ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

魔女のイラクサ 久慈川のトゲ

 

         

           「野の白鳥(白鳥の王子)」


 西欧のおとぎ話にはよくイラクサの名が出てきます。アンデルセン童話の「白鳥の王子」では、ヒロインのお姫様がイラクサを手で摘み素足で踏んで繊維を取り、兄の王子たちを魔女の呪いから救おうとします。その一方でイラクサ魔女の秘薬の重要な成分でもあって、民俗学的には興味ある植物です。でも読者の皆さま、イラクサって見たことある?

 


 昨年の夏のことです。いつもの富岡橋の河原をうろついておりました。ふと陸側の竹林に続く草むらに、いつものことですが白い石がひと群れ捨ててありました。ここでメノウ拾いをされた方が不要なものを置いていかれたのです。わあい何かいいもん混じってないかなーと手を伸ばした瞬間。


 ぢくううっ


 腕に激痛が走りました。蜂に刺されたような、よく言う「焼け火ばしを当てられたような」というやつです。焼け火ばしをよう知らんけど。見れば確かに腕の一点が赤熱しています。痛い痛い痛い。何だ何だ何だ。蜂がいるのに気付かぬ私ではないぞ。何だ。


 …… イラクサだ。傍らにいかにもイラクサ科っぽい地味な草姿のヤツが立っておりました。

 


 イラクサイラクサ属の植物は世界に30種ほどあって、厳密には欧州の童話にあるものと米国の児童文学に出てくるのと日本のは別種なのですが、ほぼ共通の特徴を持っていて、まあどこの国でも同じような理解をされてます。いわく、


 ① きわめて栄養価の高い野菜になる
 ② きわめて効果の高い薬草である
 ③ 毒液を含んだトゲで覆われている


 うわあ、硬軟全装備というか。食用には茹でて水に晒し、薬用には乾燥させて、それぞれ毒トゲの被害を避けます。と言っても採取の時には危険を伴うわけで、ヒトにそうまでしても利用したいと思わせる、触れれば身の破滅とわかっているのに手を伸ばさずにはいられない、まさに悪の魅力を振りまく魔女のような植物なのです。見た目ジミだけど。

 


 困ったのはこの時のイラクサ。検索に落ちません。日本のイラクサ属は大雑把に言って西南日本の「イラクサ」と東北日本の「エゾイラクサ」、そのどちらにも当てはまらないんです。謎のまま終わりました。刺された痛みも1時間ほどで収まりました。

 


 さて今年。

 


 久しぶりの富岡橋。GW後の河原の惨状を見たくなくて足が遠のいておりました。

 


 ムシトリナデシコが咲いていました。昨年「わらしべポイント」の目印にしたヤナギハナガサの姿はなく

 


 残骸あるのみ。でも今年もやってみましょうか。で、かのイラクサめは

 


 あった。昨年より繁茂しております。実は知識を仕込んで参りました。帰化植物図鑑でセイヨウイラクサ、欧米でネトルとかネットルとか言うのが分布を広げていると知ったのです。あいつに違いない。今日はその確認に来たのでした。

 


 はい間違いありません。ヨーロッパ原産、まさに魔女の秘薬ネトル、セイヨウイラクサです。

 


 葉の付け根にある「托葉」が4枚あるのが国産イラクサとの違いです。

 


 大きさこんなもん。目立ちません。

 


 花期を迎えてます。他のイラクサ科植物より早め、かな。

 


 びっしりと生えた毒トゲ。

 


 注射器のような構造をしています。ケイ酸質、つまりはガラスのような材質で、皮膚に射さるとぽっきり折れて毒液を注入し続けます。何と悪魔的な。毒成分がまたエグい。


・腐食性の猛毒「ギ酸
・炎症を引き起こす「ヒスタミン
・痛みを伝播させる神経伝達物質アセチルコリン
・同じく神経伝達物質セロトニン


…… って、これぜんぶ動物性の物質じゃないか。植物がこれを作れるようになるには紆余曲折あったことでしょう。よっぽど恨みがあるんだろうなあ。

 


 言っちゃあ悪いがイラクサさんよ、その毒トゲで何を守ろうってんだい。このジミな花かい。ジミな花にはトゲがあるってかい。…… 大きなお世話でしたね、ごめんなさい。

 


