背景写真は佐久間あすか展から etude シリーズの拡大です。併せてお楽しみください。
毎朝5時過ぎに目を覚まし(年寄りですね)、ストーブ点けてお湯を沸かしてシャッター開けて新聞取って…… という朝のルーティンを始めます。そうして始まる一日ですが、日々変化するのは太陽の動きだけではありません。それなりに何かしらはあるものです。
先日、携帯してなかった携帯電話に着信と留守電が入ってました。090 で始まる普通の携帯番号ですが、知り合いのものではありません。留守電を聞いてみます。
「もしもし、私、〇✕社のスズキと申します。お問い合わせありがとうございました。さっそくですがご依頼の件について詳しくお聞きしたくお電話させていただきました。えー…… よろしくお願いします」
うーむ。
〇✕社なんて聞いたことがありません。スズキさんなんてどこの世界にもおられるでしょう。社名からは、どうやら一般からネットの問い合わせで受注をする室内清掃会社という業態が伝わります。
ここまでの情報で、読者の皆さまならどうご判断なさいますか。私もいくつか考えました。
① 新手のサギ、もしくは押し売り商法である。
② 私をかたって問い合わせした者がいる。
③ 単なる間違い電話。
電話のスズキさんの声の印象から推測できるのは三十代の男性、教養があって落ち着いたデスクワークの人、なんてところかな。犯罪者によくあるはすっぱな印象はありませんでした。もっとも、携帯電話が発するのは本当の声ではなく便宜的に変換されたものなので声音からの判断は当てになりません。電話番号に関しては、犯罪に使われるのは 070 とか 080 、もしくは外国の国番号が付くものが多いので、この点も疑惑が薄い。
もちろんネットで社名を検索しました。ちゃんとHPがありました。HPがあれば信用できるかというとそれも怪しいものですが、それによるとある清掃会社から分社したばかりの新しい会社で、本社は東京。営業所の所在地を見て驚いたのは、名古屋とか大阪とかの大都市が並ぶ中にぽつんと地方都市、水戸に茨城営業所があるんです。社長が茨城出身なのでしょうか。そしてその営業所の住所が私の出身中学のそば、充分に行動圏内です。ストリートビューで見ると、新しい造りの一般住宅っぽいのが建ってます。
…… 好奇心がむくむくと湧いちゃったんだよなあ。時間はいくらでもあるしなあ。ちょっと行ってみようかなあ。
自宅から歩いて 20 分ほど。いかにも昭和な理不尽なことばかりで決して楽しい中学時代ではなかったけど、それなりに懐かしい街並みの中にその家はありました。新築の臭いがぷんとしそうな外観、3台分の駐車スペースに車が2台。表札はなく、ポストにはあの親会社の名が。横に回ってみると一部屋だけ灯りが点いてます。玄関前に戻ってピンポン一発。
屈強な大男、あるいは目つきの悪い外国人とかが出てくることも想定していましたが、ややあって出てきたのは 30 代と思しき身なりの整った女性でした。留守番担当とお見受けします。
私「こちらは〇✕社の茨城営業所ということでよろしいでしょうか」
女性「はい、そうですが…… 何か?」
「ちょっとお話を伺いたいのですが、よろしいですか」
はいどうぞ、と身を引くので玄関に入ります。下足を脱いで上がる屋内はごく普通の住宅ふうですが、玄関から応接を兼ねたダイニングまで一続きになっているのが営業所っぽいところです。駐在員はせいぜい数名、たぶん親会社ともども実際に社員が清掃業務をするわけではなく、地元の業者に委託する形なのでしょう。女性はダイニングを示してくれましたが私は玄関でいい、と断って
「実は御社のスズキさんという営業の方から私の携帯に着信とメッセージをいただきまして、それがまったく身に覚えのない内容でしたので事情が分かればと伺った次第です。こちらにスズキさんはおられますか?」
「…… そういう業務はすべて東京本社がやっておりまして…… スズキという者がいるかどうか、ちょっとここでは……」
「ああ、どこにでもスズキさんはおられるだろうし、それが私の言う方ではないかも知れないし…… いえこうしてお伺いしたのは、あ、HPも拝見してちゃんとした会社さんだというのは確認しておりますが、その、大変失礼な物言いとは存じますが、こういう身に覚えのない電話というのは、今どきはまずサギを疑いますので……」
超ド直球ストレートに困った顔をされてしまった。そりゃそうだ。
「あ、あ、こうしてお話しできたことで私の勝手な思い込みと確信できました。本当に申し訳ございません」
言葉ほどにはまだ信用してませんけど、推論②の私をかたられた可能性が大きくなりました。
「ただ御社のスズキさんから連絡を頂いたことは事実ですので、ひょっとすると私の番号を知る者が成りすましで問い合わせをしたのかも知れません。となるとスズキさんが被害者ということになります」
「わかりました。今日の業務報告のさいに本社に問い合わせてみます」
「はい、もし営業にスズキさんがおられましたら、本日〇時ごろ✕✕で始まる番号に連絡して留守電を入れたなら、それは間違いである、その番号も記録から削除してほしいとお伝えください。私への連絡は不要です。申し訳ないけど着信拒否にしてしまいましたので」
「そのように伝えます」
「最後まで名乗らなくてごめんなさい」
「いえ、こういう案件ですので仕方のないことです」
なんてやりとりをして営業所を辞去いたしました。延々と会話ばかりの最近の小説みたいですいません。あと一つの可能性、依頼者かスズキさんかが電話番号を間違えたというのがありますが、まあそれはスズキさんが気付けばいいことです。
夕暮れの街並みを歩きながら、ああいいヒマつぶしになったなあなんて考えてしまった。あの女性には多少とも不快を感じさせてしまったろうけど、私も被害者であることは間違いないのでまあ許してね。調べたり操作したり、それなりに手間も食ったから。でも読者の皆さまはこんな真似しちゃだめですよー。私なら舌先三寸で場を収める自信があったし、荒事も覚悟の上で乗り込んだんですから。すべては誰の迷惑にもならない今の立場での、ヒマの為せるワザでした。一度こういうのやってみたかったの ♥。反省もあるのでもうしません。世界人類が平和でありますように。
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