日立篇
2016年秋,茨城県の北部市町村のひろーい範囲を舞台として,現代美術作品の展示が行われました。題して茨城県北芸術祭。いまや全国で行われるこの手のイベント,もはや目新しいものではありませんし,じっさい他の有名どころと比べて経済効果も大きくはなかったようです。
でもなにせ地元開催,現代美術は大好きなので休日ごとに車で回って,なんと全100作品コンプリートしました。当たり外れがあった,と言えるのも全制覇したからこそ。何より,普段なら絶対に立ち寄らないような場所を歩くことができて,思わぬ発見がたくさんあったことが大いなる収穫です。
各作品の詳細は県のHPがあるのでそちらをご覧ください。それぞれに作者の作品にかける思いはあるようですが,キリがないのでごく主観で感想を書きます。ポイントは私を驚かせたかどうか。芸術家ってそれが商売でしょ?
今回は作品番号Aから始まる日立篇です。工業都市・日立の街中や山中を歩き回って参りました。やたら長いので,写真だけざっとご覧いただければ。
A-01 朝日立つ浜の産土神の御座(あさひたつはまのうぶすながみのみざ)
海岸の松林にドカンと鎮座,というか屹立していました。こういうのキライじゃないんだけど,今一つびっくりが足りなかったかな。
A-02 うつろ舟ミニ博物館
これは面白かった。まずロケーション。海風吹き付ける海岸に立つ一軒の簡素だけど妙に趣味のいいコテージ。世捨て人の主人公がこんな家に住んでいる映画,いくつも知ってるぞ。そこに誰かが訪ねてくるところから物語が始まるやつ。どうやらここで営業していた美容室の建物のようです。うん,ここに開店した心意気はよく伝わる。でもお客さん来なかったろうなあ。
で,うつろ舟というのは江戸時代に見たこともない文字が書かれた丸い舟が常陸の国の浜に漂着し,中からこれまた不思議な風体の女性が降り立ったというお話。テレビで見たことあるけど,たぶん滝沢馬琴の創作だという結論でした。それをいかにも現実の事件であったかのように博物館に仕立て上げたのがこの作品。家まるごと作品。虚構を口裏合わせて現実化,というのはアニメや特撮のムック本が大好物の私にはど真ん中です。
01と02の展示がある小貝ヶ浜は風光明媚。海と奇岩と松林と,秋にはハマギクやツワブキが咲き誇ります。何もないけどいいところ。
A-03 やどかりに「やど」をわたしてみる ーBorderー
はいこれ,面白かった。細工物の「街」を乗せた透明な殻にやどかりさんに入っていただくという作品。その行為よりも,街を乗せた人工の「貝殻」がよくできていて,なんか変な部分を刺激されました。やどかりさん死にかけてたけど。
(余計なことですが,このやどかりさんは暖海に住む「ソメンヤドカリ」ではないかと。こんな季節の茨城は寒くなかったのかな。それとこの種は貝殻にイソギンチャクを張り付ける性質があるのですが,それが生理的に意味があった可能性もあります)
A-04 回廊の中で:この場所のための4つの虹 ー KENPOKU ART 2016のために
日立駅を覆ってました。
A-05 風景幻灯機
現実の日立の海景に非現実が出現する。まあわかります。
04と05は,海の見えるおしゃれなカフェで評判になったJR日立駅。本当に素敵な駅ですよ。そして以下06から10は駅前にある市営の複合施設,日立シビックセンター。
A-06 クリスタルパレス:万国原子力発電国産業製作品大博覧会
光の魔術を幻出するいくつものシャンデリア。すべてウランガラスでできていて,ブラックライトで蛍光を発し闇に浮かびます。それぞれのシャンデリアには原発稼働国の名がつけられ,シャンデリアの大きさはその国の発電規模を表すというメッセージ性の強い作品なのですが,ただその美しさに魅入られてずーっと展示会場に立ちすくんでいました。「科学とオカルト―」でもやったように,こういう光の演出が好きなんです。
A-07 日立電輪塔
これ,本当はラジオを持参する参加型の作品だったようですが,普段ラジオを持ち歩く人がどれだけいるのだろう。
A-08 グロース:テンドリル /ハイドロダイナミック:フィッコ(FICCO)
A-09 Solitarium
A-10 velvet order(柔らかい秩序)2016 summer night
この3つ,動画作品です。しかもプラネタリウムの半球スクリーンに映し出すというスケールの大きなものです。画像ありません。「自己増殖するアルゴリズム」で画像が作られ続ける08の,テヅルモヅルみたいのが面白かった。09は無限継続するアニメーション。ずっと見ていたかった。動画ほしいなあ。
おお,10作品だけでこれだけ費やした。このブログって容量どんなもんだっけ? A-25までいけるかな。
A-11 ノアのバス
広場に置かれた地元日立電鉄の路線バス。内部をノアの箱舟に見立てて,本物のインコやウサギが闊歩してます。発想がいいんですけど,作品自体はあまり出来が良くない。箱舟になぞらえるならもっと中の生き物や植物にひとひねり欲しかった。
A-12 日立工場の建物間の何もない場所で、私は未開人と飢饉や戦争の犠牲者たちを織り込んだ詩を読む
タイトルが長いだけ。
A-13 フィールド・クリスタル
表示もなく,係の人もいなかったのでこれが「さわれる」作品とは知らなかった。日立市郷土博物館の展示は,なんかやる気なかったなあ。駐車場でも苦労したし。
A-14 御岩山雲龍図
龍の天井画です。現代美術ではないのだけど,「日本最高のパワースポット」御岩山での展示ということもあり,何か意味性を感じます。作者は若い女性です。
A-15 杜の蜃気楼
下手な写真。公式HPの写真でご覧ください。14と15の展示のあった御岩山は本当にただならぬ空気の場所です。いずれ稿を改めて。
A-16 Playable Sculpture(遊べる彫刻)
壊れてて遊べない。その時点でこれはただのガラクタでした。日鉱記念館という迂遠な施設に作品これだけというのも。もうここは使わないでください。
以下9作品は常陸多賀駅前商店街,自称「多賀パルコ」の展示。パルコ…っておい。すべて閉店した店舗が会場です。
A-17 スマイリー・バッグ・ポートレート
こういうのはパス。
A-18 看板屋なかざき
うん,わかる。
A-19 エレクトロニコス・ファンタスティコス! in 日立
観客参加型,なのかな。
A-20 ニット・インベーダー in 常陸多賀
常陸多賀駅前の寂れようにショックだったけど,まさか銀行まで撤退していたとは。作品よりもその展示会場である銀行内部,特に大金庫のあったところなんかが興味を惹かれました。
A-21 ポリプラネットカンパニー
多賀駅前の展示でとにかく驚かされ,面白かったのはこれ。膨大なコレクションと言っていいでしょう。特に男性全般が心に内包する「収集」という因業をこれほど堂々と表出されるとかえって笑ってしまいます。この作者さんには長生きしてほしい。
A-22 山のまぼろし
はいはい。
A-23 A Wonder Lasts but Nine Days ー友子の噂ー
よしよし。
A-24 この先、記憶の十字交差あり。
うーむ。
A-25 ヒタチタガ・コンクリート・マンガ・ベンチ・コレクション
それで?
街をアートで満たそう,という発想はわかりますがそれには本当にお祭り規模の取り組みが必要ではないでしょうか。寂しさ,わびしさが強調されては逆効果かと。
身勝手なコメント失礼しました。本当に個人的見解なんです。次回は北茨城・高萩篇で。