常陸大子篇
いよいよ県北芸術祭事後レポート最終回,大子篇に到達しました。読み方「だいご」ですよ。どうでもいいですか。今回も長いですよー。すごく長いですよー。
F-01 8days in daigo、Kindecoプロジェクト、ほか
F-02 8days in daigo、Kindecoプロジェクト、ほか
F-17 8days in daigo、Kindecoプロジェクト、ほか
公式HPではこういう扱いになってます。いきなりよくわかりません。どこからどこまでが01で02で17なのかわかりません。どうしてこういうことになってしまったのか。東京芸大の学生さんとかの作品群らしく,思わずおお,と声を上げるような作品はなかったなあ。むしろいかにも学生,しょせん学生という感じの,期待して見る分には情けなくなるような作品が多かったような。気になったものだけ写真をあげます。
① 奥久慈茶の里公園
当初のパンフレットではF-01だった会場です。工芸作品を並べた展覧会。
② 旧初原小学校
同じくF-02。各地でこの芸術祭の会場になった「廃校」の一つです。ただここ大子町は古い木造校舎を大事に使ってきていて,廃校になってもその建物の保存に力を入れています。おかげで多くの映画やドラマの撮影に引っ張りだことか。なんかうれしいですね。
小学校に向かう途中にあった,これも作品というか芸術活動。みんなでこのわらを少しずつ切り取っていくんだって。
…… いい加減にしてくんないかな,このテの「芸術活動」。
③ 大子町市街地
町の商店や街路を飾ったり神社の階段を利用したりしたものはこのイベントの意味をよく汲んでいたと思います。
「百段階段」と言うそうな。
旧銀行っぽい建物が再利用されて…… いない。ここも会場のはずなのですが,立派な「街かど美術館」の看板があるのですが,芸術祭会期中も会期後も,開いているのを一度も見たことがありません。何をやっているんだ。本当に何をやっているんだ。
この市街地の展示で,一番衝撃を受けたのがこれ。いえ,作品にではありません。会場になったこのお宅です。かつて「高級ブティック おしゃれの店ロンシャン」として営業なさっていたようです。作品から数メートルの位置のお店のバックヤードだった場所のドアが半開きになっていて,この店のオーナーであったと思しき女性がコタツに入っておられました。それだけでもう,この町の辿った歴史とかこのお店の盛衰とかこの女性の人生とかがうかがい知れてしまって,得も言われぬ感慨に襲われてしまいました。この衝撃を皆さんにお伝えしきれない己が未熟を残念に思います。
いったん市街地を離れて旧上岡小学校。「うわおか」と読みます。はい,ガルパンのファンの方はご存知ですね。「劇場版」で廃校の憂き目にあった大洗女子学園の面々が生活していた木造の学校がこれです。もうそのまま。もっとも,ここを見学した時点では私ガルパンを知りませんでしたけど。もし知っていたなら校舎内部の写真撮りまくってました。なんというかその,本当にそのままなんです。ガルパンに描かれた校内の間取りや調度や建物,私の小学校低学年ぐらいまでの木造小学校の「におい」,学校が地域の中心たり得た時代の真摯な教育,そんなものが詰まってました。再訪を期しております。
F-03 記憶装置
ごめんなさい写真ありません。実はここ,旧美和中学校とともに最初に訪れた場所だったので,印象のないものは撮らなかったんです。
F-04 沈黙の教会、あるいは沈黙の境界
かつての講堂に墨汁のにおいが漂います。墨を湛えた枠を黒い鏡にして漆黒を覗き込む,あるいは現実に無い風景を映しこむ,そんな作品です。壇上にたたずむ黒い球体,周囲から見下ろす歴代校長とPTA会長。黒が醸し出す静謐の中,見る人はそれぞれの内面世界と対話します。 …… よかった。ずっと見ていました。墨汁,一部乾いちゃってたけど。
