ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

オオスカシバとクチナシの受難【虫です】

 ネット動画ニュースで,「不思議な蛾『オオスカシバ』」にハマる人たち」というのをやっていました。ゲームクリエイターの女性でオオスカシバにハマり,飼育して,人に慣れた「手乗りオオスカシバ」を得たといいます。「私の生きる目標です」とか。

 

 ふざけるなああ。

 

 奴らのおかげで,ウチのクチナシがどんな目にあってるか知らんのかあ!
 …… 知らんわな,そりゃ。

 

 うちのクチナシ。花開けば芳香かんばしく,果実みのれば正月料理の色付けに。我が家ではとても愛されているのですが,鉢にあったのを地植えにした場所がカーポートの北側。日当たりも風通しもよくありません。もともと陰樹であるクチナシにはさほど問題ではないと思ったのですが,どうもオオスカシバの産卵にはうってつけの環境だったようです。

    

 で,気が付けばこれ。 葉がない。

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 犯人はこれ。

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 9月後半から10月初めが連中の最盛期。毎日が戦いです。毎日見つけては駆除するのですが,毎日巨大な終齢幼虫を発見してしまいます。小さな幼虫が一晩で終齢になり,クチナシの葉をむしゃむしゃ食ってます。異常なほどの成長スピードです。一度10月の1日から5日まで仕事で不在にしたことがあったのですが,帰ってきたらクチナシが文字通り丸坊主になってました。

 

 若齢幼虫の食痕を見過ごすと

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 次の日には中齢幼虫の食痕となり,

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 次の日には終齢幼虫が葉っぱ丸ごと食ってます。

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 本年は10月3日,ついに最後の幼虫を駆除。クチナシに平和が訪れました。

 

 

 と思ったら。新たな敵を見つけてしまいました。

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 ルビーロウカイガラムシ。木の汁を吸って弱らせます。

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 これがメス成虫。枝に完全に固着し,自ら分泌した赤いロウに覆われます。

 

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 あ,ごめんなさい。ムシ嫌いの人には絶叫ものですね。手乗りカイガラムシ。ムシのくせに動きません。こいつの面白いところは,バーナーであぶると溶けることです。

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 なんせロウなもので。

 

 うわははは,見ろ,虫がアメのようだぁ

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 すいません,一瞬何かに憑依されました。ええ,ほんの一瞬です。

 


 すっかり悪者に仕立ててしまいましたが,オオスカシバ,実はとても美しくかっこいい昆虫です。美しい蛾私的ランキングでオオミズアオとトップを争います。

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 透明な翅。

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 鮮やかな斑紋。

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 そして流線形の太く滑らかな胴体。おそらくは空力的に極めて優れた飛行体です。高速飛行もホバリングも自由自在。高性能の飛行機は見た目にも優美なものですが,昆虫にも当てはまると思います。

 

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 本当は,もっと慈しみたいムシなんです。

 

 

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科学とオカルトの間に

 毎年,県内の高校の科学部や天文部やらを集める合同合宿というイベントがあります。バンガロー村一つを借り切る大イベントです。大イベントなのに運営がグダグダで,ワンマン主催者のその場の思い付きに現場の若い人が振り回されるという,まさに今の教育界そのものの様相を呈します。百人を超える生徒さんが集まるのにコロコロとその日の日程が変わり,しかも全体への通知が全く徹底されないなど色々と信じられないことが起こるので,私が好きなイベントではありません。ただ実際の現場を仕切る若い人には協力したいので,その中の「ワークショップ」に参加しています。

 このイベントのワークショップは,バンガローごとに大人の話し手が陣取り,それぞれの主題で講演や実験,ゲームをするというものです。私にはどんなテーマ,どんな時間制限でも自由自在にお話ができるという「話芸」(話術ほどのもんじゃない)がありまして,この話芸を毎年高校生に披露しています。テーマは「科学とオカルトの間に」。

