私が属する唯一の組織「茨城生物の会」の9月の観察会はなんと土曜の宵、鳴く虫の声を聞くんだって。なんて風雅な。
場所はここ、どーん。

東海第二原子力発電所の足元、村松海岸です。おお、再稼働に向けて絶賛強靭化工事進行中。あ、原子力関係の皆さまご心配なく。私は科学の立場でならモノを言いますが、再稼働うんぬんは政治の話なので興味ありません。
観察会の前に、村松海岸についてご説明しなければと思います。とはいえ退屈な話なので、以下の仕切りの間は飛ばしてくださって構いません。

皆さまご存じのひたち海浜公園から北へ、久慈川河口まで7キロほどの間の海岸線のお話です。海浜公園の土地がかつて「水戸射爆場」だったことは以前記事にしました(最後にリンクを置きます)。その北側には県が「ひたちなか港」を造営し、周辺は重機メーカーの工場や運輸会社の配送センターが並んでます。ここまでが旧水戸射爆場。その先、かつては水戸八景にも謳われた白砂青松の広大な海岸林、浜の大砂丘は希少な海浜生物の宝庫でした。その中にぽつんと名刹、村松山虚空蔵堂というお寺があって多くの参詣客を集め、門前町には旅館や土産物屋が軒を並べ栄えていました。お寺の裏を辿ると大砂丘に出ることができて、足が鍛えられるというので陸上部合宿のメッカでもありました。松林と砂丘、こういう資本主義の眼で見ると「何もない」土地は狙われるのが常です。ここは日本初の原子力施設が建設されることになり、今の呼称で言う日本原子力研究開発機構、大強度陽子加速器施設(J-PARC)、東大工学部原子力工学科などのこまごまとした出先施設、そして原子力発電所。久慈川の手前までびっしりと埋め尽くします。もちろんこれらは厳重なフェンスで囲われて一般人は自由な往来が出来なくなり、大砂丘は開発で消滅しました。いまや海岸と呼べるのは新川の北側1キロほど。これが現在の村松海岸です。ここに出るには新川沿いに残された車1台幅の自動車道と、お寺の裏からの一筋の徒歩道。こちらは申し訳程度にフェンスの一か所が開けられてます。それも上記の J-PARC の工事の際は遮断されて、門前町の陸上部合宿が絶えました。この J-PARC に関しては一度そこの研究者のお話を聞く機会があったのですが、これがまあ空前絶後に俗悪な人物で、のちに実験手順の不手際が問題になったことも含めてこの施設のイメージが固まりました…… は個人的な感情です、すいません。

さて観察会ですが、国道沿いの駐車場を 16 時に出発して、お寺の裏から徒歩で松林を抜け海岸に出ます。すでに多人数のグループが楽しそうに声を上げていて、その方々のものでしょうか 10 台ほどの車があります。これからバーベキューを楽しむようで、なるほどこういう方々には格好の場所です。私には何が楽しいのかわかりかねますが、とにかくお邪魔はいたしません。
それよりも問題なのは、鳴く虫観察会ということでコオロギ類の専門家が講師のはずが、なんとコロナに倒れました。あ、生きてますよ。そこで急遽私が講師に指名されました。あああ「組織」に深入りしたくないのにい。