 先の童話のお姫様はこれを手で摘んだということですが、童話ですからねえ。絶対に無理です。ぐっと掴んだその瞬間に手が腫れあがります。耐性ができることはありません。私は奇跡的に1か所のみでしたが、こいつの群落に半袖や素足で踏み込んだら「面」でぶぶぶぶと刺されますよ。絶叫ものでしょう。子供さんがそうなったらと思うと心からぞっとします。


 図鑑などの表記ではイラクサ、ありふれたものとあるのですがはて、私はこれまで刺されたことは一度もありません。写真もありません。私の周囲には少ないのか、それとも気付かないだけなのか。イラクサ属2種の分布境界というのが関係しているかも知れませんが、これまでは無事でした。そこに突如現れたのが今回のセイヨウイラクサ。茨城の気候に合っているのか。これからは気を付けよう。ただ、イラクサ科は似たものが多いので困ります。危険なのはイラクサムカゴイラクサだけ。富岡橋の河原にあった他のイラクサ科もご参考に上げておきます。すべて無害です。

 


              クサコアカソ

 


               アカソ

 


               カラムシ

 


 魔女のイラクサ、ただいま絶賛分布拡大中。これから春夏に久慈川においでになる方、湿って雑草が繁茂する草むらにお気をつけください。特にお子様連れの場合は要注意です。

 

 

 

 

↓ そういえばそんなことが。

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ごめんね女王。

 

 私の起床シークエンス。5時半に起き出し、お湯を沸かし、神棚の水を替え、新聞を取り、居間と父母の部屋のシャッターを開け、洗面をし、自分の朝食を用意する。あら結構こまごまとやってるのね ♪   これで一連の朝の儀礼になっているので、順番が変わっただけで調子が狂います。ま、それはさておき


 5月半ばのある朝、いつも通りに父母の部屋のシャッターを開けたところ、かすかにブブブという羽音が聞こえました。まるでネズミが象に文句をつけたような、静かな朝だからこそ聞こえたレベルのささやかな、それでもはっきりと抗議の声と理解できる鋭さがありました。それが見下ろすような角度で聞こえます。

 


 はて。見上げたそこはサッシの上枠部分、朝の光が逆光になって見えづらいのですが、網戸の外、シャッターの内側に何かあります。目を細めて顔を近づけ、うひゃあと声を上げて身を縮めました。ハチの巣です。アシナガバチの巣。成虫は1匹だけ、それが翅を震わせブブブと私を威嚇していました。大型の、たぶんセグロアシナガバチです。そして間違いなく女王。

 


 巣のメンバー全員で越冬するミツバチと異なり、アシナガバチはその前年に生まれた新女王だけが春を迎えます。エサとなる他の昆虫が現れる4月末あたりから巣作りを始め、まず最初の働き蜂を育てます。女王ただ一匹で巣の場所を決め、材料を集めて育房を作り、産卵し、イモムシを狩って幼虫に与え、育房を増設し…… 自らの王国を創成していくのです。その肩にかかる責任の重さから、女王はとても大人しい。巣に人が近づいても、むやみに突きかかるような危険な真似はいたしません。ひたすら耐え忍びます。とにかく今を耐えれば、すぐに頼りになる娘(働き蜂はすべて♀)たちが成虫になって助けてくれます。そうなれば女王は労働から解放され、ひたすら卵を産む生活に入れます。そうして巣はどんどん大きくなり、働き蜂は増え、王国は盤石になっていきます。

 

 


 問題は今回のこの女王。よりにもよって、としか言えません。朝夕にガラガラガシャーンとシャッターが開閉されるこんな落ち着かない場所になぜ巣をかけたか。大人しい女王だけのうちは良いのですが、働き蜂がいる巣でこれをやったらこちらも無事では済みません。セグロアシナガバチ、大きいぶんかなり痛いです。


 新女王の生存率、そして新王国の残存率は極めて低いと言います。無事冬を生き抜いた女王同士でまず巣作り場所の争奪戦。これに勝ったものが創設女王となり巣作りを始めるのですが周囲は敵だらけ。巣を滅ぼす敵にはナメクジなんてのもいるのだから大変です。結局最初の働き蜂が生まれるまでに8割の巣が滅びます。今回の女王は、きっといい場所を確保できず、人間と接触する危険を避けることができなかったんです。