で,ガルパンのファンの方はわかりますよね。あのシーンです。私はその前の,桃ちゃん号泣シーンでもらい泣きしてしまいました。
F-05 日渡の里プロジェクト 40人のクリエイターの40枚のポスター展「里山の人たちの暮らしがそこに在る。
印象なかったんでしょうね。写真ありません。
F-06 嘘つきだった子ども、大子で真実に出会う
なんかストーリーがあるようです。もともとの図書館の調度と作家さんの怪しげな装飾が混然一体です。
ガルパンの声優さんの寄せ書き? いまなら理解できます。
F-07 Spring
廃業した温泉の,そのお湯を野外に引いてみんなが足を漬けます。皆さん思い思いの楽しみ方をしておいでのようで,芸術か否かはともかく大好評のようです。おっさん一人では楽しみようがなかったけど,それは個人の問題。
F-08 庭にて ― 風と森 II
森林の温泉(もりのいでゆ)が会場。常陸太田篇でも言わせていただいたので繰り返したくはないのですけど,有料施設でそこを利用しなければ見学できないというシステムのヤツ。特にここは対応が不愉快でした。作品を見せてくださいとおじさんに言うと,たっぷりと間をおいてものすごくいやな顔をして,本当はちゃんと温泉に入ってくんなきゃ困るんだけど,売店で何か買ってくれたらまあいいよ,と。800円でアップルパイ買いました。で,作品は宴会場のステージに乗せられたただの絵。屏風に描かれたただの絵。こんな物のために800円。いまだに納得いきません。
…… もちろん作者が悪いのではなく,非常識の罪はあってもまともに接客のできない田舎のおじさんが悪いのでもなく,要するに県の担当者の交渉の仕方が悪かったのでしょう。
以下の09~15は,大子の町の真ん中にある古くて立派な個人病院の建物。今は漆工芸の保存と啓蒙をする団体の活動拠点だそうです。
F-09 茶の本
いい雰囲気の空間でした。書っていいものですね。
F-10 japan?
同じ形の立体3個を,地元の漆と中国の漆と合成塗料でそれぞれ塗ったもの。どうだ見分けが付くか? 見分けることに意味があるのか? 芸術家からの挑戦です。
F-11 Life Record ―生成と生業―
地元の木を使った木彫。うん,欲しくなった。
F-12 森の音のゆくえを辿って
ヘッドホンから木を切るチェーンソーの音などが聞こえます。う~ん,だから?
F-13 干渉する浮遊体
出ました機械モノ。自動的に生成されるシャボン玉がいつまでも浮かび続ける,儚いものを存続させる,そんな意味合いの作品。例によって機械がうまく作動しなくなって,係の人がときどき駄菓子屋で売ってるようなのでシャボン玉を吹いてました。機械ものダメ作品の典型。
F-14 velvet order(柔らかい秩序)2016 autumn sunlight
書の作品,と思ったらAIが描いたものだって。
F-15 折り紙ミューテーション
また出た。DNA折り紙(常陸太田篇参照)
何よりこの建物。昭和レトロと言いますか,これこそ町のお医者さんです。私の幼少時までは,お医者さんと言ったら町の名士で,緑多い街中にこんな立派な医院を構えていたものです。
診察室。こんな窓をすごく懐かしく感じるのは私の世代まででしょう。
展示会場になっていた2階は,元の入院患者用の病室です。柱に無数に開いた画鋲の跡。ここにカレンダーなんか貼って,入院の日数を数えたりしていたのでしょうか。
1階の廊下の突き当りには扉があって,その先はタイル貼り。広い裏口に通じます。その横の部屋が……
はい,これです。
きっと,裏口に救急車が付けられて,血まみれの患者さんが運び込まれたりしたのでしょうか。今は漆工芸の作業室として使われています。
F-16 大子 ロスト・アンド・ファウンド
撤退した銀行(ここもか。)の建物が「町おこし協力隊」という組織の事務所になっていて,その二階が会場です。古い8ミリフィルムの映像をだだ流しするだけの作品でした。それよりもかつてこの部屋で行われていた銀行幹部と地元有力者の密談とか,いま元の銀行窓口で地域のために働く若者の姿とか,そんなものに興味がわきました。
