ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

おわりにむかうはじまりのうた

 


            【虫】回です。

 


 夏というおのれのために誂あつらえられた季節を存分に使い切って、虫たちが静かに退場の準備を始めました。その、後ろ姿を。

 


 どこにでもあるカタバミ。葉がかじられてるのわかりますか。どこにでもあるカタバミを食べるのは、これまたどこにでもいるやつ。ほら、あなたの足元にも。

 


 その名はヤマトシジミ。小さな小さな、いるんだかいないんだかわからない、でもどこでもいるシジミチョウです。地面すれすれにちろちろと、都心の歩道にだって飛んでます。成虫が蜜を吸うのもカタバミの花。カタバミさえあれば生きていけます。かつては北東北までの分布でしたが、今や北海道に上陸しつつあり。人の生活に寄り添って、カタバミと共に生きてます。ジノ。はこういうものが大好きです。

 

 


 茨城生物の会の活動で、仲良くなった昆虫少年がいます。先日のきのこ観察会でもきのこそっちのけで虫探し。自分の子ども時代を見るようで思わず目を細めてしまいます。その少年が、桜の木から剥がれて落ちた地衣類をいじりながら、シャクトリムシがいると言います。え?え?まさか、先日自然博物館の地衣展で見たアレでは。

 


 そのまさかでした。静止画でわかりづらいかと思いますがこれ、地衣のカケラじゃありません。少年の手の平でぐりんぐりんと蠢うごめくそれは、シラホシコヤガというガの幼虫です。うわあよく見つけたなあ。地衣類に完璧に擬態しつつ、それを食べてます。

 


 自然博物館の展示。わざわざこの幼虫に似せたリュックを作って擬態体験だって。ああ、おっさんひとりでは背負う勇気がなかった。でもまさかこんなすぐに本物の虫に会えるとは。昆虫少年、すでにしていい眼を持ってます。将来が楽しみ。

 

 


 週2回の「駅までさんぽ」で必ずお寄りする旧県庁広場。あまりここの雑草や虫の話を書くと管理のお役人や園芸業者さんに大迷惑なのは知ってます。いいえ悪いのは種子をまき散らす植物と勝手に飛んでくる虫とそれらを見つけてしまう私の眼なんです。

 


 で、これはナンテンの植え込み。間からエノキの苗が育っています。…… だいぶ食われてるな、と思った瞬間に見つけてしまいました。

 


 アカボシゴマダラ(蝶)の幼虫。水戸の大通りの歩道を堂々と悠々と飛んでると思ったら、本当に街中で繁殖してたんだ。

 


 懺悔しているわけではありません。これが通常の待機姿勢。

 


 いるわいるわ、この小さなエノキ1本に3匹も付いてました。秋の終わりまでに丸坊主にされることでしょう。幼虫の食欲は凄まじい。この中齢幼虫が越冬態で、やがて木の根元に降りて春までの眠りに就きます。

 


 関係者には本当に申し訳ないのだけど、雑草はびこる植え込みは私にはとても楽しい場所です。ナス科のつる植物ヒヨドリジョウゴの葉にはナス科の天敵オオニジュウウヤホシテントウ

 


 近づくと葉の裏に隠れました。トマトやナスの大害虫も、こうしてぽつんとこそこそと生きてる分には可愛いものです。

 


 こういうのとも目が合ってしまいます。成虫で冬を越すバッタ、ツチイナゴ

 


 なーんも考えてなさそうですが、低温で乾燥する水戸の冬をひとり乗り切ります。

 


 こいつも。右のほうに写る白いやつ。

 


 ウラギンシジミです。こんな薄っぺらい体でどうやって冬を過ごすのか。

 


 虫なんていつも同じように見えるでしょうけど、彼らは知ってます。10月は冬に向かう季節、滅びの始まる季節。誰よりも敏感に自分の季節が終わったことを悟り、青空の下、終わりに向かう始まりの歌を口ずさみます。

 

 


 広場の外、道路沿いの植え込みにもエノキは生えていて

 


 アカボシゴマダラの卵を見つけてしまった。冬までに成長できるのだろうか。

 


 その一方でこちらは終齢幼虫どーん。デカいのはいいけど、この姿では越冬できません。彼らが越冬できるのは上記のような中齢幼虫の時だけ。これから冬までに蛹になり、蝶に変身し、相手を見つけて、卵を産み、それが中齢幼虫にまで大きくならねばこいつの子孫は残りません。やっちまったな。

 


 これは同じ道ぎわで見つけたアカボシゴマダラの蛹の殻。ちゃんとこの街中で繁殖してるってだけで偉いことなんです。

 


 同じ街区にタブノキが植えてあって

 


 見えてしまうのよ。

 


 アオスジアゲハの終齢幼虫。あああ可愛いなあ。このあと蛹になって冬を迎えます。あの夏空を切り裂くような青い光は封印です。

 


 こんな人工物の谷間にも、昆虫たちの生はあるんです。

 

 


 さんぽの帰路は、風が心地良い那珂川の堤防を歩くようになりました。

 


 堤防の道のど真ん中にトノサマバッタのでかいのがいて、近づく私にあたふたするのですが逃げません。ぎりぎりまで来てようやく飛び去りました。なんだかお尻を路面につけてましたが、はてこの場所に何が。

 


 アスファルトの割れ目に掘り跡。…… 産卵してた! えええ、なぜアスファルトに。周囲にいくらでも土の地面があるのに、よりにもよってこんな冬の乾燥や低温もろ被りの場所をほじって卵を産み付けてました。トノサマバッタの越冬態はこの卵です。母親なら我が子らが少しでも生き延びられそうな場所を選ぶものでしょうに、ここはデメリットしか思い浮かびません。ばったは何を考えたのでしょう。ばったの考えることですから、わからなくてもしょうがない。

 


 同日おなじ路上で、蚊柱のような羽虫の群れに巻かれました。服にもびっしり取りついてくるのをよく見たらアリ。オスの羽アリです。アリやミツバチは年に一度、巣に待機していた雌雄が一斉に飛び立つ「結婚飛行」を行います。オスはメスと交尾できたごく一部の者も含めて、エサを食べることなくすぐに死に絶えます。要するにこの一匹一匹が精子みたいなもんです。次世代に命を繋げるためのアダ花の群れです。これもまた冬支度。

 


 メスのツチバチ。地に潜ってコガネムシの幼虫に産卵します。メスだけ成虫越冬するらしい。ああオスって。

 


 ヒメマイマイカブリ。成虫越冬。そろそろ冬のねぐらを探す時期でしょうか。

 


 ヒメアカタテハは成虫でも幼虫でも越冬できるのが強み。その適応力と抜群の飛翔力・繁殖力で世界中に分布を広げたチョウです。

 

 


 つくば植物園にて。ハギの一種に盛んに産卵するチョウがいました。ウラナミシジミです。霜の降りる土地では越冬できず、関東では房総半島・三浦半島伊豆半島が越冬地。春になると代を重ねながら分布を広げて秋には北海道に達します。そして一炊の夢が終わります。

 


 やがてこの母蝶も、産み付けられた卵も、そこから孵化した幼虫もすべて死に絶えます。でも蝶はそれが徒労だったとは思わないでしょう。皆が前進することで、いつかどこかで実が結ばれる。昆虫はそうやってこの過酷な世界を生き延びてきました。私にはそれが、何より尊い生命の有りようと思えます。

 


 進め、小さき者たち。 進め、命。

 運命は歩む意志を持つ者を先導し、意志なき者を力ずくで引き立てる。

 

 

 

 

 

↓ あかぼしごまだら中国生まれ。

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