「明日の日曜日、予定が空いたから那珂川にカッパ探しに行こう ♪」と言ったら
「あぁ?」と、どこから出たかわからないような低い声で返されました。家庭内ですら浮いているジノ。です。
さてその那珂川。アユとサケが自然遡上する川です。かつてそのサケの漁獲量がハンパありませんでした。関東地方ですから分布の南限地なのですが、例えば 2013(H25)年の漁獲量 105 トンというのは関東地方で群を抜いてます。同年の県内利根川水系(鬼怒川、小貝川含む)が 15 トンなんですから、まあケタ違い。
江戸時代には幕府や朝廷に献上されました。水戸光圀さまは鮭の皮が大好物だったそうです。 獲るばかりでなく、実は 1876(明治9)年に全国で初めて稚魚の放流を行ったのが那珂川でした。そんな努力の甲斐あって、近年になっても那珂川はサケであふれ、支流の田野川や相川の川底が砂利になったあたりでは、晩秋になると群れたサケの産卵行動が普通に観察できました。
2011 年 相川にて 5匹のサケがいます
さあここからは、私が子供時分に見聞きしたこと、と断っておきます。
那珂川のサケは漁協の管理下にあって、漁協員以外では特別な許可を得ておカネを払った人だけが、数を定めて捕獲できました。ところが漁協員ではないのに、このサケを大量に獲って生計を立てている人がたくさんいました。直接面識のある人はほんの数人でしたが、まあ、子供心にも同席するのが不快になるような品性の方々でした。それが自慢気に語るには、年に一度のこの稼ぎだけであとは遊んで暮らせるのだと。ふうんそんなに儲かるのか―― とその時は素直に思ったものですが、今にしてみるとおかしな話です。一般人に許可されるのはほんの数匹のはずでしたから。
その実態を知ったのは、後年、那珂川沿いを歩いている時でした。間隔を置いて何か所も、川に桟橋のような足場が渡され、流れをさえぎる形で網が張られてそれぞれに数人の男たちが網を上げる作業をしています。おお、まさに一網打尽じゃのう、上流・栃木県の漁師さんが茨城での鮭漁に文句つけるのも無理ないなあなんて見ておりました。さあそこに下流の方から現れる白い大型ボート。実はただのプレジャーボートだったのですが、男たちには監視船かと思われたようです。
バシャン! バタバタ! え? え? 何が起こったのかわかりませんでした。先の男たちが網をほうり投げて我勝ちに岸へと逃げ出したんです、脱兎の如く。あっちの網でもこっちの網でも、さながら稲田からスズメの群れが飛び立つかのようでした。そして理解しました。この人ら、全員密漁者 だああ。
あとから聞いたことですが、通常このような緊急事態は起こり得ないんだそうです。なぜって、漁協の監視船が来る日時は事前にわかっているから、あはははは。
なるほど、これが一年遊んで暮らせる理由ですか。場所取りに絡んで密漁者同士のトラブルが絶えなかったそうですよ。まあ昭和の時代のこういう田舎にはよくあるお話でした。繰り返すけど伝聞の、それも昔のお話ですからねー。
そこで一つ、他人ごとながら心配しています。この人らは、今は何で食っているんだろう。許可不許可はともかく、鮭漁で生活してる人はたくさんおられたはずです。実はそのサケが、2019(平31/令元)年からパタリと、まるで幕が下りたかのように遡上しなくなったんです。
県の統計年鑑の数値からグラフを作ってみました。
おわかりでしょうか。2016 年に第一段階、2019 年にダメ押し、2021 年にとどめを刺された感じです。統計表にあったのはこの年までですが、その後ほぼゼロにまで落ち込んだと聞きます。サケが那珂川から消えてしまいました。あのデカい魚が川底でバチャバチャしているのを橋の上からおーとか言って覗いていた、自然の豊かさを実感できる風景は過去のものとなってしまいました。
何もいない今年の田野川。こんな用水路が、かつてはサケで埋まってました。
何があったのかわかりません。これが那珂川だけの現象なら人為的な理由がいくらでも思い付きますが、実は北海道から本州にかけて、太平洋側のサケはまったく同じ傾向なんです、特に本州で。岩手県全域や奥入瀬川での漁獲量がほぼ同じグラフになっているのに驚きました。こういう現象をすぐ温暖化で説明しようとする人がいますが、少なくとも 2013 ~ 2021 年の陸地の年平均気温は安定しておりました。やっぱりわからない。国の水産資源研究所の報告では親潮の弱勢化と海域の暖水化、親魚の成熟の若齢化なんてのを上げていましたが、どれも決定的な理由にはなっていないようです。とにかく那珂川からサケが消えました。黄門さまに何と申し開きをしたものか。皮を、あの鮭の皮を食いてえよおお~っ ← 黄門さまはこんなこと言わない。
那珂川より北、これは里川が久慈川に合流する手前でアユ釣りをする人。上弦の月に見守られながら竿を振っていました。アユの遡上に大きな変化はないようです。こういう、ただ一人で自然と語り合うような魚採りは、私にも好ましく思えます。
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