 アインシュタインが言ったという「科学と宗教は同一の根から発した同じ一つの木の枝である」という言葉をマクラに,真面目に怪しいお話をします。けど,そんなものここで再録してもつまらない。ワークショップでの舞台装置をご披露します。

 

 話の性格上,ある程度怪しい雰囲気が欲しい。 そこでこういうものを使います。
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 これをこんな風に配置して

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 う~ん,感じはいいんだけどちょっと部屋が暗くなりすぎです。実は少し前からこの演目でやっているのですが,なかなかの人気講座で毎回3~40人の生徒さんが来てくれるので,部屋全体のことも考えねばなりません。

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 どう違うかわかりにくいでしょうが,実は下をアクリル板+白布から鏡に替えてみました。写真では露出の関係で暗くなって見えますが,部屋全体は明るくなります。アクリルはもっと少ない人数の集まりで使うことにしましょう。

 

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 中心に置いたのがこのガラス製の蓮の花。結構いいポイントになりました。今回の舞台装置,大部分は近くのメガ・ドンキホーテで入手したのですが,このロータスはガラス工房の売店で買いました(このためだけに!)。ちなみに大会運営からは一銭もいただいておりません。

 

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 で,こんな感じになります。我ながら楽しそうにしゃべってるなあ。このバンガローは二間続きで,写真の右のもう一部屋にも生徒さんがいっぱいいます。

 

 

 そして,我ながら器用だと思うのは,この後しゃべくりながら舞台を一変させます。

 

 ねえみんな,百物語って知ってる? 怪異話をするごとに百本立てたロウソクを一本ずつ消していくと,百本目が消えた時に恐ろしい怪異が起こるんだって。江戸時代に流行った時には本当に血なまぐさい事件が頻発して,幕府は何度も禁令を出したんだけど人々はやめなかったって……。

 

 と言いながらローソクを消していって,最後の一本になったとき「本当に何か起こると怖いから」と言って次の装置を並べます。

 

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 コレクションの一つ,赤玉。

 

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 これもコレクション,夜光石。

 

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 ロータスは残すけど,周りに小石を敷き詰めます。

 

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 で,こんな配置に。

 

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 ちなみに夜光石と小石。

 

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 夜光石だけ光らせるとおお不気味💛 高校生にもこれ見せてます。

 

 最後に,蝶の標本や冬虫夏草を見せたあと,この中で一番気に入った小石を一個持って行っていいよと。生徒さんわーっと。最近はワークショップを一度に2回やるので小石の補充が大変ですが,高校生たちが喜んでくれるのでやりがいがあります。

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 自分の好きなものを披露するだけで人に喜んでもらえる。私は本当に幸せ者です。

 

 

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クサボケの薬酒

シドミ酒
 材料 クサボケの実(木瓜もっか
 薬効 筋肉の引きつり,暑気あたり,

    貧血,強壮,疲労回復,補血不眠症

 

 薬酒づくり,好きです。

 

 いま手元にあるだけでも,イカリソウガマズミカラハナソウスイカズラチョウセンゴミシナツメ…… そういえば先日公開したツクツクボウシタケホワイトリカーに漬かってます。

 

 薬効はさまざまで,生薬は体質によるので効いたり効かなかったり。まあ趣味です。

 

 で,今日の主役はこれ。うちの庭のクサボケ。庭自慢にならないように注意して書きます。

 

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 出会いはもう十数年前。イモリを探して県北部の,そう「ひよっこ」の舞台になったあたりをうろついておりますと,山中なのにとてもよく整えられた田んぼがありました。その草刈りの行き届いた畔を歩いておりますと,いきなり足元に緑色のコロコロとしたものが固まって転がっております。よく見るとクサボケの実。ボケと比べてまん丸なのが特徴です。刈り込まれながらも,しっかりと結実しておりました。ちょうど欲しかったものです。ひょっとしたらここのお百姓さんのものかもとも思いつつ,3個ほど失敬してしまいました。家に帰って中の種を取り出し,家のラティスの下,私道のアスファルトとの間の1センチほどの隙間に蒔いてみたら,あらびっくり。たちまち芽を伸ばし,春には花を咲かせたのです。もともと多産系だったのでしょう。実もよく付きました。

