この砂はみんな水晶だ。なかで小さな火がもえている。
- 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」,白鳥の停車場にて
先日ブログ記事にした県自然博物館の宮沢賢治展。「銀河鉄道― 」の展示で,天の川の河原の砂についてカンパネルラがそう語ります。展示品は「高温石英 茨城県日立市」。
高温石英? なんだそれ,面白そう。見ると美しく銀色に輝く砂が散らしてありました。
高温石英。日本中に産するようで,さほど珍しいものではなさそうです。石英は普通マグマが500度以下に冷えてから固化するものですが,それが577℃~870℃の温度帯で結晶化すると独特の構造になります。石英の結晶を水晶といい,ご存知のように六角柱状で一端が六角錐になっています。ところがこの高温で結晶化すると,六角錐を二つ張り合わせたそろばん玉のような結晶になるのだとか。うわあ見てみたい,というか採ってみたい。
世界的に有名なのは米国ニューヨーク州ハーキマーの堆積岩中に産するもので,透明で見事な結晶形であるのと強烈な光を放つところから「ハーキマーダイヤモンド」の名で流通しています。パワーストーン好きの方はご存知かと。
国内で有名なのは愛媛県の千本峠のもので,大きく立派な結晶であるばかりかそれが紫水晶(アメジスト)であるという。対して残念ながら日立のは無色透明で結晶もあまりないらしい。でも他の産地のを見る限り,透明というだけでも価値がありそうです。ぜひ行かねば。
で,やってきました日立市,初崎海岸。これも記事にしたことがありますが,日立の海はいつ来ても美しい。
ツワブキと
ハマギク。日立の海岸の暮秋を飾る名花が咲き残ってます。
巨大なカタバミが咲いていました。調べたらオオキバナカタバミという外来種。崖下に群生してました。困ったな,外来種なんだけどすごく好みだ。
さて初崎海岸。砂浜に寄ってみます。
ビーチグラスがいい塩梅にちびたのがたくさん。
そして石英。通常の石英やガラスとは全然違うぎらぎらとした輝き。間違いありません,高温石英です。
これが母岩。
化石とともに
通常の石英よりはるかに透明で,ぎらぎらと輝きます。さながら陽光を銀の炎に変換しているようです。
六角結晶も少ないながら確認できます。この母岩ごと持って行ってしまえば用は済むし,ハンマーもあるのですがあまり乱暴な真似はしたくない。ざくろ石で鍛えた「砂粒ピックアップ」で行きます。
ぷちっと。他の鉱物とは光り方が違うので,ざくろ石で鍛えたこの目とピンセットなら難なくつまめます。本当に,中で小さな炎が燃えているようなまばゆい光り方をします。ネットで拝見した他の地域の高温石英と比べても群を抜く透明度ではないかと。
ちゃんと結晶も見つけました。
思ったよりたくさん採れました。ちなみに青や黄色のはたぶんガラスです。色味が欲しかったので混ぜちゃいました。確信犯です。石にはシロートなのでこんなことも平気でできる。
ほらこれが天の川だよー。
シロートなので何でも自由。これはビーチグラスのちびたやつ。キレイなものはボクのもの。これはこれで美しい。ただ画面全体にある小さくて透明で丸っこいのはそのまま母岩にもたくさん含まれてました。たぶん高温石英と一緒に堆積した別の鉱物です。
また一つ宝物が増えました。
今年はすっかり岩石鉱物にハマった1年でした。久慈川でメノウや珪化木,パンニングでざくろ石や磁鉄鉱,トパーズ探しに行ったりもしたっけな。いいトシしてワクワクが止まらない1年でした。本当に楽しかった。…… なんでかな。
たぶんそれは,私が生物屋だから。もう県内の生物は知り尽くしていると思いあがっていて,驚くことが無くなったから。その点岩石はど素人,見るもの聞くものすべてが新しい。久しく忘れていた知る喜び,見つける楽しさを思い出したのだと思います。すなわち好奇心。
まだまだ錆びついてはいられません。生物記事と鉱物記事,しばらくは二足のわらじで行くと思います。どうかお付き合いくださいませ。
泳がせてみた。
↓ 2023年1月、初崎海岸が大変なことになったのですが
↓ 復活しました。
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