ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

ブナの森の惡の華

 

       
 今日の行程の最後にこんなものを見ました。ベニナギナタタケという食用キノコです。記事で今回の主役が出てきたらどうか見返してやってください、似て非なるものです。話の性格上いろいろと不気味写真あります。どうかお覚悟を。

 


 前線が通過して気温が下がりました。夏の残滓が漂う、森に潜るなら今。

 


 というわけでやって来ました北茨城市花園のブナの森。昔から私の冬虫夏草のフィールドで、少なくとも 20 年前には来れば必ず戦果があったものです。ところが近年は不作続き。かつては高さ 10 センチに及ぶ巨大サナギタケや珍種キイロクビオレタケを見せてくれた森も、最近は普通種のハナサナギタケすら危うい。なにが起こっているんだろう。

 


 車止めの目の前に巨大な傘ふたつ。夏キノコのイグチ類は元気です。さあ森に潜るぞ。

 


 今日は少し無理をして、大回りにこの壮大な夏緑樹林を巡ろうかと思います。一度何かに魅入られたかのように手ひどく迷ったことがある森です。気を付けねばなりませんが、かつて森の中に縦横に伸びていた道は消えかけて状況は厳しい。森に入る人が本当に少なくなりました。

 


 その中で変わらずここをフィールドにしているのがつくばにある森林総合研究所の人たち。今日は自動撮影カメラが設置されてました。動物でも調べているのかな。変な男がやたら写り込んでいます、ごめんなさい。

 


 まず進むのは尾根道。道は消え「ヤブ漕ぎ」ですけど、ササ(スズタケ)が開花して枯れたので思ったより歩きやすい。10 年ほど前に奥久慈男体山や袋田でそういう現象が見られましたが、県内のスズタケはそういうターンに入っているのかな。

 


 こういう深い森にも野生のコナラの巨木があります。気になるのは下界同様にキクイムシが猛威を振るっていること。数年後には枯れたコナラの倒木がそちこちに転がることになります。ううむ。

 


 沢筋に降りると、こちらは寿命による自然倒木が近年目立ちます。これはミズナラ

 


 こちらではホオノキ

 


 多様性の高い森では、大木の枯死は「死」ではありません。まず材はキノコの苗床になります。これはまさに木を分解中のコフキサルノコシカケ。以前から不思議だったのは、「粉吹き」と言うくらいのこのチョコレート色の胞子。なんで胞子を吹いたそのキノコの傘に降り積もるのかなと思っていましたが、国立科学博物館の細谷 剛先生の本を読んで謎が解けました。キノコの傘と胞子が、プラスとマイナスのように逆の電位を持っていて引きあってしまうんだそうです。へええ。

 


 分解された材には苔も生えます。シノブゴケの仲間が歓喜の花を咲かせてます。

 


 その倒木の上に、おおおこれはオニクワガタ。レッドデータではないけど、高所の朽ち木に棲んでいて樹液に集まる性質もないので、見ようと思って見られるものではありません。ええもん見た、と思わせてくれました。

 


 沢の流れの傍らにカメバヒキオコシ。カメのしっぽみたいな葉先には意味があると、最近何かで読みました。

 


 拡大。ちょっとスガれた花を選んでしまった。

 


 オタカラコウの群落。

 


 ヒトの網膜とカメラの撮像素子は微妙に特性が異なります。ある種の花の濃密な黄色は、なかなか見た感覚の写真になりません。夢の中でもつれる足のようにもどかしい。以前クサレダマの花にも手こずりました。

 


 やっぱり冬虫夏草はありません。そういえば初めてカメムシタケを見たのもここでした。そののちに百個体以上が群生する大発生に遭遇したりしました。みな昔の話です。

 


 樹の幹になんかある。顔?

 


 ショッカーの怪人だああ。いやキツネ面にも見える。なんだこりゃ。…… 実はこれ、ムシカビという菌類にハエが食われたものでございます。翅がキツネの耳と目、胸部もいいあんばいに顔の造作になってます。うまいもんだなあ。ムシカビはボーベリアとも言い、さまざまな昆虫に取りつきます。今は培養されてカミキリムシの防除に使われたりして人の役に立っているんだから偉い。かつては冬虫夏草とは別扱いでしたが最近は虫草図鑑に載ってます。よしこれでボウズ(無戦果)は免れたぞ。…… 沢筋はここまでにしましょう。最後の尾根に取りつきます。

 


 下草の中に一輪だけ、ごくごく小さな花がこちらを見上げてました。生まれて初めてヒトを見たなんて顔してます。

 


 てっきりオオヤマフスマとかのナデシコ科と思ったのですが、寄ってみると顔つきが全然違います。ゲンノショウコを小さくしたような、これフウロソウ科だ。

 


 帰宅後に調べて、フウロというものと知りました。こんなかそけき風露草があるとは知らなかった。暗い暗い森の林床で、群落を作るでもなくぽつんとひとり。こんな寂しい生き方を、と人は思ってしまうのですがまあ好きでそうしているのでしょう。

 


 登るとともに方位が変わって、林床に陽が射してきました。眼前の斜面から、赤い光が強烈に視界にアピールしてきました。なんだ?

 


    (藤岡 弘の声で)出たなショッカー!

 


 猛毒キノコ カエンタケ。とうとう出るモンが出た。今日という日はこのためにあったと言い切ります。

 

    
 とにかくたちの悪い猛毒を持ちます。触れるだけで皮膚がただれ、食べようものなら多臓器不全と脳障害を起こし、助かっても小脳萎縮・運動障害なんて恐ろしい後遺症が残るという凶悪さ。私はこれにシャグマアミガサタケ・ドクササコを加えて凶悪三姉妹と呼んでます。幸か不幸か三種ともこれまで未見でしたが、図らずも出会ってしまいました。

 


 一本のコナラの根元からにょきにょきと十個体以上。たぶんこのコナラは枯れかけています。キクイムシが猛威を振るう中で心配されているのが、枯らされたコナラを苗床にカエンタケが大量発生するのではないかと。カエンタケは従来珍種扱いでしたが、最近街なかの公園にも発生するようになったとニュースで言ってました。

 

       
 どうか皆さん、この姿を目に焼き付けてください。いつの間にかあなたのそばにそっと佇んでいますよ。悪い笑顔を浮かべながら。

 

 

 


 帰り道、マタタビをたくさん拾いました。型のいいのが落ちる季節で、茨城ではいくらでも拾えます。いずれ記事にしますね。

 

 

 

 

↓ 濃密な生命の気に満ちた森。

↓ 残骸は御岩神社で見ています。

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