ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

生きてあること、出会うこと、御岩神社

 


 雷雲に降られた、いや振られた翌日。久しいこともあり、美味しいコーヒーを飲みたくなったこともあり、御岩神社に雨頼みを思い立ちました。


 下界は超の付く猛暑、人々の出足が遅いようです。私もいつもよりのろのろと出立しましたが、余裕で近い駐車場に停めることができました。僥倖と考えましょう。

 


 昨日の雷雲はここには恵みをもたらしたようで、境内はしっとりと落ち着き、水気に満ち、参道わきの流れも静謐な音を立ててます。水辺の好きなジャゴケが幸せそうです。

 

   
 こちらも幸せそう。境内は谷間を吹き降ろす風で、外界の炎暑を忘れます。

 


 そういう物言いをさせていただきます。水の流れに沿った気の流れ、それはこの龍の形をした島国の地下に巡るエネルギーのようなもの、これを龍脈と称します。ある種の古い神社はその龍脈の上に建てられているそうです。ここ御岩神社もその一つだと思います。雨上がりの精気輝く風情、水によって加速される龍脈。谷間に造営されたこの境内は、龍脈を集め精気を付与する巨大なシステムを構築している気がします。

 


 はい話半分に聞いてくださいね。私がここに魅せられている理由を述べたまで。さあいつも通りに見たものを挙げていきます。

 


 クサアジサイ

 


 マムシグサの実。ちゃんと名札が付けられてます。いつぞやはご迷惑をお掛けしました。

 


 ヤブコウジの花。これが10月には私の大好きなあの赤い実になります。

 


 「緑陰の小径(勝手に命名)」のヒノキゴケの絨毯。

 


 ヒノキゴケの間からオウレンショウジョウバカマ

 


 私の大好きなコミヤマスミレ光合成にいそしみ、彼らなりの夏を楽しんでいます。ここで蓄えたエネルギーで、また来春にあの可憐な花を見せてくれるでしょう。

 


 ウバユリのつぼみ。日陰ゆえ貧相ですがもともとこういう環境で生きるものです。じきに街頭スピーカーみたいな花をぐるりと並べて、ぶつぶつと何かを語り始めます。  


   
 今日はお願い事があるので、もちろん山頂まで参ります。木漏れる日射しと下草の緑とのコントラストが、多様な生気をかもして。

 


 タマアジサイの花火玉がはちきれんばかり。じきにここは紫陽花の小径になります。そんな過去記事があります。

 


 悪い癖だと思うのですが、山道でもつい平地と同じペースで歩くので息が切れます。あまり汗をかかない私ですがさすがに顔までだらだら。谷の冷気も利きません。もうトシを考えなくては…… なんてことを考えながら、表参道のご神木を過ぎたところで

 


 え…… ?

 

  
      つ、ツチアケビだあぁ!


 落ち着けわし。いいか落ち着け。まずは読者の皆さまにご説明しなければ。これは野生ランの一種「ツチアケビ」と称するものです。絶滅危惧種とは言いません、でもいつでも見られるものでもない。そもそもランの仲間が希少なのは、種子が菌類(キノコ)の菌糸と共生しないと成長できないから。このツチアケビもナラタケというキノコとくっつきます。でも驚くべきはそこから。何とツチアケビは一方的にナラタケから養分を奪い、その菌糸をずるずると麺をすするように食って栄養にしてしまい、大きいもので高さ1メートルにもなる花茎を伸ばすのです。そんなやつですから葉緑体を持っていません。葉も退化してます。菌類といえば化学戦のプロですが、そのプロを上回る能力を身に着けた、緑色を一切まとわぬ寄生植物。花姿の不気味さはそんな生態を裏付けるものです。

 


 秋に赤く成熟する実はどこかで見た記憶があります。でも花は初めて。それがこんな参道の傍らに出るとは。これこそ御岩山の神さまの計らいと考えます。

 


 私の常なる読者の方々は大丈夫と存じますが、いろいろな人がおられるネット世界、念のため申し上げます。掘り盗って植えても絶対に根付きません。種子も発芽しません。やはり野に置け蓮華草、現地で見てこそです。多様な生態系があってはじめて開く異形の花、ぜひとも御岩山の神気の中でご覧ください。


 この後山頂を目指して登っていく途中、偶然にも、懇意にしてくださっている神社の方々にお会いできたのでツチアケビのことをお願いしました。草刈りの際に気を付けてくださるとのこと、まずはひと安心です。

 

 


 山頂にて。涼風が吹き渡ります。神社の案内係のご老体からヒカゲツツジを教えていただきました。すこしひねった撮り方をしてみました。

 

