ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

銀の一文字

 

          【虫回】でーす。


 かねてから狙っていた河原がありました。あ、メノウ拾いの方でね。少し水面を渡らねばなりませんが、あそこなら真っ赤なメノウががっぽがっぽ拾えるに違いない、信徒の皆さまを驚かせ悔しがらせようじゃないかぐへへへ。


 はいもちろん、こんなヨコシマな発想を久慈川の神さまがお許しになるはずはありません。そっと、葦の切り杭で私の長靴に穴を開けておいででした。気付かずに入った久慈川本流で、右足がどぼぼぼーっと水に浸かるハメに。長靴の中が水面と同じ高さまで清らかな久慈川の聖水で満たされました。川の中でひぎいいいと叫ぶ教祖の姿をご想像ください。神罰でございます。

 


 それでも歯を食いしばって手にしたのはこれだけ。大して拾える場所でもなかったんです。ああいいオチを付けてくださいました。もうここには来ません。

 


 車は離れた場所に停めてあります。ガボガボ言う右長靴を踏みしめながら、なんてひでえ一日なのかと愚痴りながら、とぼとぼと帰る道すがら。堤防の道はどこまでも悲しく遠く、まるでいいことが何一つなかった我が人生のようです。うううう。

 


 と、視界の端を何かがちろちろと動きました。え、と見返すとまたちろちろと、今度ははっきり見えました。チョウです。芽生えたばかりのチガヤが広がる草地の上を、こげ茶色の小さなチョウが飛んで、すぐ草間に消えます。あの色あの大きさ、もしや。


 昨年の春から夏にかけて、おさんぽの帰り道に那珂川沿いを通る時は必ず探しているものがありました。40 年前には間違いなくいたものです。小さな小さなセセリチョウです。ススキやチガヤといったありふれた草を食草として、どこにでもいる普通種でした。それがこの数十年の間に県指定の絶滅危惧Ⅱ類に成りあがってやがったんです。馴染みの者として一度とっちめてやらねば、なんて感覚でした。でも水戸ではとうとう見つけられなかった。少し寂しく感じました。それがこんな久慈川の河原で。どこだどこだ。

 


 いたあ。間違いありません、あいつです。大急ぎで車に取って帰り、長靴をサンダルに履き替え、最近いつでも積んである 90 ミリマクロ付きミラーレスを手に現場に戻ります。

 


 ギンイチモンジセセリ。本当に 40 年ぶりの再会です。環境省の分類でも準絶滅危惧。

 


 名の由来はもちろんこの白線。何だか目立つデザインに見えますが

 


 トラの模様と同様、草むらではこれが良い擬態なんです。2頭いるのわかりますか。

 


 小さくて不活発なこともあり、足元にいても気づかなかったりします。堤防のごく狭い範囲にそれなりの数が群れてました。こんな所で生き残ってたんだ。

 

      
 ここは特異な場所なのでしょうか、もう一つ珍しいものも。これはキバネツノトンボ。ウスバカゲロウに近いものです。

 


 生息地では群生するのでレッドデータにはなっていませんが、どこにでもいる虫ではありません。

 


 同じ環境が続く堤防の中でただ一か所、珍種がひっそりと息づく特異点がありました。何がどう作用するのかわかりませんが、こういう気難しい生き物ってあるんです。

 

 珍しいものを写真に収めて、さっきまでの悲しい気持ちを忘れました。うん、久慈川の神さまありがとう。しゃがみこんで撮っていたので、通りすがりのご婦人と連れの柴犬にすごく警戒されたけど。

 


 こんな奴に挨拶されて、そりゃあ嫌だったろうなあ。うひひひ、今日はいい日だ。

 


 帰宅したら老父 96 歳が転んでケガしていて、慌てて病院に連れて行きました。左の肋骨1本にヒビが入ってましたがそれよりも顔の左半分が腫れあがっていたのが見た目重症で、さらにお医者さんや受付のお姉さんが妙によそよそしかったのが気になりました。あとで気づきました、私が暴力を振るったと思われたのではないかと。…… ああ、手放しで何もない日ってないものでしょうか。

 

 

 

 

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