菌の,と言ってもナウシカの「腐海」じゃありません。ちなみに「菌」は本来くさびら,つまりキノコのことです。
また性懲りもなく花園のブナの森に来ています。高速代やガソリン代を考えると私にはかなり贅沢なことなのですが,来てしまった。
前回(雨の森に潜って冬虫夏草とか見てみたり - ジノ。)の記事の中でふと呟いたのが,この森ではセミの冬虫夏草を見たことがない,と。そう見たことがないんです。いつも沢筋ばかり歩いているせいかな,尾根筋にはあるんじゃないかな。そう思ったらもう我慢できません。水戸北インターから常磐道に飛び乗ってしまいました。
道なき山中を稜線から谷へ下るというちょっと危ないルートで,プロトレックのコンパスを頼りに身を低くして歩き回ったのですが,結論を言うとセミの冬虫夏草は見つかりませんでした。目には自信あったんだけどなあ。でもいつもと違う道を行けばいつもと違う異形のモノたちのすみかに行き着きます。遠野物語のマヨイガに誘い込まれるように。
というわけで,今日は見たものを見た順にご紹介するだけの記事です。
今年はすっかりおなじみエゾゼミの抜け殻。ちなみに今日はいつもの90ミリマクロレンズではなく16ミリ広角レンズを付けてきました。周囲の環境まで写しこめればと思ったんです。まあ,あまりうまくいきませんでしたけど。
トチバニンジンの実。色味に乏しいこの季節には貴重な赤。
赤い色に反応してしまいました。ベニナギナタタケ。林床一面に出ていました。
蘭の仲間,ジンバイソウ。こんな地味なランもあるんです。たくさん咲いてました。
枯れ木から何かの幼菌が。このあとどんなキノコになるんでしょうね。
トビナナフシが死んでました。生命のるつぼ,森で生きるって大変なんです。
朽ち木の上にこれまた異形のものが。細めのテルテル坊主といったところでしょうか。コケ図鑑をいくら見返しても種名が知れません。ふと気づいて「地衣類」のカテゴリーで調べて,ようやくウスツメゴケという名にたどり着きました。つまりこれも菌類だったんです。
さあ困った,端正な姿が美しいキノコですが,その名がわかりそうでわからない。キシメジ科の何か,という恐ろしく雑な結論でお許しください。
これもよくわからない微小菌です。とりあえずヒダサカズキタケ属のキノコ,ということで。キノコの下には動物の死体か骨か糞か,そんなものがあるような気がします。
ツガノマンネンタケ。サルノコシカケの仲間で針葉樹の朽ち木から生えてます。木材の主成分セルロースを分解して土に返せるのはキノコだけ。それがいかに生態系の循環で大切なことか。食えるか毒か,とは違う視点でキノコを語ろうではありませんか。
本日見た冬虫夏草はこれ1種,そうです冬虫夏草界の定番,ハナサナギタケ。土の下には蛾の蛹があるはずです。何個体も見ることができたので,この場所も,私の目も,まだ豊かな生命の輪環の内にあると考えましょう。
おとぎの国のキノコ,ベニテングタケがこんなところに? それにしてはやたら小ぶりです。調べてみたらヒメベニテングタケというものでした。ベニのほうはシラカバ林のキノコで,茨城にはそんなものありません。絵本そのままの姿で輪舞するかのように輪になって発生しているそうです。いつか見てみたい。
エゾゼミがムシカビに斃されていました。前回もこんな哀しいセミを見かけました。ようやく地上に出られたと思ったらカビに食われて死ぬなんて,それまでの土中での数年間はなんだったんだろう。
暗い林床でコンパクトカメラで撮ったので画質 ↓ ,ツルリンドウ。今日は顕花植物に冷たいワタシ。
ムラサキアブラシメジモドキ。すごい色でしょう。この色を再現できたので画質はお許しを。
朽ち木にびっしりとイヌセンボンタケ。小さいとはいえ数千本のキノコがあたりを覆いつくすさまは壮観というかむしろ不気味で,一面に虫が蠢いているようにも見えます。コンパクトのほうで撮ったのですが,これこそ広角レンズ付きのちゃんとしたカメラで腰を据えて,群落全体を撮るべきだったと後悔しています。本当に甘いんだから。このヒトヨタケの仲間は名の通り消長が早いことで知られ,この群落も翌日には溶け崩れていたことでしょう。いいタイミングでした。
湿った朽ち木の表面に変形菌の「変形体」。これ全体で単細胞の巨大アメーバです。菌とは言いますがキノコではなく本当に陸生のアメーバなんです。このあと「子実体」に変形してくれないと種類まではわかりません。たぶんその子実体になるために木の表面にまで這い出てきたんだと思います。
拡大。ゆっくりとぐちぐちと動いてます。タイムラプス撮影をするとその不気味な動きを見ることができますが,私は遠慮します。ちなみにぽつんと付いている甲虫はマルヒメキノコムシと言って,なんと変形菌を専門に食べる虫なんです。驚くべし生命の輪環。冬虫夏草同様,多様性が保たれた場所にのみ生きることを許される生物です。
マンネンタケの成長途中の幼菌。
菌類の豊富な森には,その天敵キセルガイもたくさん住んでます。
コフキサルノコシカケ。巨大に成長するサルノコシカケ類の代表です。
「コフキ」の名は周囲にまき散らされるチョコレート色の胞子から。
これもサルノコシカケ類,エビウロコタケ。せっせとセルロースを分解しながら成長しています。頑張れ。
出たこの色,ムラサキハツ。実はフツーのキノコもたくさん見かけはするのですが面白くないので無視。学者じゃないから許して。でも見かけが特異なの,色では青や紫のにはどうしても気が行ってしまいます。この色に何の意味があるのかなんて問いは無粋の極み。ただ愛でたいと思います。
これで憑きが落ちました。この森に遺恨はありません。さあ次の冒険だ。
↓ フツーの私らしい記事でした。どうか。