありません。そう、冒頭の大子の湿原です。記録のあるかの地にカキランが残っているかどうかは確認されねばなりません。何よりあのご老人に再訪の約束をしました。またあの素朴なお顔の昔話を聞きたいと思います、ぜひ近日中に、カキランの花があるうちに。


 手土産は水ようかんがいいかなあ。

 

 

 

 

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