【虫回】です。苦手な方は白線までお下がりください。

何を隠そうこのワタシ、生まれた直後にスキップしながら「天上天下虫が独尊」と言い放ったそうな。以来ずっと虫好きで生きてきました。虫なら何でも知っている、くらいの独尊ぶりです。

虫好きの常として、昆虫図鑑が大好きでした。何が、と問われると答に窮しますが、図鑑の絵や写真と実物を照らし合わせる「絵合わせ」が楽しく、そして種名が判明した時のあの自分の世界が広がったような感覚がクセになるあたりでしょうか。
ただその実、詳しいのはチョウ・ガ、コウチュウ、ハチ・アリといったメジャーどころばかり。時におのれの無知を思い知らされます。それに名を知っていても、やはりその生態は謎だらけ。何考えてるんだかわかんないやつが予想もしなかった行動をする。それが面白い。昆虫は数も種類も多く、知らないことだらけです。絵合わせで名を知る。観察で生態を知る。知らなかったことを知る、これに勝る楽しみはありません。

1月半ばの颶風ぐふう吹きすさぶ日、向かいの空き地「エノコロ原」から、特に強いびょうというひと吹きと共に何かが飛んできて靴先にぽこんとヒットしました。風に飛ばされたにしては重い質感、はて何だと見ればこのツチイナゴでした。生きてます。この成虫の姿で越冬します。ぐぐぐ、とか言ってそうな顔してますからそれなりに痛かったんでしょう。子どもにも軽く捕まってしまうドンくさい大型バッタです。

春4月初めの「水の森」。氷も融けて、滝の傍らは滴る水と萌え出でたコケの緑が光の音楽を奏でます。しかし周囲はその美しい光に似つかわしくないわんわんという羽音に満たされています。はて何だ。

こいつの群れ飛ぶ羽音でした。ビロウドツリアブ。年に一度この季節にだけ現れる春の毛玉、空飛ぶもふもふ。何のために集まっていたのかは謎のまま。

簡易温室に、かつてはサボテンの類、今は野菜の苗が育てられてます。毎年、裏側のガラス面にコアシナガバチが巣を作ります。家の外壁との間は数センチ、天敵のスズメバチが侵入できない狭い空間は理想的な立地で、ここの巣は秋まで生き残ります。でも今年は

巣が3つ。



それぞれの創設女王。土台に毛が生えたような粗末な巣を作り、最初の数匹の働き蜂をたったひとりで育てます。毒針も持っていますが、いちいち敵に突っかかるような危険を冒す愚はいたしません。覗かれようが揺らされようがひたすら耐える。同種の隣人同士、今は仲よくやってるように見えますが …… たぶん働き蜂が増えたら = 軍備が整ったら戦争が始まると思います。平和に共存なんてできるほど、自然界は甘くない。

キクスイカミキリあらわる。今年もまた、と言わせてください。我が家の小菊の大害虫。

昨年徹底して駆除したのが功を奏したか、今年は3匹だけでした。油断はならないけど。

水の森にて、高さ5センチほどの儚い下草オオバタネツケバナの枝を歩く、赤と黒の人面模様がありました。アフリカの戦士の盾にも見えます。ナガメというカメムシです。漢字で菜亀。ナノハナ畑にごく普通の、アブラナ科植物を好むカメムシで、暮らす環境も明るく乾いた場所を好むのかと思っていたら、暗い湿潤の森にいたのが驚きでした。

足早に逃げるヒメマイマイカブリ。これも水の森では初めて見ました。エサのカタツムリがいればどこでもいいのか。

カタツムリは虫か。漢字だと「蝸牛」で虫へんなので虫です笑。これはヒダリマキマイマイ。左巻きの巻貝は珍しいのですが、茨城ではよく見かけます。
珍種の昆虫を求めて森に潜ることもありますが、なじみの虫たちとの出会いはこんな風にいつも偶然。だからいつもなにかしらの驚きがあって、それは楽しく嬉しいものです。

さてしかし、詳しいはずのコウチュウにさえ惑うことがあります。さんぽの途上で見つけたこりゃ何だ。私のアーカイブにこんなのはいません。すいません誰かこいつに覚えはありませんか。私は羽化直後のナナホシかナミテントウの、まだ体が固まってないやつかと思うのですが。
※ ご指摘いただきました。オオアカマルノミハムシのようです。テントウじゃなかった。

トンボにも惑いました。先の「水の森」にて見つけた今年の初トンボ。その時はサナエトンボの仲間かな、なんて軽い気持ちでシャッターを切りましたが、絵合わせで種名がわかりません。ようやくシオヤトンボの未成熟オス、もしくはメスだと判明しました。いいかげんな図鑑では成熟オスの写真しかないので時間を食いました。ああこんな普通種にすら惑うとは。

3月半ばのさんぽにて。咲くヒサカキのその常緑の葉上にびっしりと小バエ。なんだなんだコレはなんだ。

昆虫が冬を集まって過ごすというのはよくある話で、集団越冬と言います。しかしハエでは聞いたことがありませんでした。ハエ・カの仲間「双翅目そうしもく」なのは間違いありません。国内だけで1万種に達すると言われるこの類、以前なら種名を調べるなんて徒労は考えもしなかったのですが …… ふっふっふ、今の私には双翅目に関して、優秀なアーカイブが外部メモリーにあるのです。

