1年3か月前の,手術入院した時の思い出です。
病院で,手術が終わるまでのあいだ家族が待つ部屋。私が手術を受けた病院では,それをアトリウムと名付けてました。ガラス張りの天井の高い部屋を指す言葉だそうです。明るい照明,高い天井,広い空間。座り心地のいい椅子,ソファー,マッサージ椅子。大型テレビ,無作為に置かれた美術品。その病院のそれはアトリウムの名に違わず広く明るく,様々な設備が備えてありました。この空間で,家族は2時間,3時間,時にそれ以上の時間を過ごすのです。
病院内,外科病棟。手術室と集中治療室の間。一般の人は侵入不可な聖域に,それはあります。ドラマやアニメによくある,手術室のドアが単純な両開きで,その前の冷たい廊下のベンチで家族が待つわけではないのです。ちなみに手術室のドアは宇宙船のエアロックみたいのが何層もありました。
自分の手術を終えて,病棟で暇を囲っていた私は,ちょっとした好奇心からアトリウムを覗きに行ったことがあります。でもそこに待つ人々の不安に苛さいなまれる目,無言の中にテレビの声だけが響く静けさ。どの家族も集中治療室に移る患者の大荷物を抱えて。好奇心などというものに従ってしまった私の,何と浅はか,何と愚かだったことでありましょう。
今回,自分もここで家族を待たせる立場でした。少し長引きました。予定の時刻が過ぎても終わらない手術に,家族はどんな思いだったでしょうか。
今この瞬間も,不安に押しつぶされそうな心を抱えてアトリウムに待つ人々がいる。それを知り得た今回の入院でした。