   
 光の柱(正式名称ではありません)の周囲にしめ縄が張られるようになっていました。ご老体が皆さんに案内してくださるので、以前のように気付かずに下山、なんてことはないでしょう。

 


 個人的には外せない、奥の御嶽社にもちゃんと詣でました。

 


 さて雨のお願いをして、御岩山を下る途中でのこと。


 「ジノさんですか?」


 男性からお声を掛けて頂けました。私の姿かたちをご存じということは、かなりこのブログを読み込んで下さっている読者様です。以前に他の方からお声が掛かった時には驚いて失礼をしてしまったので、今度は粗相のないように。聞けばお花が好きでジノ。を見ているとのこと、途中にあったツチアケビももちろんご覧になったとのことで、やはりじかにお話する、これに勝るコミュニケーションはありません。短くも楽しいやり取りをさせていただきました。ありがとうございます。こういう時のために用意したお守り石を受け取っていただきました。ご無礼でなかったなら良いのですが。

 


 幸せな邂逅を喜びつつ下山を続けました。…… あと少しで境内という裏参道の最後のあたりで、また新たな出会いというか、気付きがありました。

 


 この植物。

 


 草丈は10センチちょっと。対生する葉は、花がなければタツナミソウの類と思い込んだことでしょう。その花も直径2ミリ、長さ5ミリ、花びら1枚に至っては1ミリ。こんなかそけき顕花植物があるのかと少なからず驚きました。こんにちは、はじめまして。君の名は?

 


 人間が勝手につけた名なぞ本人が知る由もありません。この実に覚えがあって調べたら、タニタという名を持つものでした。あたりを埋めるように生育していて、たぶんこれまで何百回となく目にしていたはずです。でも見えてなかった。今この瞬間、初めて見えたものです。見えるようになった。気付き、名を知ることができました。

 

 たぶん人の周りは、そんなもので満ちています。見えているのに気付かない、視覚野に写っているのに他の部位が認識しない。訴えているのに理解してやれない。この小さき者も、白いハンカチを振るようなその花びらに、今日初めて気付いてやることができました。



  
 余計なうんちくも添えます。このタニタデ、蓼と付きますがタデ科ではなくアカバナ科ヤナギランとかオオマツヨイグサとか、ド派手な花が売り物の、あのアカバナ科です。こんな地味な眷属がいたとは。地味な理由はたぶん、送粉昆虫がアリだから。写真にも写っておりますが、アリに花粉を運ばせているのでしょう。アリが相手なら派手な花びらは不要です、ただ蜜さえあれば。こうして微小な姿で林床に生きるかそけきアカバナ科が生まれました。いろいろな来歴があるものです。また一つ、この世界の多様性に触れた気がします。

 


 水気に満ちた境内に戻って。

 


 去年の10月に実ったヤブコウジの実と、今年のヒグラシの抜け殻が仲良く並んでいます。赤い実のほうはもう十ヶ月この色を保っているということか。

 


 ムツデチョウチンゴケの毛氈の上を動く虫がいました。おお気持ち良さげであるなあとカメラを向けたらそれどころじゃなかった。甲虫の幼虫がハヤシクロヤマアリらしいのに襲われている最中でした。命の掛かった修羅場の真っ最中。いえこれも自然の節理ですから手は出しませんが、これも気付いた、見えてしまったモノです。

 

 
 ミクロの眼ではそんなドラマの繰り広げられる境内ですが、コケで覆われた林床に日が射すさまはまことに幽玄、誰の心にも感興を呼び起こします。そんな風景を熱心に撮っておられる若い方がいましたので、キレイですねえと声を掛けたら丁寧に応じてくださいました。最近の若い人は本当にきちんとしていて、いつも楽しいやり取りができます。いい時代です。さっぱり会話の成立しない団塊の世代の諸兄に見習ってほしいところです。いえ、前にも書きましたが、今の若者が作る未来の日本は、きっと優しく思いやりに満ちた社会であろうなあとうらやましく思っています。

 


 美味しいコーヒーを頂いて御岩神社を辞したあと、富岡橋に行って、ここでもまた若い方とお話ができました。なんか今日はいろいろと出会いに恵まれます。もちろん玉川メノウをおみやげにしてもらいました。他県の方でした。どうか茨城に良い思い出を。

 


 そんなこんなで雨のお願いを終えた訳ですが、二日後、本降りの豪雨になりました。週間予報ではそんなことカケラも言ってなかったのに。御岩山の神さまって、すごい。

 

 

 

 

 

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