 生き物を滅ぼすのは私の主義に反します。でもこの巣を放置すればシャッターを開閉する私や老父が危険です。本当に申し訳ないけど、この女王の巣も生き残る2割には含まれないことをこの手で示さねばなりません。

 


 昼下がり、女王がいないことを見て取って、棒を使って巣をたたき落としました。そしてまた肝を冷やしました。巣の上に、女王はしっかりとしがみついていたんです。見えなかった。しかし地面をころころ転がっても女王は巣から離れません。なぜって、女王にとってこの巣はわが身より大切なものだから。この巣だけが自分の存在理由だから。…… 鬼の形相で、女王に殺虫スプレーを吹きかけます。のたうつ女王。

 


 残った巣を拾い上げ、覗き込んだら目が合ってしまいました。女王が必死で育てた最初の娘、丸々と太った蛹化間近の幼虫たちが、おびえて身を縮めながらじっとこちらを見ています。いや目があるかどうか知らないのですが、明らかにこちらの存在をわかっていて、さらには自分たちの運命をも悟っているのだと思います。ごめんね。本当にごめんね。もう女王はいないんだよ。…… この子たちのその後のことは、書きません。ご想像のうえ、お許しください。

 

           
 巣のあった現場に戻っておや、と思いました。さっき女王は間違いなく地面にあったのですが、いません。かき消すように姿がありません。しばし探して、ようやく見つけました。

 


 サッシの下枠に乗ってこと切れていました。え? あれ? 確かにさっきは地面に落ちてたよね?


 最後に女王は、残った力をふりしぼり、巣のあった場所に飛んだんです。自分が王国の創成を夢見たその地に憩い、そしてポトリと落ちた。最後に何を想ったでしょうか。ああ、私はなんてことをしてしまったんだろう。

 


 ここできちんと申し上げます。アシナガバチは益虫です。ミツバチをはじめさまざまな昆虫を狩るスズメバチと異なり、アシナガバチは植物を食害する鱗翅目りんしもくの幼虫、すなわちイモムシ毛虫ばかりを狩ります。恐ろしく効率のいい植物の守り手で、アシナガバチの数が多ければ、5月から9月の間に葉が虫に食われて丸坊主になることはありません。

 


 そして私の王国、我が家の庭にはたくさんのアシナガバチが飛び交います。ことし菜園では5月になっても丸々と太ったハクサイを何個も収穫できました。もちろん無農薬。ソラマメスナップエンドウも大豊作、自前のキャベツは毎日食卓に上がります。キンカンサンショウクチナシも、夏の間はアゲハやオオスカシバに食いつくされることはありません。みな、アシナガバチたちのおかげです。

 


 また一段と大きくなったハマナス。ここもアシナガバチのパトロールコース。みんながハチに守られて、我が王国は豊穣のうちに多様性が保たれています。放置せず、されども干渉しすぎず。ヒトと他の生物が共存する方舟、そんな場所を目指してます。

 

 

 

↓ なんのかんのとハチ好き。

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日曜日のカンパネラ

 

 日曜日、八溝山で野外観察会がありました。大子の町が集合場所だったのですが、当日町はよさこい祭りが開催されるとかで大騒ぎ、待ち合わせ場所の駐車場も入れなくなって、いきなり右往左往です。観察会主催者の不手際を責めるのも酷ですけど、多くの人が参加するイベントなんだし最低限の下調べはできたのでは。自分がイベントを開くときのための良い反面教師としておきます。

 

    


 まあ初夏の八溝山、いくつか見るべきものはありました。でもお会いしたかった植物の師匠は不参加、そもそも参加者中私が最年少という、なんか期待した観察会ではありませんでした。古参の者の身を切る努力がなければ、組織は老化する一方です。


 帰路も、大子から水戸までずっと見知らぬ女の人の車にぴったり後ろに付かれてしまいました。ハンドル握りながらぼーっと別のことを考え続ける運転スタイルと思われ、悪意はなさそうなので、注意しようか迷ううちに気にならなくなったからまあよろしいのですけど、不愉快だったのは間違いありません。まったく何から何まで。


 今日という一日を忘却の箱にそっと仕舞いたくなるような、なんかつまらない日曜日になってしまったなあと思いながら帰宅しました。ふうううと息をつきながら玄関を入るとぷーんと甘く酢っかい鼻腔への刺激。今年最後のイチゴが届けられてました。真っ赤に熟したトロ箱数個分が、すでに家人によって処理されておりました。