これ! 文一総合出版「ハエ ハンドブック」!
「須黒達巳 写真」にご注目ください。そうですいつぞや「ハエトリグモ ハンドブック」でご紹介した御仁です。筑波大を出ていながら定職に就かず全国を巡り、日本産ハエトリグモ全種を写真に収めた剛の者、私の考えるナチュラリストの要件をすべて備えた野の神さまみたいな人です。どうやらハエトリグモとその獲物であるハエが同じ視野にあるらしい。今はめでたくも理科教師という天職を得たそうですが、こういう方こそ「昆虫写真家」として名を成してほしいと心から思います。さあヒサカキのハエを絵合わせだ。
で、あっさりと種名の見当がついてしまいました。須黒写真恐るべし。この集団越冬する小バエ、キモグリバエ科です。そんな分類群があることすら知らなかった。しかもヤマギシモリノキモグリバエという種と写真がほぼ一致しました。ただし「ハンドブック」にはその科に属する一部の種しか掲載されていないので、よく似た別種かも知れません。でもとにかく、この三千世界にキモグリバエという一群の生物がいるという知識が、引き出しが増えました。私の認識する世界が広がりました。あああなんてステキなことなんだろう。


さんぽで見かけたハエトリグモも須黒写真ですぐ種が判明しました。マミジロハエトリだって。須黒さんの他の著作、本屋で探すのですが置いてありません。これは通販を使ってでも入手する価値がありそうです。
最初に申しましたが、昆虫を知ったかぶりする割に実は知らないことが多い。無知を恥じると共に、残りの人生に未知の虫を知る楽しみを残してくれた神さまに感謝しています。そして先日、まさにそれを地で行く経験をしました。
庭でキクスイカミキリを駆除していた時のこと。菊の葉上にスイカの種より小さい黒点を見つけました。

虫だ。…… しかしこれは何だ。

離れた複眼、固く締まったツヤのある前翅、不活発な動き。あああ何だこれは。チョウの仲間とかトンボの仲間とかいうような目もくレベルの見当もつかない。この世にはまだこういうものがいるんだ。さあ名前を調べるぞと思うこの時の心の高揚を、残さずお伝えする言葉が出ないもどかしさよ。

観察するうちにいくつかのポイントに気付きました。背にある三角形の部位は「小楯板しょうじゅんばん」という半翅目(はんしもく、セミ・カメムシの仲間)独特の構造ではないか。そして葉の裏にあったこの脱皮殻はセミのそれそっくり。こいつが蛹にならない「不完全変態」の類であることも判明です。よし図鑑で絵合わせだ。
これも膨大な種類のある一群ですから種名まではわかりませんでしたが、分類群は特定できました。半翅目に属する、その名も不適切な「メクラカメムシ」もしくは「ハナカメムシ」の仲間です。興味深い一群で、同じ科でも肉食のものと草食のものが混在していて、姿形も生態も多様というかバラバラ。かと思うと異なる科にそっくりのヤツがいたりする。私の知らない所にまだこういう虫たちが息づいていたという事実も、驚きと共に感動すら覚えます。まあもっと驚くべきは、こんな虫たちを専門に研究する人がちゃんといるということです。あああ世界は驚きに満ちている。

面白いものです。これまでの人生で一度も目にしたことのない虫だったのに、数日後に訪れた「水の森」で同族が視野に現れました。模様も違うし取り付いていた植物もアブラナ科のコンロンソウだったので、たぶん別種です。でも基本形がそっくり。その「かたち」が「見える」ようになっていました。

これはつまり、私の脳の視覚野にこの虫の「かたち」が登録されたのだと思います。それまで視野でスルーされていた「かたち」に反応できるようになったということです。これまでも「生物屋の眼」と称してご紹介してきた条件反射、私は冬虫夏草の探索でさんざん経験してきました。そうです「見える」ようになるまでが大変なんです。カメムシタケでもヤンマタケでも最初の一個体を見つけるまで多大な日々を費やしましたが、今なら視野にあればだいたい気付くことができます。今回のこの虫の件も、私にはフィールド屋/ナチュラリストとして新たな武装を手にしたも同然のレベルアップです。そういうことなんだってば。
ここまで読んでくださった読者さま、皆さまもそういう分野をお持ちではありませんか。何かに集中して取り組んだ結果として身についたもの。野球を経験した方ならピッチャーの手を離れた瞬間に球筋がわかるとか、パチンコをよくなさる方なら盤面の釘を読むとか。それが私ではフィールドで生物を見つける「 眼 」なんです。人生を豊かにするという意味では何ら違いはありません。
ともにこの世で知る・わかる・見つける喜びを分かちあえればと思います、なんてね。
↓ 昨年のキクスイカミキリ。
↓ 創設女王の過酷さ。
↓ ハエトリグモ ハンドブック。
↓ ヤンマタケが見えた。
↓ なぜか大量アクセスのある虫記事です。