 

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 道路の舗装工事の関係で庭のあちこち,ちゃんと土のある場所に移植されてからは大はしゃぎ。

 

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 高さ2メートルになんなんとするヤツ。2メートルのクサボケだとう? ただしこいつ,目立つせいでやたらアブラムシに狙われて,あまり結実しません。

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 庭の前面,街灯の下。高さ1メートル。花も実もたわわです。でも花壇を有効に使いたいという家族の申し出により,この収穫後に引っこ抜かれました。これがまた大騒ぎ。クサボケって,地下茎がものすごいんです。

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 塀の下。低く押さえてますが,ものすごく開花してものすごく結実します。

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 で,今年の収穫。軽く百個を越えました。固くて渋くて酸っぱくて,まったく食用になりません。でもなんかこう豊作だとうれしくなります。

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 輪切りにして,種子は取り出します。蒔きます。彼らの播種計画に加担しちゃうのです。人間の役に立つことであちこちに広めてもらう。多くの作物や園芸植物の作戦に,クサボケもちょっとだけ加えてあげましょう。

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 はい,輪切りなら3か月も漬け込めば使用可能。琥珀色の美しいお酒ができます。

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 これで終わると思った?

 

 私のブログです。やっぱりアレを出さねば。

           ↓ さてこのヒトは?

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 実をすべて処理し終わった下から出てきました。糸をつづって上手に隠れつつ,クサボケの実をかじっていたナイスガイです。お菓子の家でぬくぬくと育っていたのが,いきなり白日の下に晒されちゃった。愛をうたうこのブログですが,状況的に,すみません愛を発露できませんでした。

 

 

 クサボケ。日本特産,野生です。

    山野に美しく咲きます。

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 本当は,毎年花を見せてくれるなら,私にはそれで十分なんです。

 

 

 

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花物語 スミレ

 

スミレ程な 小さき人に 生まれたし   漱石

 

 夏目漱石がスミレ好きだったのは,研究者の間では知られたことらしい。「世の俗塵から最も遠く,しかもひっそりと静かな美を放つ無垢な存在」(『夏目漱石辞典』三好行雄編)ということだそうで,まあ現実から遠く離れたものの象徴ということでしょうか。

 

 でも私,結構現実の女性を花に例えたりしています。

 女性を花に例える,などと言うといろいろ異論を唱える世慣れた男性もおられましょう。なに,花というものもとりどりです。ラフレシアとかヘクソカズラとか。

 

 ……今度は女性に怒られそうですね。女性よりもこの花々の名誉のために言っておくと,ラフレシアの巧みにして割り切った生態は実に見事なものですし,ヘクソカズラは名で損をしているだけでその花はヤイトバナの名を賜るほどに清楚で美しい。 

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              ヘクソカズラ(ヤイトバナ)

 

 なまじ植物に詳しいもので理屈っぽくなりますが,要するにそのかんばせ,肢体,生きかた,信条,特技,そんなものを勘案すると,結構当てはまる植物名があるものです。

 

 黄色いグラジオラスに例えた女性がいました。気高く,美しく,凛とした花を夏の青空に咲きあげる,盛夏の花壇にあって一種清楚な気品を振りまく花のようなひとでした。


 くるくると色定まらぬ金銀花(スイカズラ)のような少女もいました。ああ,遠い昔のことです。

 