 


 ジャム用、どーん。

 

       
 粒の小さいのは丸ごと甘露煮。いやつまりこれもジャムだ。

 


 これはこれから潰してコンデンスミルクかけて追いジャム乗せて牛乳かける生食用じゃあ。

 


 知り合いにイチゴ農家がいて、シーズン中何度か熟れすぎたイチゴがふるまわれます。今回はもうハウスを畳むというので大小さまざまのがまとめて届いたようです。

 


 これは丸のままの生食用。ああなんて豊饒な色と形、太陽の光を凝縮して作られた真っ赤な鐘です。それが一斉にキンキンと鳴って、青空に染み渡るような音を響かせて、凝りかけた私の矮小な心を解きほぐそうとしてくれます。ああ今日は情けないほどに小さい根性を顔に出していたなあ。反省しなきゃなあ、なんて。

 


 いただきまーす。なんだ、そんな悪い日じゃなかったよ。

 


 今日一日の評価が逆転しました。イチゴひとつでこれなんだから、我ながらなんて安い奴かと。いや、イチゴは偉大というべきか。これをイチゴ効果と名付けよう。


 体にも心にも一閃の賦活ふかつ剤、胸を開かせるカンパネラ。皆さまにもお薦めします、ここぞという時のイチゴ効果。

 

                        カンパネラ:イタリア語で「小さな鐘」

 

 

 

↓ ここから過去のイチゴ記事に行けます。代り映えのないこと書いてます。

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カップめんと古道具

 

    

         カップヌードル「味噌」は神。


 カップめんって、ときどき無性に食べたくなることはありませんか。私はコレとコーラカツカレーに関して、突然宇宙からの指令が脳に入ってきます。ほうらそろそろあの味が欲しくなったろうって。コーラとカツカレーはおカネさえ出せばなんらハードルはありません。問題はカップめん。


 在宅生活になって最も変化したのが昼食事情です。以前は職場で弁当が手に入り、空き時間に外出してランチという選択もあり、それが面倒だったり多忙な時のためにロッカーにはカップめんを常備しておりました。銘柄にこだわりはないので安く入手したものとか珍しいものとかいろいろ試してみましたが、結局は原点にして到達点、安定して購入でき、作り方もシンプルな日清のカップヌードルを頂くことが多かったように思います。安藤百福さんありがとうございます。


 さてそれが現在の昼食は。外をうろついている時はファストフードなりコンビニ弁当なり、さも働く男のようにふるまっております。家にいれば老母がかたじけなくも何か作ってくれる。ただそれが常に高カロリーで、毎日食べてはせっかく維持している体形が危ういことになりそうです。さりとてこの母の前でカップめんを作るのは気が引ける。ちなみに間食をする習慣はありません。…… つまりカップめんを食べる局面がないのです。まあアレも連食してカラダにいいとは思えないので、それは問題ありません。しかし、食べたくなるときがあるのだなあ。

 

    
 これは何か。名をフレームザックと申します。三十年以上前に流行りました。とりあえず登山用であったと思います。以前のキスリングと呼ばれた横長のザックから現在の縦長ザックへの過渡期に出現しました。アルミフレームのザックは今でも定番ですが、これはそのフレームが露出していていわば「背負子しょいこ」の近代版です。ザック本体はサンマ缶のように全面を平開できるのでパッキングや取り出しに便利でした。テントは上に、寝袋は下に外付けします。とても便利で合理的、私はこれで大雪山やら小笠原やら白神山地やらを歩き回りました。青春の勲章みたいなもんですへへへ。← 照れてる

 

 使わなくなって二十数年、永らく屋根裏に山装備を内蔵したまま放置されておりました。そしてとうとうバラして廃棄したのが三年前。野営用品はそのまま残してあるはずです。アレを使えばいくらでもフィールドでカップめんが食えるじゃないか!さあ話が戻ったぞ。

 


 屋根裏を探して… 出たあ。当時の言葉で左からコッヘルボンベストーブと称します。今どきは何と言うか知りません。…… ってこのボンベ三十年前のもんだよな。パッキン大丈夫か。たしかプロパンボンベには法的な使用期限があったけど、コレはいいのか。そもそも使えるのか。使い始めたら横から火ぃ吹いたなんて嫌だぞ。

