常陸太田篇
続きます。誰の得にもならない,もう終わったイベントのレポート。そもそもこのブログ自体が私的備忘録なもので。数少ない閲覧者のみなさんありがとうございます。今これを見ていてくれるあなたのために。
D-01 山海魚 LOVE
見晴るかす紅葉の大絶景に囲まれて,竜神大吊橋という巨大建造物の下にこじんまりとありました。完全に埋もれてました。いかに意味性があろうとも,この幼稚園児に作らせたような造形では絶景に負けて当然です。
そもそも,この竜神大吊橋そのものがアートなんです。決して地元をヨイショする気はないんだけど。
D-02 庭にて ― 風と森 I
同じ作者が大子と太田,それぞれの小さな有料温泉施設に絵を展示してます。大子のほうはそちらで書きますが,こちらの「竜っちゃんの湯」という施設の人は親切で,絵だけ見せてくれと言ったら快く通してくれました。で,言っちゃあなんだけどただの絵。これだけのためにおカネ払う価値なし。
D-03 「ART ZOO」:サファリパークプロジェクト in 常陸太田
これぞ,この茨城県の山野を舞台にした芸術祭のための芸術。休耕地にブリキの動物たちが草を食む,自然と人工物のハーモニー。これほどこの場に調和する芸術があるでしょうか。
午後遅い陽が逆光になってましたが,最近のカメラは性能がいい。難なく撮影できました。
フタコブラクダやキリンと,盛りと咲く十月桜。シュールだ。
芸術とは人を驚かすものでなくてはならない。いろんな人に,いろんなかたちで。
太田の山中に取って付けたような箱もの施設。維持できなくて閉鎖されていたのが次の舞台。茨城にはこういうバブルの残骸がごろごろしてます。都会ならすぐ取り壊されてもっとおカネになる施設に変わっているんでしょうけどね。ここの展示は,いずれもグループ/チームによる合作で,生命科学を共通項としています。バイオアートと言うそうな。私が訪れた時にはシンポジウムみたいなことをやっていましたが,もちろん興味を持つ一般客はいませんでした。アートというのは会議で話し合ったり理論を組み上げたりで作るもんじゃないと思います。
D-04 ケアとコントロールのための容器
暗黒の室内に二つの箱。一つはパイプを通じて外界と繋がり,箱の中の巣にミツバチが出入りしてます。もう一つには微生物が培養される予定だというのですが,今はイミテーションだそうで。……ここの展示は練習かなんかかい。そもそも解説が必要なアートって,アートとは言わんぞ。
D-05 旧展示室
この建物が現役だった時の展示室だから「旧展示室」。はいはい。
D-06 aPrayer まだ見ぬ つくられしものたちの慰霊
分子生物学の発展とともにこれから実験室で創出され,死ぬことになる生物の慰霊だそうで。そうやって自己満足に浸っていてください。
D-07 空白のプロジェクト#3 – 大宇宙(うちゅう)の片隅
この施設の展示で唯一面白かったもの。この無造作に転がった苔玉,ときどき,ほんの一瞬だけ動くんです。本当に忘れたころに。内蔵された生物電池を動力源とするそうで,「科学」を使っても「科学」で解説しない。他の展示も見習って欲しかった。
D-08 ヴァイド・インフラ
高級家具店のインテリアコーナーでこんなの見たぞ。
D-09 折り紙ミューテーション
DNAを漉き込んだ地元の和紙を使った折り鶴だって。××を××する××を示唆するんだって。
ここからの作品は常陸太田市の市街地での展示です。ここは佐竹氏の居城のあった古い城下町で,鯨の背のような細長い大地の上に昭和の商店街が残ります。佐竹氏は平安時代からこの地を治めた豪族で,戦国時代に大大名に成長しますが,関ケ原の戦いの結果秋田に転封されます。地元には今でも佐竹氏を慕う人が多いとか。
街並みはもろ城下町。狭い道がかくかくと折れ曲がりモータリゼーションを阻んだことで,昭和40年代くらいまではこの地方の中心都市だったのがすっかり没落してしまいました。この歴史がいくつかの作品のテーマになってます。