 で,今日ここで書きたいのはスミレの花です。

 日本は世界に誇るべきスミレの王国で,町中から離島まで,大雪山の稜線から西表島の滝の傍らに至るまで,全土に隈なくスミレの類を産します。厳密には60種,亜種や交雑種まで含めれば軽く100種を超えてしまいます。オーストラリア大陸全体で8種といえば,そのすごさがわかって頂けますでしょうか。
 そしてその中で,私が全スミレの代表と信じているのが「スミレ」,タチツボとかサンシキとか付かないただの「スミレ」です。学名ウィオラ・マンジュリカ Viola mandshurica ,混乱を避けて専門家は学名の「マンジュリカ」をその名に使います。花はこれぞスミレというべき濃い紫色,細長い葉をぴんと立てて,日本中の路傍や芝生に咲く「スミレ」です。「菫」と書くといっそうゆかしい。

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 スミレは,とにかく美しい。その美しさも,サクラやボタンの美しさとは趣を異にします。細く優雅な葉,かそけき花茎にそっと蝶が停まったような花がうつむき加減に開き,花と茎と葉が絶妙な調和の美を奏でます。そのはかなげな美しさは,夕暮れの青い風が吹く春の野そのものです。

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  そういう少女がいました。幸薄い少女でありました。両親は仕事で忙しく,幼いころから誕生祝いと言えば冷蔵庫のショートケーキひとつ。父親の事業失敗とともに家族は崩壊し,生家は売り払われます。本人はあわや犯罪に巻き込まれかけてPTSDに苛まれ,さらに身体に難治の病を得て苦しむことになります。手を差し伸べてもそれをつかむ力もないような少女でした。それはまるで,路傍で車輪の下に消えかかる一株の小さなスミレのようでありました。

 

 このような環境で,子供はどう育つものでしょうか。私には悪い想像しかできません。ただ貧乏なだけなら,そこからのし上がった偉人はいくらでもいます。でも,この少女の置かれた境遇で,普通の人間が世を恨まず,人を妬まずにいられるものでしょうか。

 

 しかし私は,生あるものの強さ,見かけからは計り知れぬ秘められた「力」を知ることになります。

 

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 スミレの学名「マンジュリカ」。この名は「満州」に由来します。残念ながらスミレは日本特産ではなく,その名が示すように大陸に分布の中心があり,そこの気候に適応した植物なのです。ゆえに,スミレにとって湿潤で森林が発達する日本の気候はあまり居心地がよろしくない。スミレの故郷は低温で乾燥した大陸です。そこは,過酷な環境ゆえ他の植物が繁茂することがありません。大地は常に陽光に満たされます。スミレは地面まで届く光を浴びて,存分にその生を謳歌するのです。だから日本でスミレが見られるのはヒトの生活の傍ら,路傍や芝生,アスファルトの裂け目,ブロック塀のすきま。乾燥も低温も怖くない。それこそわが本分。過酷な環境でこそ,スミレはその真価を発揮するのです。


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 少女は看護師養成学校に入り、常に主席であり続けました。満点に近い成績で国家試験を通り,一生の糧となる資格を得ました。良い勤め先を選び,やがて伴侶を得て,家族を持ちました。見事に,過酷な環境を生き抜いたのです。彼女はもちろん,自分がスミレの名を当てられていることなど知るよしもありません。ただひたすらに,持てる力を出し切ったのです。

 

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 こんな静かな夜は,昔出会ったあの幸薄い少女が,せめて今は静かな幸せに満ちて生きていてくれることを願います。雑踏のかたわらで,スミレがそっと花開いているように。

 

 

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木村昌福の本

(「指揮官・木村昌福」の続きです)

 

 木村ショーフクの本は3冊読みました。リーズナブルな文庫ですので,ご紹介しておきます。

 

