私が放送初回から絶賛したアニメ「 瑠璃の宝石 」、無事 13 話で大団円を迎えました。間違いなく名作としてその名を残すでしょう。
7月から9月の3か月間に放送されるアニメを「夏アニメ」と呼称します。今年は春からの継続も含めて実に 90 作品あったそうです。「瑠璃の― 」は特に放送前は評判もなく、多くのアニメファンからはノーマークの作品でした。私も初回で魅せられたとはいえ、こんな「鉱物」ネタのアニメなんて一般からは理解されまいと思ったものです。ところがびっくり、複数のアニメ評価チャンネルから大絶賛を受け、9月末、私の知る範囲では2つのチャンネルで人気投票1位、順位を付けない番組でも最高評価のSS級という扱いでした。ウケたんだ。90 作品もある中で、ですよ。ダークホースの大躍進。
もちろん私にはそれが正当な反応であると思えます。アニメを永く批判的に見てきたこの元・漫研会長の眼で見ても良作でした。キャラデザ、作画、声優、音楽、美術、演出、構成、何より透明な夢を歌う主題歌。すべてが高度に融合し、一種の奇跡としての傑作となりました。そう、主題歌に言う幾重にも重なった偶然の産物かも知れません。原作はまだ続いていますが、アニメに続編はいらない。この全 13 話であまりにも美しくまとまっています。
再リンク、ノンテロップのオープニングです。
ここで全 13 話のあらすじと感想を述べたいところでありますが、未視聴の方もおられるとて、最終 13 話だけ軽くお話させてください。
最終回のテーマは温泉と隕石。よもや最後に日本アニメの伝統「温泉回」を持ってくるとは。そして一人一泊5万円の高級温泉旅館のテーブルにオリンパスの双眼実体顕微鏡を置いて ― 温泉旅行に「こんなこともあろうかと」顕微鏡を持ってくるクレイジーさに違和感を抱いてはこのアニメは見られません ― 浴衣姿で微小隕石を探す女子高生二人とそれを見守る女子大生二人。その作業の中で、道に迷う少女はおのれのあるべき姿を見つけます。最後に大人の声で学びを求める心を語り、大人の姿で鉱床を見上げる背中を見せることで、これが少女の成長物語であったことが示されます。最終回にして最高の到達点と、ある人は表現しました。ああ、いいアニメだった。
お話変わって。

前記事で海岸の、砂鉄で黒くなった砂を採取したことを書きました。持ち帰った砂はよく洗ってから仔細に観察しました。何が出るかな。

やっぱりあったざくろ石。大きいピンクのすぐ左には、小さいながらも正十二面体の結晶があります。右下の黄緑色はかんらん石かな。バックを真っ黒く埋めるのは磁鉄鉱。こちらには結晶形を示すのはありません。地学の専門の方に、磁鉄鉱は風化しないから砂にいくらでも結晶があるよなんて教えられました。ウソつき。

しかし大量の砂鉄。海岸の砂鉄といえばアレでございますよ。以前記事にしたアレ。

流星塵です。宇宙空間に漂う1ミリ以下の固体粒子を宇宙塵と呼びます。それが地球の引力に引かれ大気圏に飛び込むと、質量の大部分は空気分子との摩擦で融解し、再結晶して丸い粒となって地上に降り注ぐ。これが流星塵。1951 年に雑誌で簡単な採取方法が公開され、いらいあまたの科学少年が顕微鏡の視野に映る小さな宇宙に胸を熱くしてきました。鉄を含むものが多いので、屋上や雨どいを磁石で探るだけで採取できます。科学読み物でも繰り返し紹介され、科学館の体験講座で顕微鏡を使った宇宙探し、なんてイベントもあります。
ところが。瑠璃の宝石 第 13 話で旅館の屋上と雨どいで砂を採取して、主人公が顕微鏡で「隕石」探しをします。「凪さん」は、それは丸いものだというヒントしかくれません。やがて視野に映る丸い影。やった!隕石だ!と喜ぶ主人公ですが凪さんはそれは違うと言います。人工物だと。再び接眼レンズに目を落とす主人公。そしてとうとう見つけた「隕石」は、丸くはあるけど真球ではなく、表面には擦過痕のような細かなスジが入っていて、凪さんがこれだ!と太鼓判を押します。
ええと。
私の理解している知識と、アニメで言っていることにまるで整合性がありません。え?まん丸いのは人工物?そのいびつなのが…… 隕石?流星塵じゃなくて?
過去にもこういうことがありました。昭和に仕込んだ私の科学知識が、世の中ではいつの間にかアップデートされているんです。いいえそれは大事なこと。自然を探求する試みは、常に検証され更新されねばなりません。さあ調べよう。
で、図書館で見つけたのがこの本。なんと凪さんの言った通りのことが書いてありました。

