シリーズ「ジノさんかつてのフィールドを歩く笑」
ムサシアブミ。「武蔵の国で作られる鐙あぶみ」の意味です。なるほどこの形,鐙に見えます。
図鑑によると「関東以西に分布」とあるのですが,はてその境界はどこか。どうやら茨城県,それも東海村が分布の東北限のようなのです。
東海村と私の因縁はご存じだったでしょうか。実は十年間住んでました。JCO臨界事故にも遭遇しました。東海村が原子力の街なのは周知でしょうが,県内では極めて特殊な植物分布の土地柄で,自然観察者の間ではよく知られています。私もずいぶん歩き回り,ムサシアブミもその過程で見つけました。その時点で既知のことでしたが私は不勉強で知らず,なんじゃこれはとひどく驚いたものです。
一目ではよくわからない花の構造。ふと「クラインの壺」を連想します。
マムシグサとかミミガタテンナンショウとか,似たような花の近縁種と大きく印象が違うのがこの葉。大きくテカテカと光沢があって,いかにも南国のジャングルに似合いそうな植物です。
奇天烈な形の仏炎苞の隙間から花序の付く肉穂が覗けます。でもやっぱり立体構造が理解できない。
県のレッドデータブックでは「東海村が本県唯一の産地」であり,「盗掘が心配である」ということで県内での絶滅危惧ⅠB類,「油断すると絶滅しちゃうかもよ」扱いです。最近は何でもかんでも自然のものをタダで手に入れてメルカリで売りさばこうというヤカラがいるもので,確かに心配です。なんでちゃんと働こうと思わないんだろう。
救いは,この産地が道路から遠く車を横付けできない場所であること(この手の人間共通の特性として,歩いての移動をとにかく面倒くさがります),そして人目に付く場所であることです。またネットで「ムサシアブミ 茨城」と引くと筑波山のムサシアブミの写真がヒットします。自生なのか植栽なのかわかりませんが,県内で他に産地があるのなら福音です,いろいろな意味で。
飛び交うアオスジアゲハが夏の到来を告げます。青い光の夏の使者です。