①「キスカ島奇跡の撤退 木村昌福中将の生涯」

    将口泰浩  新潮文庫

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 この本が書店に平積みになっているのを手にしたのがきっかけ。新潮文庫の「戦後70年」フェアの対象で,出版そのものは3年前の文庫本でした。不覚。表紙のカイゼル髭で あ,ショーフクだ,と中身も確かめずにレジに持って行きました。以前何かの本でのキスカ撤退作戦と礼号作戦の記事に,「このような優秀な指揮官を兵学校の席次が低かったというだけで冷遇した日本海軍は,やはり敗れ去る運命だったのだ」とあった,その写真をずっと覚えていたのです。
 さてこの本,作者は現役の新聞記者。さすが文章がうまい。語彙は豊かで,主張もはっきりしています。何より木村昌福の何を伝えるかというストーリーがしっかり据えられている。ショーフクの人となりを伝えんと逸るあまり時系列が混乱気味なのと,執筆時期が関係者の多くが他界したのちで直接の証言が少ないのが難なのですが,旧海軍の良心というべき偉大な指揮官の事跡が余すところなく伝わりました。この3冊中一番のオススメです。

 

②「戦場の将器木村昌福 連合艦隊・名指揮官の生涯」

    生出 寿  光人社NF文庫

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 この作者は元海軍少尉。関係者の証言を多く取り入れたうえ,第1章・ベンガル湾での「撃っちゃいかんぞお」,第2章でミッドウエイでの重巡「三隈」救助伝説,第3章でこれも名セリフ「まっすぐ行け」を紹介したあと,第4章で誕生からの生涯を時系列で語る巧みな構成。戦記著述を多くものした人ならではの手腕で①で不明だったショーフクの若き日の行動が良く知れました。のみならず,ヒゲの男の生涯と無縁ではない国際情勢まで詳細に語られて文字通り「勉強になった」。日本がいかに誤った道を進んだか,ショーフクがいかに現場で実力を身につけていったか。日中戦争から太平洋戦争に至る近代史は余り学校で教わった覚えがなく,この本で初めて知った日本陸軍の傲慢。山本五十六(「いそろく」でちゃんと変換される有名人)という何の戦功もないくせに神格化された男を「将器も武運も持たぬ凡将」と切って捨てる爽快さ。士官名が出るといちいち(海兵第○○期)と注釈がつくうっとおしさを除けば良い読み物です。

 

③「第二水雷戦隊突入す 礼号作戦最後の艦砲射撃」

   木俣滋郎  光人社NF文庫

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 これは戦記文庫の一冊で,礼号作戦を紹介したもの。となるとやはり主役は木村昌福。1944年末のフィリピン。レイテ沖海戦後の,米軍の奔流のような侵攻にもはやなすすべのない日本海軍。ところがまた現場を知らない兵の命もどうでもよいという参謀が,殴り込み作戦を立案します。なんと米軍の物資集積地を,水雷戦隊で襲撃して来いというのです。敵の潜水艦,魚雷艇,そして何より厄介な米軍機が束になって待ち構えるフィリピンへ。もちろんこんな仕事,やり遂げる以前にまず引き受ける男がショーフクしかいません。さあそれから始まる大作戦。成功したところで米軍にはかすり傷程度の損害しか与えられないのに,海軍総出で皆がショーフクのために動き出します。ここでまたショーフクは名セリフとともに新たな伝説を作ることになるのですが,さて作戦の顛末は? この作者も旧海軍関係者ですが,余計な感情を入れず冷静に海戦の推移を書き上げています。

 

 ショーフクの戦いを描いた本は他にもあります。天下を取ったわけでもない,一般人の口に上がることのない単なる一指揮官にこれほど関心が寄せられるのはなぜか。それは①の著者がそうであるように,木村昌福を知った人が,みんなその人物に惚れてしまうからです。知れば知るほど好きになる。彼の部下たちがそうであったように,ただその事績をたどり人柄に触れるだけで,かの人の器の大きさに心酔してしまうのです。

 

 

 私がくどくど言っても仕方ない。どうかご一読を。出版社とは一切つながりありません。

 

 