大子町は茨城県の北西の出っ張り,美しい里山の町です。茨城県最高峰八溝山,日本三名瀑の一つ袋田の滝を擁します。中心市街地は箱庭のようにコンパクト。御多分に漏れず寂れかけていましたが,今回の芸術祭で随分盛り返しました。無料駐車場完備。お洒落な古民家カフェ,名産のシャモ料理のお店など,街歩きが楽しめます。
↓ 芸大の学生の作品よりも,この商家の店先の生け花のほうが百倍芸術的でした。
↓ 女性におすすめ,daigo cafe。
評論家の川本三郎さんをご存じですか。映画評や文芸評論で名を成した方ですが,この方が「年に一度は必ず行く」町の一つがこの大子なのだそうです。それと知られぬまま一人駅を降り,一日歩き回って,最後に駅前の飲み屋でビールを一杯引っかけて帰るのだとか。川本さんはかつて左翼に共感し投獄された経験もあるなどなかなか香ばしい経歴をお持ちですが,大子はその人生の波乱を乗り越えてきた老評論家が安らぎと郷愁を感じる町なのです。皆さんぜひ一度おいでください。
F-18 連鎖的可能性―袋田の滝
袋田の滝に向かうトンネルの中を,次々と色を変える照明のチューブが照らします。この日の朝,テレビの朝番組で生中継にきていて,ちょうどスタッフの方々が機材を撤収するところでした。見てましたよ,お疲れ様でしたと声を掛けると,意外にも笑顔を返されました。東京のテレビの人なんて地方民にはもっと無愛想かと思っていたのはどうやら先入観,思い込みだったようです。
さて袋田の滝。
ここの最大の問題は駐車場です。町営の無料駐車場は遥か1キロ先。歩きたくなければ滝の手前の民間駐車場を利用することになります。これも滝から遠いところは300円なのですが,近くだと500円になります。滝の入場料が300円なのに。
とくにお気を付けいただきたいのは,一般車が入れる一番奥の橋のたもと,ちょっとしたロータリーになっているところ。道の傍が駐車スペースになっているのですが,もちろん有料500円。一人の老人,もとい,じじいが仕切ってます。このじじい,ある時は金を払おうとした客に,もっと奥に無料の駐車場があるよと教えます。その気になって行ってみると売店の駐車場。売店を利用する羽目になりえらく高くつくことになります。また駐車した客が山歩きの恰好をしていると,山歩きの奴は時間がかかって駐車場の回転が悪くなると言って車ごと追い出します。
いったいいつの時代の商売だじじい。
他の民間駐車場も,接客態度は大差ありません。車でおいでの方,ご覚悟ください。こんなことが横行しているうちは,茨城の観光地はダメなままでしょう。
すいません。つい怒りが。袋田の滝でした。
300円の入場料を払ってトンネルに入ります。行きついたところが滝つぼのど真ん前の展望台。水量の多い時にはしぶきを浴びながらの滝見物です。
エレベーターを昇れば,木々の間から滝の全景を見下ろす王道の視界が。紅葉の季節には,これは仙界の風景かというような錦織なす絶景になります。
地元では「日本三名瀑」と言ってますが,どうやらこれは「自称」の部分が大きいようですね。日光・華厳の滝と熊野・那智の大滝は国民だれもが認める名瀑ですが,第三はどうも他に名乗りを上げる所があるようで。でも断言します。この巨大な滝つぼの目前でしぶきを浴びる迫力,紅葉したカエデの向こうに見える黒い岩と白い滝の幽玄極まるコントラスト,そしてつり橋から臨む優美な横顔,いずれをとっても日本一だと。
こうして県北芸術祭百作品全制覇,スタンプラリーコンプリート! スタンプカードを送れば,一等賞はお米だとか。もちろん応募しましたよ。結果は以下の如し。
ま,こんなもんやね。
でも,地元・茨城県の再発見となる実に有意なイベントでした。
次回があるなら,また見に行きます。あえて制覇は狙わんと思うけど。