 


 とりあえずボンベにストーブをセットして、コッヘルの小さいのを乗せればお湯は沸かせる。狭いテントの中で取り回すものですから、このまま書斎でも使えるはずですけど前述のようにガス漏れ怖いしなあ。本来の使用場所かつ今回の使用目的は野外である、というのでフィールドに持ってきました。

 


 さあ二十数年ぶりの着火です。カチカチカチっと。

 


 ぼぼぼぼぼ。意外なほど早くお湯が沸騰しました。たいした火力だったんだなあ。

 


 フタ開けてお湯入れて、やはり元祖のシンプルさはありがたい。ストーブ容器を押さえにして

 


 3分待ってできあがり。

 


 1年ぶりのカップめん、美味しゅうございました。と同時に、古い山道具を引っ張り出して使ってみて、何かそれ以上に遠く深いものがよみがえりました。

 


 社会人を演じるうちに失ったかつての自分を取り戻す、どうやらこれは軽いリハビリになったようです。次は数十年ぶりにコッヘルでご飯を炊いてみます。わあなんか楽しくなってきた。

 

 

 

 

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そこにあればいい

 

       


 水戸市内の希少植物、ニッコウキスゲカザグルマ。昨年は縁あって新たな産地も見つけ、地元の自然というものを再認識しました。守り人というのも気恥ずかしいけど、今年の様子を見に行きました。


 まずは何を置いても、呼び声に誘われるままに迷い込んだ谷で見つけたあの場所へ。

 


 ああ今年も咲いていた。よかった。

 


 正しい和名は「ゼンテイカ」なんだと書くのも興ざめな気がしてきました。権威の押し付けみたいです。ニッコウキスゲで全国民に通じるんだからそれでいいじゃんって。端正な花姿と清楚な花色は、5月の青空に映えて何物にも代えがたい。

 


 カザグルマも。この準絶滅危惧種がこんな町中にあることの危うさを大いに危惧しましたが、無事でした。花は一輪のみ、昨年は十輪ありましたから大幅後退ですけどこれには理由があります。この草地が昨秋にかなり念入りな草刈りを施されたのです。カザグルマはこう見えてつる性木本、つまり木です。それが根元近くで切られたようで、花一輪ぶんの枝しか残らなかったんです。まあどうあっても園芸ジジイに掘り取られるよりはマシです。同じつる性のスイカズラやフジの逞しさと比べると心もとない限りの弱弱しい植物だけど、それでいい。

 


 2日後には他の草に埋もれてました。このまま目立たず、ヒトの活動と折り合いをつけて細々とでも生きていってくれれば私にはオンの字なのですけど。


 せっかくなので、同地で花期を同じゅうする隣人たちもご紹介。

 


 ノイバラ

 


 ヒメジョオン

 


 ベニシダ

 


 フランスギク

 


 キツネアザミ

 


 オドリコソウ

 


 ユウゲショウ

 


 ヒメフウロ、の外来種のほう。最後に過去記事のリンク付けますね。

 


 さて市内にはもう一か所、ニッコウキスゲの産地があります。こちらは従来から知られた場所のようですが、徹底した盗掘に遭って、確実に残るのは民有地の斜面のみ。

 


 草刈りなどの世話をしていた老農夫とは一昨年来お会いしてません。放置され丈高く伸びた草むらに埋もれるように、それでも何とか咲いておりました。このまま遷移が進めば花は咲かせなくなりますがこう見えてしぶとい植物です。この土地が開発で消滅しない限り滅びません。

 


 この場所、面白いことに、傍らにエンジュ(槐)の木が何本か植えてあります。中国原産で薬用に導入されたものだけど、なぜここに植えたかは存じません。虫に好かれる木です。

 


 ほらいた。ゴマフカミキリ

 


 オスとメスが集まってなんかしてます。平和だなあ。

 

    


 シロコブゾウムシ。愛想のかけらもない仏頂面がトレードマーク。

 


 沢沿いに歩くとシュロが咲いてました。どこかの庭から逃げ出した子孫でしょう。

 


 雨で溢れた代かき後の田んぼに浮かぶのはシュレーゲルアオガエルの卵のうです。たくさん浮かんでました。あぜの泥中なんかに産み付けられるものですけど、流れ出てしまったんですね。こうなるとアメンボなんかの水生昆虫の餌食になってしまいます。