微隕石探索図鑑 あなたの身近の美しい宇宙のかけら
ヨン・ラーセン著 野口高明・米田成一監修 武井摩利訳 創元社 ¥ 2400 +税
著者はノルウェー人。本業はミュージシャン・画家でアマチュアの地学研究家。
南極でしか見つからないとされた微隕石を街なかで探索して発見、その成果が大英博物館にも認められたという人物です。日本の学者はシロートがでしゃばるのを嫌いますが、さすが学問の歴史が古い欧州は懐が深いですね。で、著者は「屋上や雨どいで採取したちりの中の丸いもの」はほとんどが人工物だと言います。以下、著者の分類をまとめてみました。
☆ 真に宇宙から飛来したもの
① 微隕石
宇宙空間の固体粒子の、固体のまま地上に達した部分。
溶融、分化、再結晶、アブレーション(表面はぎとり)、摩滅を経ている。
鉄・ニッケル・白金などのコアを持ち、その一部が露出したものもある。
表面に擦過痕のスジ模様、かんらん石の結晶、樹枝状の磁鉄鉱、などの特徴
多くはいびつな形、丸っこいが真球ではない。
② アブレーション小球体
溶融しはぎとられた表面が再固化したもの。真球状。
もとの粒子の質量の 85 %以上がこれになる。
( 私が流星塵としたものがこれですが、実際にはまれだと)
※ 人間の活動に由来するもの
③ Ⅰ型磁性小球体
人間活動(電気溶接、グラインダー、ブレーキ等)で生じたもの。
ほぼ鉄で、ニッケルや白金を含まない。
砂やちりの中から磁石に付いてくる球体のほとんどがこれ。
④ 非磁性のもの
ガラス小球体、蒸気機関車の排煙、ミネラルウール、花火、生物由来、等
私は先の記事で砂鉄中に含まれる「磁性のある丸いもの」をすべて流星塵/アブレーション小球体としました。昭和の科学少年たち、本に書いてある通りにスライドグラスにワセリンを塗って一晩屋根に置き、翌日震える手で顕微鏡を覗いて丸い粒を見つけ、自分は宇宙を捕まえたと感動していた彼らもみな信じておりました。宇宙をその手に捕まえる、それは何と科学的で感動的な作業だったことでしょう。でも違った。
ううううううう。
この著者は、磁性小球体のほとんどは人工物と断じています。宇宙からのメッセージは稀なものだと。でもある日本の研究者が十数個の小球体をX線分光器で分析したら半分は宇宙由来と判断できたという話もあって、さてどう考えたものか。悶々として図書館から帰り、ネットで「微隕石」を引いてみたら上記の本がどこまでもヒットして、どうやら新時代のバイブルみたいな存在になっているらしく、アニメ原作者もその新しい隕石像に依って描いたようです。その一方で「流星塵」を引くと昔ながらの考えに立つ人も多いようで、今が微隕石・流星塵研究の過渡期なのかもしれません。

今回の海で採取した黒砂にもありました、磁性小球体。もうこれを軽々しく「流星塵」って言っちゃいけないんだ、とほほ。
それにしても微隕石。面白そうなネタとは思います。さあこのままジノ。は新たな世界に足を踏み入れるのか。…… やりません。私は肉眼レベルのものにしか興味ありません。久慈川メノウとか県内森歩きとかまだまだ極めてはおりません。それに本気でやるならオリンパスの双眼実体顕微鏡が必要です。あれ、二十~三十万するんでっせ。買えない値段じゃないけれど、それで何ができるかを考えると気が萎えます。誰か頑張って。
アニメ「瑠璃の宝石」は、「楽しい」が終わったらまた次の「楽しい」を見つければいい、という前向きなメッセージで終わります。人生は宝さがし。この世界にはあなたに見つけられるのを待っている美しいものがあります。きっとある。
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