1年ぶりに北茨城・花園のブナ林を訪ねました。いえ神社まで行ったことは何回かブログ記事にしましたが,ブナ林はそのまた奥の奥。重なる森のかなたです。
以前の記事でも触れましたが,ここのブナ林ではかつて多様な冬虫夏草を観察しました。その頃はこの奥山まで少なくとも月イチで通ったもので,まあ夢中だったんでしょうね。近年はすっかり足も遠のき,たまに来る程度では発生時期が微妙な冬虫夏草には出会えません。甘い者に自然は手厳しい。今日も期待はしないでおきましょう。
前日まで猛暑。この日から東風が吹いて森は霧に包まれています。この森の主,巨ブナも霧をまとって。
林床はしっとりと露に濡れてますが,沢に水がないのはここまでの乾燥した暑さのせい。
霧を吸った菌類(キノコ)がそちこちに顔を覗かせます。これは巨ブナのウロにあった幼菌。水滴をまとった育ちかけの姿が美しい。
倒木の材を赤く分解する「赤グサレ」の菌。種類はよくわかりませんが,きゃいきゃいとはしゃいでいるように見えます。森の木材を分解できる生物はキノコだけ。その結果木の構成物は土に還り,また次の生命の材料になります。キノコがいなければ倒木はずっとそのままで,物質は永遠に循環しません。菌類は実は生態系の重要な一員です。
よく森に落ちている材が青緑色になっているのを見かけます。ロクショウグサレキンという菌類の菌糸です。これも材木を土に返すキノコ。材の中で十分に成長すると,外に出てきて小さな小さな子実体(キノコ)を作って繁殖します。直径1ミリほど。こんなものが森を支えているんです。
コフキサルノコシカケのまだ成長中の子実体。サルノコシカケ類の代表種で,生きている樹木に取り付いて内部を菌糸で埋め尽くし分解し尽くして殺してしまう,いわば病原体的なキノコです。桜の木に付いていたらその木は永くありません。
タマツノホコリ。粘菌とか変形菌とか言われる一群の生物のうちでは変わり者,外れ者なのですが,茨城の森ではよく出会います。24時間前は巨大なアメーバ状の「変形体」で材の中や落ち葉の下を這いまわっていたはずです。菌と言いましたがキノコ類と類縁関係はなく,本当にアメーバに近いもの。森で暮らす巨大アメーバ。世界は驚きに満ちてます。
オニノヤガラ。これはキノコではなくラン科のれっきとした被子植物。ただしキノコは関わっていて,ナラタケという菌類の菌糸から養分をもらって成長する腐生植物,写真は実ができかけた姿。ちなみに掘ってみるとナラタケを取り込んだ大きなイモのような「塊根」があって,これを漢方では「天麻」と称し,めまいを止める薬草として使われます。
トチバニンジンの実。この植物は姿かたちが朝鮮人参そっくりで,少しだけ薬効もあります。
ソバナ。この辺りではよく見かける,晩夏を告げる花。
フシグロセンノウが咲き始めると,それが森の秋の始まりです。
で,ありました,1本だけ。冬虫夏草サナギタケ。地上ではなく木の幹のコケの間から出ています。久しぶりに見ることができてほっとしました。ほじくってみると,イラガの類のまゆから出てました。このキノコは蛾の幼虫の成分を再構成して作られるのです。魔法か錬金術か。
アルコールに漬けるといい色が出ます。
最近目立つのがこういうの。林床の材が崩されてます。実はこれ,クワガタ採りの人たちのしわざ。材を崩して,中のクワガタの幼虫を採集しようとしているのです。近年水戸市内の森林公園がひどく荒らされるのですが,とうとうこんな場所にまで出没するか。以前は人影少ない場所だったのに,今日のここには他県ナンバーの車が3台もあっていやな予感はしていました。いえ,私もかつては虫屋(昆虫愛好家)の端くれでしたし,虫捕りじたいは悪くない。悪いのは,クワガタ採りの多くが転売目的であること。お金が絡んだ瞬間から,自然愛好家は簒奪者さんだつしゃへと変貌します。それこそ根こそぎ採りつくそうとするし,荒らした跡の原状復帰もせずに次の場所へと去っていく。
いいでしょう,それも人それぞれかもしれません。私は自分の人生の中で,自分なりの自然観を確立するために歩き続けます。これまでも,これからも。
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