 


 ヘビイチゴきれい。

 


 コマユミ

 


 ヒモワタカイガラムシ。植物と見まごう人多いんじゃないかな。

 

    
 今年もハンショウヅルが咲いてました。野生のクレマチスです。

 


 オオヤマオダマキ。野生種がそのまま売られているので、自生なのか逸出なのか判断に迷います。

 


 これは。上のヒメフウロに似てますが別の帰化種、オランダフウロです。何とカフェインを生成する薬草なんです。分布が限られると聞きますが、水戸にあるとは気付かなかった。

 


 ヒメジョオンツマグロヒョウモン帰化種どうしですが仲良くやってます。

 


 この場所のもう一つの秘密。ぽつぽつとこのアワブキが生えていて、これを食草にするアオバセセリが住んでいるんです。今年はぜひその幼虫をご紹介しなければ。ビビッドな姿にびっくりしますぜうひひひ。

 


 実はあえて記事にしなかったのですが、昨年市内にもう一か所、カザグルマの産地を見つけてます。県内私の知る自生地四つめ。もちろん今回も再訪したのですが花姿はありませんでした。たまたま開花しなかったのか、盗られたか。花がないと藪の中で見出すことはほぼ不可能の貧相なつる植物なので所在不明です。本当に、スイカズラやフジの逞しさを見習ってほしい。

 


 カザグルマのような希種・珍種にこだわるわけではありません。自分の生まれ育ったこの地に共に暮らす同胞はらからと挨拶を交わし息災を喜ぶ。いやそんな親密でなくてもいいんです。遠目に姿を垣間見て、ああまだいてくれたかと安堵できれば、それは自分がまた変わらずに1年を過ごせた証にもなります。ひそやかに開く野の花、ささやかに生を紡ぐ細い足の虫たち。同じ時を生きるもの、それがそこに、あればいい。

 

 

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佐白山、心霊スポットとしてではなく

 

 だいぶ前に記事にしました、笠間の佐白山。心霊スポットだという無責任な噂を喧伝されてヒマでおバカな方々の標的になり、市民の憩いの場からすっかり寂れた忌み地へと変貌を遂げた気の毒なお山です。エラそうに非難めいた書き方をしていますが「佐白山 ミステリー」でグーグル検索するとその私の記事が1番でヒットしてしまいました。明らかに私も加担しています。我ながらなんと無責任なことを。


 せめてものお詫びに、頂上の佐志能神社にお参り差し上げようと思い立ちました。

 


 千人溜駐車場より。

 

           
 お詫びとは申し上げましたが、ここの森の不気味さはたぶん一般の方にも感じられることでしょう。いったいどうしてこうなってしまったんだろう。

 


 そして思わぬオチが付きました。佐志能神社に至る最後の石段の前に

   
 前記事でも荒れた石垣や石段に言及しましたが、とうとう通行止めになっていました。石垣の崩落、社殿の倒壊ってそんな、今ごろ大震災を引き合いに出されても。この十年でなんとかならなかったのか。…… たぶん、ここの神さまにも関わるヒトにも、そんな力は失われているのでしょう。

 

        
 誰からも手を合わせてもらえない、打ち捨てられた神さまになって仕舞われました。お気の毒としか言いようがありません。

 


 心霊スポットという評判は、いつまでもネットに流れ続けます。神さまでさえ翻弄される現代の闇の恐ろしさ、というところでしょうか。私もこのブログのみではありますがネットに関わる身、誰かを不幸にすることのないよう配慮しなければならないと、改めて思うのです。

 

 

↓ 前記事。

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詩人の蝶

 

 北 杜夫 大先生の名著「どくとるマンボウ昆虫記」の一章「詩人の蝶」は、詩神ホメロスの逸話から始まります。章のテーマはパルナシウス。はい、ここからいつものうんちくが始まりますよー。蝶に全然興味のない方、逆に蝶にお詳しい方は飛ばしてくださーい。


