ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

緑野の9月、白露のころ

 

     

 「いつものフィールド」とカテゴリーまで作っておきながら、かの緑野りょくやにご無沙汰してしまいました。いやその、暑かったし。秋の風が吹き始めたので、軽く歩いてきました。

 


 カニクサだ。このわちゃわちゃした葉のつる植物のことですが、なんとこれ、シダなんです。つる性のシダ植物ってあまり聞きません。しかも、実はこれ全体で一枚の葉。葉の先端に分裂組織、いわゆる成長点があって、一枚の葉が無限に伸び続け広がり続けるという、考えようではなかなかSFホラーな生命体です。この小さな葉片から同じ形のものが次々と現れ、それぞれからまた同じものが…… これってフラクタルと言うやつでは。

 


 そのフラクタルなつる、いや葉の先端。ここからおのれの分身をわらわらと生み出していきます。身近な里山にも、こんな面白いやつがいる。

 


 センニンソウはいよいよ花盛り。至るところの草むらを綿を被せたようにこのクレマチスの花が覆っています。昨年に武生たきゅう林道で香りを知って以来、そのハチミツのような芳香で見ずとも存在がわかるようになりました。嗅覚で季節の移ろいがわかる。秘術のひとつを体得したような、ちょっとだけ心が豊かになったような気分です。

 


 ススキの葉先でモソモソしてたのが脱皮中のショウリョウバッタモドキの雄。立派な翅が生えて、いよいよ秋の野にデビューです。…… なんだけど、私がガサガサやりながら近づいたのでぴたりと動きを止めました。

 


 アブラ汗をたーらたーらと垂らしながらこちらを凝視しています。うふふふ、いやーなところで見つかっちゃいましたねえ、うふふふふ、脱皮中では動けませんねえ、うふふふふふ、さあどう料理して…… いやいや、何もしないってば。

 


 見たこともないマメ科らしいのがひと群れ、やぶを黄色に染めていました。マメ科… だよねえ。たぶん今までも視界にあったのでしょうが、今日初めて意識することができたものです。初めまして。なんかキミ、少し奇をてらってないかい。

 


 こんなねじれた蝶形花は見たことありません。旗弁はかろうじて判別できますが、翼弁と舟弁が揃ってあさってを向いてます。調べたら、どうやらこれがノアズキというものらしい。このヒン曲がった姿が常態とは、進化の途上で何があったのやら。どーせ自家受粉するしー、花なんかどーでもいいしーとか、そういうことでしょうか。

 


 ヒイロタケの、やたら端正なのが出てました。たっぷり雨は降ったし、今年は秋キノコが楽しみです。

 


 ツリガネニンジン、山菜名トトキが咲いてました。黄色が春の色彩なら、紫は秋の色彩だと思います。この先の、リンドウの開花が楽しみです。

 


 ワレモコウの花穂です。これで開花中の姿。これをバラ科と見極めた昔の分類学者はすごい。

 


 本当に現物をよく見ていたんでしょうねえ。

 


 最後にしてメインのイベントを。これはツルボユリ科から分けられたキジカクシ科(アスパラガス科)の、雑草です。茨城では野原や土手になんぼでもあって、食用でもなく、さほど人の気を引くものではありません。でも夕刻に見たこの群落のツルボたちから、一斉に撮影依頼を受けました。こんなに咲いたよ! もう見られないよ! 撮っていきなよ! 夕刻の光の中、車中からも目に鮮やかな紫色でした。

 

        
 これまでなら視界の端で捉えてなんだツルボか、と0.3秒で興味を失っていました。珍奇なもの、豪華なものにばかり目が行っていた。今日のこれ、私も少しはものが分かってきたということでしょうか。

 


 もちろん接写も。ああこれも秋の色を持つものであった。

 


 昭和天皇の逸話は前に書きました。雑草という植物はありません。みなそれぞれに、自分の好きな場所で一生懸命に生きてます。害虫でも毒草でもそれは同じ。そして植物なら開花というハレの日に持てるすべてのものを開放します。美しくないわけがない。

 


 今日は二十四節気の十五節、白露はくろ。草葉に露が白く降りる。いよいよ秋です。季節を告げる野のささやきに耳を傾けようと思います、なんちゃって。← 照れるか。

 

 


↓ 雑草とは。

 

↓ 先年の武生林道の記事。先日の「ポツンと一軒家」でここが紹介されてました。


↓ どうかこちらも。

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