A-01も同じ作者ですが,そちらはいまいち迫力不足でした。でもこれはなかなか。大空にぬぼーっと突き立つ姿は,竜神の名にふさわしい威厳に満ちてます。なんかおじさんが一人で作っていたよ,なんて目撃証言を聞いて,きっとこの芸術家は何かと戦いながら,内なる自分と語り合いながら作品に向かっているのだろうなあと思いました。
駐車場に車を停めて,てくてくと商店街を歩きます。11と12の会場は,昭和初期に大実業家が寄付して市役所として使われた建物。本当に,昔は偉い人がいたものです。
D-11 イ / バ / ラ / キ
2階の講堂を占めるこれは,そばで見ると茨城県の立体地図であることが知れます。実に場の雰囲気に合った展示でした。
でも申し訳ない事に,この古い名建築のほうのインパクトがありすぎました。
名探偵が「話は聞かせてもらったよ」なんて言いながら降りてきそう。
照明一つ取ってみても,芸術的としか言いようがない。最近の公建築の効率優先,コスト優先の画一的な作りようとは,根本的に発想が違いますね。
D-12 常陸佐竹市
で,この建物でのもう一つの展示。ここ太田を「常陸佐竹市」という架空の町と設定して,その歴史,地理,産物を並べています。「佐竹力」なんて発想に瞠目します。並んでいるものがすべて実際の当地の物なので,意外にも面白かった。
D-13 リビングルーム鯨ケ丘
空き店舗の内部をフリースペースに。高校生のグループがなんか話し合いしてたけど…これ芸術なの?
D-14 サインズ オブ メモリー2016:鯨ケ丘のピンクの窓
地元の人からの聞き語りを作品にしたもの。というと常陸多賀にもあったけど,こちらは面白かった。とにかく規模がすごい。通り沿いのすべての店の人から聞き込みを行い,それぞれの店に貼り出しています。手間も偉いし,余計な自己主張を入れないのも偉い。これは立派な芸術的行為です。
D-15 Life Stripe
おそらく昭和初期の実に趣味のいい商家の内部。ロケーションもいいし,作品も面白い。たくさんの人(+犬,猫,ウサギ,牛)の一日を色分けした帯グラフで示したもの。大震災当日の沖合避難していた漁師,翌日の避難所で絶望的に働く市役所職員といったリアルなものから,亡くなる直前の寝たきりの老婆,結婚式を迎えた花嫁,生まれた赤ちゃんの最初の一日,なんて人の営み。果てはウサギの〔夜行性動物〕という解説,寝て食ってを繰り返す牛,猫は「昨日はケンカに負けた 今日は勝った」。一日って面白いなあ。
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「当たり」が多かった太田市街地の作品ですが,市内の風景もレトロでよかった。
洋裁を教える「文化服装学院」。昔はどの町にもありました。
味のあるお店のオンパレード。
謎の滑り台。
本屋さん。昭和の時代でもここまでのは珍しかったと思う。
昼食に寄った喫茶店。古本屋兼カフェ。水木金のみという営業日の自由さもさることながら,店主の趣味で固められた店内もかなり。
売り物の雑誌棚。貧相で超マニアックな品揃え。イバラードの図集,買ってしまいました。それだけで今日一日の元が取れた。
雑穀ランチもおいしゅうございました。
私にはこんな道端の光景もアートです。
良さげなお店がいくつも。第1回にも書いたけど,この芸術祭最大の成果は,寂れた街にも素敵な店が頑張っているのが知れたこと。その意味では続けていただきたいと思うのです。
朝は曇っていたのに,市街をひとめぐりするころには快晴。私の外歩きの日はいつもこれです。人生の大切なイベントを晴天にしたいときは私をお呼びください。
D-16 STAR.b
続けろと上に書いといてなんですが,というかこういう展示をやめていただきたく書くのですが,これは道の駅の高級そうなレストランの店内。たまたま開店前で写真を撮らせてもらえたけど,通常はここで食事をしないと見せられないそうで。
ほんと,やめましょうよこういうカンに触る展示法。例外なくつまんない作品だったし。
次回は常陸大宮篇。いかん飽きてきた。急がねば。