 ヨーロッパに産するアゲハチョウの仲間でアポロチョウというのがおります。白地の半透明の翅はねに黒縁取りの赤紋を配した、それはそれは美しい蝶です。白い楕円の翅は一見シロチョウの仲間を思わせますが、実はこれがアゲハチョウ科の祖先形。アゲハチョウのツバメのように細く長い尾は、のちの進化で獲得されたものです。アポロチョウは原始の姿をとどめたまま、ヨーロッパの陽光の元、穏やかに飛び回っています。アンリ・ファーブルヘルマン・ヘッセも、その天使のような姿を愛でたことでしょう。学名はパルナシウス・アポロパルナッソス山のアポロン」。うわあ、良い名にもホドがあるぞ。いかにかの地で愛されているかがわかります。

 


                                     pixabayより、アポロチョウ


 さてこのアポロチョウの仲間、属名からパルナシウスと呼ばれます。中央アジアあたりを中心におよそ60種。ユーラシア大陸の寒冷地や乾燥地に分布して、その東端が日本列島です。残念ながらアポロチョウそのものは日本にはおりませんが、日本海の対岸、朝鮮半島にはさらに美しいオオアカボシウスバシロチョウがいて、マニア垂涎の的です。これに限らず、パルナシウスの仲間はそれ専門に蒐集するマニアが世界中にいて、採集者やら販売業者やらで市場が出来上がっています。


 はて、では日本に生息するパルナシウスは。これが3種いるのですがさすが分布の端っこ、何万キロも旅するうちにいろいろ究極進化しております。1つは北海道大雪山に住むウスバキチョウ、翅が黄色になりました。他の2つは逆にパルナシウスの売りである赤や青の斑紋を失って、それこそシロチョウ科と見まごうような、それでもパルナシウスの気品をまとった白い天使の姿となりました。


 うんちくここまで。以下フィールドでのお話になります。

 


 どうしても撮りたい写真がありました。それが県北の福島県との境あたりに住むという絶滅危惧種チャマダラセセリです。4月最終週、私のブログでおなじみの撮影地、北茨城市花園に参りました。有名な場所で、日本中から集まるマニアの方々の凄まじい採集圧に晒されています。

 


 ベニシジミ

 


 サカハチチョウ

 


 スミレ

 


 アカネスミレ

 


 タチツボスミレ

 


 キジムシロ
  チャマダラセセリの食草です。

 


 ヤマカガシがおマエ誰だと顔を出します。いえただの変態です。

 


 ジノさん待ち伏せ。こんな連中の相手をしながら1日潰しましたが、結局目的は達せずに終わります。まだチャマダラセセリは発生していなかったのかも知れません。


 それではと次の5月第1週に行けばよかったのですが、連休は家族に振り回されて終わってしまいました。今年はたぶんここが発生期だったと思います。


 5月第2週。これも家族の用事で家を空けられず、悶々とした日々を過ごしました。ああ忌々しい、なんて考えてはならぬ言葉がふと胸中に湧き上がります。これは採集マニアの方々も同病だったりするのでしょうね。この季節にナチュラリストが家に縛られる辛さを一般人、特にカタギの女性に理解してもらうのは至難です。幸い私は木曜日、ようやく休日を得ました。新たな用事を思いついて私の時間を奪おうとする悪魔を泣き落としで下がらせて、ようやく1日の自由を手に入れました。さあ行くぞ。たぶん手遅れだけど、行かねば心が納まらぬ。

 


 採集・撮影の全お道具装備。やる気だぞー。ちなみに捕虫網はあくまでも撮影補助のため。マニアの持つ捕虫網の半分ほどの大きさです。

 

     
 今日の秘密兵器、500ミリ反射望遠レンズ。距離1.7メートルで等倍撮影可。前回の撮影で蝶に近づきすぎて逃げられたりしたので。

 


 つい最近までエゾスジグロシロチョウと呼ばれていたヤマトスジグロシロチョウ。流行に乗って北海道のものとは別種であると言い出す人がいてこうなった。言ったもん勝ち。本当に最近の分類学者ときたら。

 


 おなじみキタテハの越冬個体、素早く飛び回ります。まさか下見の時に見たのと同じヤツか。いずれにせよ冬を越してなおこの膂力りょりょく、生命の逞しさを思わずにはいられません。

 


 風に煽られるモンキチョウ

 


 ツバメシジミ

 


 ミヤマセセリ。同じセセリチョウなので、ちろちろと飛んでくるたびにすわ!チャマダラかと身構えてしまいます。

 


