百鬼夜行絵巻には奇妙な妖怪たちが描かれています。扇,鐘,弓,鍋,古楽器…… 古道具どもが浮かれ騒いでいてもちっとも怖くない。これはつくも神と申します。昔は百年使った道具には魂が宿り妖怪に変じると信じられたのです。単純な素材で丁寧に作られ,昔のことですから大事に使われもしたのでしょう。有り得ることかと人々は考えました。近代の製品でも大は蒸気機関車から小は懐中時計まで,一流の職人の手になる機械的なメカニズムには百年の使用に耐えるものがあります。おじいさんの古時計ってのもありましたね。
さて時計。
腕時計,CASIOのプロトレックを愛用しておりました。2007年製,方位・気圧・高度が測れる山行タイプ。デジタル表示モデル,チタンバンド。どこへ行くにも一緒。旅に出れば目覚まし時計,仕事ではストップウォッチ,アウトドアのみならず私の生活のすべてを支えてくれて,腕にない時は不安になるほどでした。ふっと左手を上げて時計を見る動作が反射運動の一つになっていて,つけてないのに左腕を見やったり。チタン製金属バンドというのもポイントで,ウレタン製バンドだと軽いしお値段も3万くらい安いのですが切れやすい。プロトレックのバンドの切れたのがよく登山道に落ちているそうです。落とさなくても,通常使用で切れるころにはカシオもバンドの在庫を廃棄していてもうありませ~んとか言われたり。永く使うのならチタンバンド一択です。おかげで私は十数年使い込むことができました。
そのプロトレックが壊れた。壊れたのは電子コンパス。北北東としか表示しません。もうその一点でアウトドアウォッチとして意味を成しません。どうせ修理に出してももう一個買えるくらいの請求をされるか部品がありませんと言われるか。
で土曜日,フィールドに出る前に買い求めたのがこれ。なんじゃこの配色は。山行タイプ,デジタルモデル,チタンバンドというと行った店にこれしか在庫がなかった。なになに,ヨセミテ国立公園で年数回しか見られないファイヤーフォール現象をイメージした特別仕様 …… いらんわそんな能書き。
まあ赤黒の配色はキライではないと,即金で買ってしまいました。ああまたこんな出費を。2020年のモデルのようで,先代から十数年経ってますが機能はまったく同じ。ある意味すごい。ドンガラは一回り小さくなって,でも重さが変わらないのもすごい。値段だけ3万円も上がってました。カシオさんたら商売上手♪
新旧比較。
共に歩き続けた十数年。星の夜を,霧の朝を,一緒に見上げてました。悲鳴をあげたくなるような仕事の修羅場を切り抜けた時も,永遠に続けと願った幸福に満ちたひと時も,常に傍らにありました。
壊れたのはコンパスだけで,時計としては健在です。もちろん捨てたりしません。フィールドには連れて行けないけど,書斎の時計に使おうと思います。ソーラー駆動の電波時計です。書斎のあるじが灯を点し続ける限り駆動を続けます。標準電波局がある限りその示す時は正確です。さて時計が先か,私が先か。ともに百年を歩んでつくも神になり果てるか。それはそれでまた一興。
よく仕えてくれてありがとう。静かに余生を送ってください。あと86年ほど。
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