紹介HPより
写真家・今森光彦さんの最新写真集「オーレリアンの庭」。
同じく,紹介HPより
ページをめくるたびにタメイキ。ふう……。
オーレリアンとは蝶を愛する人たちのこと。ラテン語です。蝶の蒐集は,遠くヨーロッパで自然を愛する知識人や少年の趣味として広く認知されていました。ヘッセの小説にもよく出てきますね。また日本でも今の60代くらいまでは蝶の愛好家がたくさんいたものです。 …って過去形だと滅んじゃったみたいだな。私は親しみを込めて蝶屋,と呼ばせていただいてます。山で遭遇することは少なくなりましたが。
で,オーレリアンの庭とは,そんな蝶屋の夢を実現した庭。チョウをはじめとする様々な昆虫が生まれ,成長し,生を謳歌し,また子孫を残し,自然が循環する庭。朝起きればアゲハがクサギの花を訪れ,ミンミンゼミが鳴き,エノキの梢をタマムシが飛び交う,そんな光景が目の前に展開する庭。今森さんは,生まれ故郷に近い琵琶湖のほとりの農村に広大な土地を求め,自ら重機を操縦(なんと大学は土木科!)して池をつくり,昆虫少年の理想空間を創造してしまったのでした。ああああうらやましいい。
昆虫写真家の今森さんにしてみれば,居ながらにして被写体に囲まれているという趣味と実益です。でもそれだけではないと思う。今森さんの生涯かけたテーマは「里山」。ヒトが農業を営む上で維持・管理してきた,ヒトと自然が共存する空間。その日本の里山が人口減少,農業の衰退に伴う管理不足で滅びかけています。里山は生命多様性の依り代,しかしその維持には大変なヒトの営為が必要です。今森さんは,自らの懐をノアの箱舟として,多くの生きものを守り育てる決意をしているのです。
ああ,でもやっぱりうらやましい。読者の皆さんには,私が庭のスイカズラ(植物)にアサマイチモンジ(蝶)が産卵に来たと喜んでいたのを覚えておられる方もいるでしょう。私のささやかな庭ではこれが限界。今森さんの庭とは次元が違いすぎる。私に限らず,多くの元昆虫少年では夢に終わることを実現しちゃったんだよなあ。自分の庭にオオムラサキやナガサキアゲハが生を営むなんて,それは蝶屋にとって桃源郷そのものでありましょう。
はあとため息をつきながら庭に出てみました。オーレリアンの写真を見たあとで私の庭。なんか劣等感というか気後れというか。いいや,私にとっては宝の庭です。
クサボケ。あと少しで開花です。
なんだこりゃ。調べてみたらジンガサゴケというものらしい。
我が庭は,昆虫の活動にはまだ早いようです。
昆虫少年であった人ほど自然を愛するものはありません。現に自然科学部門のノーベル賞を取った日本人の先生たちはみな,子どものころ昆虫採集が大好きだったと思い出を語ります。少年は昆虫と関わることで科学的探求心や自然への畏敬を身に着けるのです。都会の公園では捕虫網を持った人にヒステリックに反応するご婦人がいると聞きましたが,どうか未来のノーベル賞のためにも大目に見てあげてください。昆虫採集は,科学者を育てる最も重要なメソッドなのですから。