 蝶マニアの所業、ゴミ産卵いや散乱。撮り鉄もそうですが、こういうことをしなければもっと理解を得られるのに。ここ花園でも牧場に入り込んだりして地元の人とトラブルになるマニアが後を絶ちません。

 


 これは帰り際に寄り道して撮ったものです、ムモンアカシジミの若齢幼虫。クロクサアリに甲斐甲斐しくお世話されてました。


 さて、引っ張るのはここまでにしましょうか。結局目的のチャマダラセセリは見ることすらかなわなかったのですが、予想外のモノに出くわしました。


 林道の上を白い蝶がふわふわと飛んできます。シロチョウ科? いいえ飛び方が違います。直線的で滑空を交えて、それでも絶妙にぶれる独特の飛跡を描きながらこちらに向かってきます。ああなんて優美な舞であることか、と見る間に目の前に迫ります。とっさに捕虫網を振りましたが、網に入るその刹那に鮮やかにかわされました。網が小さいとはいえあり得ない不覚です。その、かわされる瞬間にしかと目が合いました。

…… ウスバシロチョウだ!

 


 さあここで長い前フリを思い出してください。これは日本本土の真白いパルナシウス、一族の東端に住まうものです。北海道から四国まで分布しますが北寄り山地性で、茨城県には分布しないとされていました。かつて県西部の河川敷で偶発的に発生した時にはマニアが押し寄せて、その採集圧で絶滅の憂き目に遭ってます。それ以後は絶滅種として県のレッドデータブックに載せられていましたが、近年福島県の個体群が南下して八溝山のふもとに住みつきました。しかしまさかこの花園で遭遇するのは予想外、私にとっては大サプライズです。あああ神さまありがとうございます。高速代とガソリン代かけて来た甲斐があろうかと… いやいやモトを取って余りあるくらいです。

 


 とはいえ第一遭遇では逃げられました。せめてワンショット、片鱗でも写真に収めねば。カメラを構えて草地を歩き回ります。とにかく遠くから見つけて、花に降りるまで追いかけて、そっと近づいて…… 緊張マックス、久しぶりに蝶を相手に大本気になってます。と、

 


 うわあ足元にいたあっ。というかこんなに人間に近づかれて逃げなくていいのかおマエ。こんなのろまなことでは採集で絶滅させられるのもムベなるかなです。全国的には安定して発生していてむしろ増加しているくらいなのが幸いです。

 


 90ミリレンズに替えて接写します。これだけ近づいても逃げず、必死で口吻こうふんセイヨウタンポポに差し込んでいます。のんびりした印象のあるウスバシロチョウですけど、こんな一生懸命な顔をするときもあるんですねえ。氷河時代を生き延びた古い古い種族です。

 


 気温が上がると次々に飛び始めて、それなりの個体数になりました。ウスバシロチョウに囲まれるなんて、ここは天国か。中学時代から憧れ続けて、大学生の時に高尾山で初めてその姿を見た感動を今も忘れません。

 


 パルナシウスに魅せられた採集者は数多い。でもその産地はおもにユーラシア大陸の東経70度から130度のあいだの過酷な山岳地帯で、そこここのごく狭い範囲にため息が出るように美麗な特産種が暮らします。そしてそこは紛争にまみれた地域でもあり、砲弾・地雷・ゲリラ…… もう2度と採集できない、そう言われるパルナシウスもあるのです。例えばアフガニスタンは数々の希種の産地です。かの地で凶弾に倒れた中村 哲 医師は、実は昆虫愛好家だったことをご存じですか。危険で過酷な人道支援の仕事に無私無欲で取り組んだ偉人です。ただ唯一、現地の貴重なパルナシウス、例えばアウトクラトールウスバとかチャールトンウスバとかに出会えることを楽しみにしていたそうです。その思いを、どこまで果たすことができたのでしょうか。

 

 


 極東にたどり着いたパルナシウス、ウスバシロチョウ。県のレッドデータから解除されてはおりませんが、この広い山中に定着したのならすぐに絶滅はないでしょう。記録として2頭だけ持ち帰らせていただきます。

 


 ちょっと浮かれるワタシ。

 


 きちんと標本に残します。偶然ですが♀♂の組合せになりました。昨年のギフチョウから1年ぶりの展翅に少し緊張したけど何とかなった。

 


 きょうも青空に見守られ、私は幸せです。いろいろなものに感謝せずにはいられません。

 

 

 

 

 

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