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指揮官・木村昌福

 かっこいい男がいました。名を木村昌福。「まさとみ」と読みますが,周囲は親しみをこめて「ショーフク」と呼びました。人呼んでヒゲのショーフク。ぴんと横に伸ばしたカイゼルひげが頭の両側にはみ出し,それが後ろからも見えたそうです。太平洋戦争時の,海軍の一指揮官でした。


 大戦前半は巡洋艦の艦長。口うるさいことは一切言わず,大抵のことは部下に任せ,それをニコニコと見守っていました。


 敵機から魚雷攻撃を受けたときのこと。艦を左右に振って,操艦を任された部下が次々と魚雷を避けます。しかしとうとう左右同時に迫る魚雷に避けようがなくなり,部下が木村の顔を見ます。


「まっすぐ行け」――部下が困ったときだけ指示を出したのです。艦が受ける損害を,自分の責任にするためでもありました。これが木村という男。ところが,直進する艦に目前まで迫った魚雷は,なんと自ら針路を外して行ったのです。突然不具合が生じたのでしょう。いつでも天が手を差し伸べる,そんな強運の持ち主でもありました。


 大戦後半,負け戦の時期になって水雷戦隊の指揮官になりました。ひと悶着のあと任された仕事は,敵が取り囲むキスカ島から5800人の将兵を連れ帰ること。凍てつくアリューシャンの海に浮かぶ孤島,いつでも精強な米軍機と大艦隊が待ち受けています。半分も連れ帰れたらまあ成功だろう,艦隊も半分は沈められるだろう,そんな無茶な作戦でした。しかし木村は全員生還を期し,綿密な作戦を練り上げます。そして出撃。ところが,成功のカギとなる天候がさっぱり好転しません。木村は,非難を覚悟で引き返します。

「帰ろう,帰ればまた来れるから」――強行して多くの人命を失うことを避けたのです。死ぬのがホマレ,という当時の風潮では特異なことです。当然,道半ばで帰投した木村は非難の嵐にさらされますが,意に介しません。そして待ちに待った天候条件の到来時,信じられないような幸運の連鎖をまたも引き寄せ,一兵一艦も失うことなく,敵に気付かれずに5800名を日本に連れ帰ることに成功したのです。


 その後も,連戦連敗の日本海軍にあって担当する作戦をことごとく成功させ,大戦を生き抜きます。戦後は木村を慕う部下たちのために事業を立ち上げ,これを軌道に乗せました。最後に胃癌で亡くなるのですが,その葬儀のとき,それまで晴れていた空がにわかに掻き曇ります。参列した誰もが,天も木村の死を悲しんでいるのだと思ったそうです。

 

 リーダーなどという考えるだに厄介な仕事を避けてきたのに,とうとう主任を任されました。優秀な,ゆえに癖のある若いひとたちを統率し,その下にいる三百二十人に対して責任を負わねばならぬ職務です。これまで何十年も下っ端ばかりやってきて,自分のことだけを考えてきたのに。困った末に手本としたのがこの木村昌福です。部下を信じ,人を育て,責任を負う。水雷戦隊の指揮官になって強大な米海軍に立ち向かう,そんな気概でありました。それが5年前。


 結果はご想像にお任せします。

 

 

 

 ↓ ごめんなさい,30分で描きました。

 

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鶏足山にて

 

 

 このブログ,9月に始めたばかりなので,すいませんまだ作法もよくわかっておりません。なんかあったらご教示を,と言ってもそれを読む方法もわからない。読者になってくださった方,ごめんなさいでありがとう。

 撮りためた写真を公開するのが現在のありようです。古い写真もご容赦を。

 さて今日は,茨城県城里町の鶏足山(けいそくさん)からの眺望をお届けします。栃木県との県境にあり,標高430メートル。弘法大師伝説の山で,高さも山容もここらに連なる低山丘陵の一つに過ぎないと思えるのですが,なんか不思議な山なんです。妙にゆかしい。もし伝説通り弘法大師が鶏の声が聞こえたというこの山に何かを感じ何十年も滞在したというのなら,それも納得できます。何度でも来たくなる,そんな魅力のある山です。