でもさすが一騎当千のメンバー、海岸ではそれぞれに自分の好きなものを観察しています。

ボクの年の離れたお友達ふたり。いずれも私の子どもの頃みたいな昆虫少年。流木の下の昆虫を探してます。この子らがいるから私は観察会に参加するんです。

オオハサミムシ。久しぶりに見た。

エビガラスズメの幼虫はヒルガオ科の葉を食べます。ここではたぶんハマヒルガオ。

秋の陽がスポンと落ちました。闇に包まれる村松海岸。遠景にあるのは火力発電所です。草むらが松林に移行する辺りに移動して、鳴く虫鑑賞会の始まりです。さあ読者の皆さん、唱歌に歌われる虫の声、いくつ聞いたことがありますか。
スズムシ・リーンリンは飼育されるものを聞いたことがあるでしょう。ここ村松海岸では野生のが盛んに鳴いてました。
コオロギ・コロコロ、これはエンマコオロギの声ですが、これを含めたコオロギ類も賑やかです。実は希少種が混じっているはず、でも専門家がいないので、はて。
クツワムシ・ガチャガチャ、はっきり言って近くで聞くと騒音です。水戸で鳴いてますけど村松にはいませんでした。これ以外にもカネタタキという小型種が賑やかに鳴き競っておりました。
さてしかし、マツムシは? 唱歌でチンチロリンてやつ、聞いたことある? 我が読者でも少ないのでは。これには生息環境の問題もあって、なぜ「松虫」かといえば、これは海岸の松林に棲むことから付いた名なんです。秋の夜にそんな場所を歩く粋人にしか聞く機会がない。かつてはいたのかそういうひと。内陸にも産地はあります。
生息場所だけではありません。マツムシの住まう自然度の高い海岸の松林や砂浜は、それ以外にもこのブログで紹介してきた珍奇で希少な動植物が生息し、訪れた人の心を癒し、時に自らを高めようとする人の鍛錬の場となります。でも企業と政治家と役人と、つまりは資本主義という体制から見れば「何もない土地」で「開発」の対象です。かくしてマツムシの分布北限に近い茨城県では絶滅が危惧される状況となりました。
おわかりでしょうか。今日の観察会の目的はこのマツムシなんです。ここ村松海岸は県内で数少ないマツムシの生息地、ぜひ今のうちに聞いておこうという趣向なのでした。

耳を澄ませます。紛らわしいのはカネタタキのピッピッピという声。やがて…… 聞こえました、マツムシの声。参加者全員がこの有名な秋の虫を実体験し、おのれの内なるナチュラリストの血肉に変えることができました。
実際のマツムシの鳴き声は「ピッピリピッ」と聞こえます。2秒そこそこの性急な発声。いったい誰がチンチロリンなんて、茶碗でサイコロ転がすような優雅な「聴きなし」をしたんだか。YouTube にいろいろな方が動画を投稿してらっしゃるので、ぜひあなたも聞きなしてくださいませ。
とまあ特に事件もなく観察会は終了です。帰路は遠回りになるというのに新川沿いの自動車道をぞろぞろと帰ります。これで歩いた距離は 10 キロにもなり、子供たちは駐車場に帰り着く頃にはぐったりと。いつもながらそういう配慮のない観察会でした。
最後に一つ気付いたこと。帰路の新川沿いの道は村松海岸に車で出入りする唯一の経路で、ところどころ退避スペースはありますがキホン車一台分の幅しかありません。そこにバーベキューを終えたグループの車がどっと押し寄せ、反対側からはこれから海岸に向かおうという車が次々とやって来て、そこを私たちの仲間が右往左往し、結構な混乱でした。いぶかしいのは海岸に向かう車。乗っているのはカップルばかり。もう空は真っ暗です。ははーんこれから二人きりの語らいの時間て事でしょうか。こんなに数が来ては互いに落ち着かないだろうなんてのは大きなお世話でしょうが、気になったのはそのナンバープレートでして、山口、千葉、福島…… みな水戸ナンバーじゃないんです。はて、なぜよそ者ばかりがこの海岸に。あの海岸はイイ、なんて他県で触れ回る奴でもいるのか。YouTube か。SNSか。茨城県人にだけわからない何かがあるのか。ちなみに助手席の女の子は揃いもそろって髪を薄い色に染めたおネエちゃん。今風の何やら複雑な淡色、ネットで見たらバイオレットグレージュとかホワイトベージュとかありましたがもちろんまともな勤め人にはいない髪色の女の子ばかり。つまりはそういう階層のカップルたちです。
で、帰宅後に思い当たりました。たぶん運転してるのは原発工事で働いている若い人です。原子力のお仕事はお手当がいい。きっと全国から集まってます。女の子を連れてきたんだか現地調達したんだかはわかりませんが、景気よく羽振りよく今を楽しんでいるのでしょう。

最後に一発。昆虫少年のお父さんがお召しのTシャツ。ほ、欲しい。
↓ 水戸射爆場。長いけどぜひ読んでください。
↓ 希少生物。
↓ 村松虚空蔵堂。もう信心してません。
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