ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

光で語る話

 

    
         6月末に潮のいい日が続きました。

 


 冷たく湿った東風が海霧とともに浜を撫でていきます。かまびすしい船の汽笛も工場の騒音も、車の音も飛行機の爆音もありません。太古のままに潮騒が響く茨城の海岸です。

 


 ここは以前に地形図と航空写真で「見つけた」メノウ海岸。勇躍来てみれば実は知る人ぞ知る場所で、浜にいた爺さんに「メノウけ?」なんて言われて拾ったメノウを見せつけられ、大いに心を傷つけられたことを記事にしましたっけ。今日は2,3の釣り人がいるばかり。

 


 玉髄。

 


 メノウ。

 


 これは海松と書いて「みる」と読む、上代から知られる食用海藻。でも地元で食べる人はいません。

 


 おおお、黒メノウ。これです。こういうのがうれしい。

 


 さて、今回のも含めて海からの頂き物が溜まりました。半日かけて写真を撮りまくって、怒られない程度の写真を厳選しました。よろしければ、石の物語にお付き合いください。

 


 まずは玉髄の皆さん。

 


 一見滑らかな表面もよく見れば丸い「打撃痕」だらけです。波に煽られ打ち付けられ、それを何千回何万回も繰り返して今の姿があります。

 


 透過光ではそれが強調されて痛々しいまでの向こう傷。この石はどれほど昔からこの海にあって、試練の日々を超えてきたのだろう。私たちはただその長き苦難を推しはかることしかできません。

 


 こちらは激しくクラック(割れ)入り。ただしこれは生まれつきのものかも。

 


 縞があるからこれはメノウの分類になります。5センチ四方の海岸では珍しい形です。表面にあったであろう仏頭状構造はぐずぐずに崩れ

 


 断面にはやはり打撃痕。

 


 これは小さいながらも晶洞があるので

 


 ソコだけ光らせてみた。

 


 縞メノウ。

 


 これは長辺2センチのただの玉髄に見えたのですが光らせたら晶洞が浮き上がりました。

 


 鮮やかな赤い色をジャスパーと見て持ち帰りました。少し磨こうと紙やすりを当てたら強烈に放たれる鉄臭。赤い色の元は酸化鉄だったようです。かなり柔らかい石でした。

 


 こちらは本当にジャスパーのようです。

 


 そして大好物、シマシマの黒メノウ。

 

 近年石拾いのガイドブックが何冊か出版されたうちの2冊ほど、「磯崎海岸」という名でこのブログでおなじみの平磯海岸が紹介されていました。いずれもこの地の黒化玉髄を「黒メノウ」として取り上げていてこりゃめでたい。「黒メノウ」は私の勝手な造語のつもりでしたが、すっかり市民権を得ているようです。

 


 人間は丸が三つあるとそれを両目と口に見立ててしまうそうです。コダマね。

 


 蛍光だとちとコワい。

 


 拡大すればやっぱり打撃痕だらけ。ちなみに同心円模様は仏頭状構造が削れたもの。

 


 これはガスで膨らんだ仏頭が削れてクレーターになってます。

 


 私が「柿渋」と呼ぶ、表面がオレンジ色になったメノウ。先のガイドブックには「酸化」と説明したものがありましたがどうなんだろう。

 


 おおこれは珍しい、柿渋仏頭。

 


 透過光が見ものですけど

 


 接写すればまた違う表情を見せます。

 


 石の性状を表わすのに「魚卵状」という表現があったと思いますが、まさにこれ。よくこの形が削られずに残ったなあ。

 


 同じ光源を当てても角度によって色が変わる。言葉が変わる。

 


 石と心ゆくまで語らうには、私はまだ修行が足りません。

 


 茨城には5億年前のカンブリア紀の地層があります。百年生きることも稀な人間とは時間のスケールが違い過ぎる、長い長い石の物語です。出会ったことさえ奇跡な、光で語られる石の話をこうして皆さまと共有できる、これもまた奇跡であろうなんて考えます。

 

 

 

 

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