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 そう思う人が多いのでしょう。近年訪れる人が増えて,駐車場やトイレも整備され,休日はそれもすぐに一杯になります。早朝に登って降りてくると,のこのこと昼頃に来て駐車場に入れないでいる人が早くどかんかいゴラァという目線を送ってきます。本来,こういう人がたくさん来る山には近づかない私ですが,この山だけは特別なのです。

 鶏足山に初めておいでになる方に一つ。地形図にある山頂のほかに,北側にもう一つピークがあるのでそちらまで足を延ばしてください。地形図の方の山頂に行くと,ここは山頂じゃないぞ!とかの私的看板がいくつかあるのでわかるかと思いますが。

 で,その北側ピーク。息を呑みます。周囲の高い木が切り払われていて眺望絶佳。北関東の大パノラマが広がるのです。以下,2017年2月4日の写真をご紹介しますが,一部他日のもあります。ブログ用にサイズダウンし,コントラスト強調とかしています。北から西方向にパンしていきましょう。

 

八溝山(やみぞさん,1022メートル

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 真北に見えます。なんとこれが茨城県最高峰。頂上まで車で行けちゃいます。つくづく平らな県です。ウェールズの最高峰が1085メートルなのと似てますね。でもおかげで土地は広くて豊か。「常陸国風土記」にも「真面目に働けば誰でも豊かになれる国」とあります。・・・それでもやっぱり,高い山がないのは寂しいなあ。

 

那須岳(なすだけ,1917メートル

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 主峰茶臼岳は雪雲の中。条件が良ければ八溝山との間に安達太良山まで見えるのですが,今日は無理のようです。

 

高原山(たかはらやま,1795メートル

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 立派な山ですねえ。昔はスキー場で有名でした。手前の中腹に見える三角形は,地形図によると牧場のようです。

 

鬼怒川・湯西川方面の山々

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 名だたる名山に囲まれて話題に上ることもない山々ですが,奥に見える県境の峰々に至っては1700メートルクラス。いずれも茨城なら一つあるだけでヒーローになれる,名山の資格十分なものたちです。高校野球みたいなもんですね。ねえ君,私立なんかに行って何百人に埋もれるよりも,公立でスターになってみないかい?

 

さていよいよ,北関東の雄,日光連山です。

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女峰山(にょほうさん,2483メートル

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 左の高いところが女峰山で,右の崩落しているあたりが赤薙山あかなぎやま)。

 

大真名子山(おおまなこさん,2376メートル
小真名子山(こまなこさん,2323メートル
太郎山(たろうさん,2368メートル
温泉ヶ岳(ゆせんがたけ,2333メートル

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 真ん中の高いのが大真名子,右が小真名子,よく見るとその間にピークだけ覗いてるのが太郎山。左の谷間のごついのが温泉ヶ岳。いっぱいあるなあ,2000メートル級。一つくらい茨城に来てくんないかなあ。

 

男体山(なんたいさん,2485メートル

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 文句なしに日光の「顔」ですねえ。いい顔してるなあ。茨城にも「男体山」はあるのですが,この「本家」の前では名乗れません。冬の茨城県内各地からも,この爪でひっかいたような雪の筋がよく望見できます。これほど見ごたえのある山って,なかなかないよね。つくづく栃木県民がうらやましい。
 ところでこの写真。栃木県民が見ることのできない奇跡のツーショットなの,わかります? そう,男体山の左肩に,奥白根山が乗っているんです。
 くっついて見えますがこの二山,10キロ離れています。間に戦場ヶ原があったりして。奥白根山は雪雲に覆われていることも多く,まず,ふもとの栃木県からは見えない。東側に距離のある茨城方向からのみのツーショットなのです。

 さらにこの写真にはもう一つ,気になるものが写ってました。左下の,これ。

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 なんだろう? 秋の写真には写ってなかった。

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 としばし考えて,はたと気づきました。コレだあ!

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 すげええええ。さすが天下の華厳の滝。直線距離70キロをものともせずに,茨城から拝ませてくれるとは。
 そういえばこれも男体山が作ってくれたものでしたね。本当に得難い山だ。f:id:xjino:20170918132005j:plain

 

奥白根山(おくしらねさん,2578メートル

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 「白根山」が正式名称で,同名の山があちこちにあるので「日光白根山」と呼ぶのが妥当,であるらしい。でも私にはこの名が馴染みです。ここより北にこれより高い山はなし。ちゃんと活火山。狭義には,この溶岩円頂丘が「奥白根山」であるらしい。

 

錫ヶ岳(すずがたけ,2388メートル
笠ヶ岳(かさがたけ,2246メートル

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 奥白根山に登ると,西のほうにはるか見下ろせちゃうのがこれ。低いなあ,なんて思っていたら,実はこんなに高い山だったんですね。右のピークが錫さんで,左にちょこんと覗いているのが笠さんです。あまり登る人もいないらしい。もったいないなあ。茨城に来てくんないかなあ。
 
足尾の山々

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 冬に真っ白な南面が輝きます。白いのは木が生えてないところに雪が積もっているから。

 

皇海山(すかいさん,2144メートル

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 Sky-Sunだって。なんてポップなお名前。見る角度で山容がずいぶん違って見えます。栃木県側から登るのがとても難しい山だそうな。茨城に(以下略)。

 

袈裟丸山(けさまるやま,1961メートル

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 すっごい断崖の山に見えますが,ハイキングに人気とか。

 

赤城山(あかぎやま,1828メートル

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 一番高いのが主峰黒檜山。巨大成層火山が大噴火してカルデラを窪ませた姿です。そういう地質的な意味合いが私には面白い。ちなみに左裾のかなたに草津白根山が見えることもあります。

 

浅間隠山(あさまかくしやま,1757メートル

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 さてこれ。一体なんという山かとずっと疑問でしたが,最近こういう結論に至りました。自信ない。

 

浅間山(あさまやま,2568メートル

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 大活火山としておなじみ。この夏も火砕流の跡を見学してきました。純白の衣をまとい,長い裾をたなびかせ,地平線のかなたにそそり立つ。たくさんの人の命を奪ってきたというのに,なんと美しい姿でしょうか。神々しいとはこのことか。左に剣ヶ峰,右奥に見えるのは四阿山かな。

 

八ヶ岳(やつがたけ,2899メートル

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 いわゆる南八ヶ岳の峰々と思われますが,この手の山に登ることがないのでは詳しくは。はるか西南西方向のとんでもなく高いところに白く光っているので,初見では雲かと思っていました。直線距離で180キロ近く。信州方面に旅行して,八ヶ岳はとにかくあの立派な山容にいつも見惚れます。古い古い時代の大火山です。

 

富士山

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 直線距離190キロ。筑波山塊に邪魔されて,茨城県北から見える場所は限られます。見られただけでありがたや。ちなみに鶏足山頂は南西方向の視界がないので,富士山ポイントは中腹にあります。

 


 こういうのを山座同定というのでしょうか。平野武利さんの「山頂にて」という素晴らしい写真集を見て,ちょっとこういうのに憧れていました。平野さんのは赤外線フィルムを用いた本格的なものでしたが,私は素人なりに楽しんでみました。山名については浅間隠山以外はまあ当たらずとも遠からずかと。今ならカシミールとか使えば確認できると思うので,どうぞ。 


 白茶けた写真ばかりだったので ↓

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 フユイチゴの実も美しく,なべて世はこともなし。

 

 

 

 

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