【 字ばっかり注意笑です 】 ↑ チームラボ
深夜アニメのチェック、続けています。これはもう元漫研会長の業です。とりあえず新番組のすべてを録画して視聴し、始まり5分で消去決定するものからブルーレイ保存前提にCMカットするものまで、1月・4月・7月・10月の番組改編期は大忙しです。馬鹿だなあ。
そんな深夜アニメには、私が傑作!と叫ぶのに少なくともネット上ではさっぱり評価されないものが多々あって、その一つが 2021年の4月~6月に放送された「Vivy - Fluorite Eye's Song」。今回はまずこれについてひとくさり。
人気の出なかった理由は2つあると思います。1つはタイトルを英語で通してしまったこと。この時代でもみずからハードルを上げるようなものです。素直に「ヴィヴィ - 蛍石の瞳のうた」にすれば良かった。いや、こうなると「蛍石」も余計かな。ちなみに蛍石は高性能の光学機器に使われるレンズの素材です。そして不人気の理由のもう1つは歌。作品の大きなテーマである「歌」が、主題歌をはじめとしてどれもこれもインパクトが弱い。はっきり言って駄曲、感動できるような歌じゃない。それを作中できちんと流してしまっていた(歌の部分を飛ばすという演出が一般的)のが致命的でした。
ではどういうお話か。少し未来の、ヒト型を含む多くのAIが労働力として広く浸透した世界。やがてAIが人類を滅ぼすことになるその破局を回避するために、歌姫として作られた女性型AIが百年にわたる孤独な闘いを続けるという、少し切ない物語です。いわゆる作画崩壊は無く、脚本も綿密に練り上げられていて、特にヒロインのAIは毎回美しく、凛々しく描かれておりました。 ↓ キャプチャ
私が感心したのはAIの能力の正しい描かれ方です。物語後半、ヒロインは「歌」を作ろうとします。私たちなら、頭にふと浮かんだ適当な旋律でふんふんと鼻歌を鳴らすなど造作もないこと。しかしAIである彼女にはその「ひらめき」がありません。何年かかっても、主旋律の最初の一小節すら五線譜を埋めることができない。これがプログラムに過ぎないAIの限界です。 ↓ キャプチャ
2014年に発表されて世界をびっくりさせた「10年後になくなる職業・残る職業」…… すいません本当はもっとちゃんとしたタイトルの論文なんですけど、要するに将来AIを含む機械に取って代わられる仕事とそうでない仕事を予言したものです。思いっ切りざっくりまとめると、単純なルーティンワークがなくなり人間相手の細やかな配慮や個別の対応が必要な仕事が残るという、まあSFではずっと描かれてきた事態であって、そう驚くことじゃないよと世界に申し上げたい。どうせ政治家や経済人はSFなんか読まない人種だろうから。そういう人間が淘汰されるのが未来だよ、と先の論文は申しているのであります。個人的に納得できない部分もあって、残る仕事に「経営コンサルタント」なんてあるけどこれアメリカの話でしょ? 確実に残るものとして医者とか教師とか介護福祉関係とかが挙げられますが、絵描き歌つくり物書きといった創造職もAIに代わることはなかろうと。
エラそうにごめんなさい。何が言いたいかというと、最近お絵描きAIが評判になっていることなんです。
イラスト投稿サイト「pixiv」をよく覗いています。一般の人たちから投稿された作品が、昔は本当に創造的な、こちらも刺激されるようなオリジナルの「絵画」と評していい作品が多かったのですが、最近はアニメ調の美少女絵ばかり。誰が描いても同じようなお目目の大きな少女が、どうでもいい背景の前でワンパターンのポーズをとる。同じ絵で服を着ていないバージョンがありますよ、見たければこちらの有料ページで、というビジネスパターンまで出来上がってます。今どきのイラストはパソコン上で描かれるので、服を着せたり脱がしたりの部分修正が簡単なんです。もちろんこういう「絵師」にも本当に上手な方がおられて、たとえエッチな絵であろうとも正確なデッサン、そこにキャラクターの性格、感情、背景も含めた中にストーリーやもっと深いドラマまで表現できる人がいて、ああこういう人をプロと呼ぶんだなあと感心させられます。その一方で、こういう人がもてはやされるのを見様見真似、ただ人まねだけで乗り込んでくるツワモノもおられます。おいこれ人間の骨盤じゃないぞとツッコみたい絵の多いこと。いえ、表現したいという欲求は大切にするべきです、と才能の限界を実感した経験のある私は弁護しますけど。
ところが、近年ここに驚くべきツールが現れました。お絵描きAIです。適当なワードを入力して条件を絞り込んでいくと、本当に(手を汚さずに)描きたかった絵ができてしまう。なにこれ魔法?というレベルです。才能を持たず、技術の修練を積んだ経験のない人でも、どこかで見たような「作品」を仕上げることができてしまう。
美少女絵のほかに、例えば異世界風景なんてのはこのAIの得意分野になるかと思います。これまでは特別なインスピレーションのある人にしか描けなかったもの、自分には無理だと思えていたものが、わずかなキー操作でカタチになってしまう。覚えたての人にはたまらないでしょう。
でもすぐ気付くはずです。描けるのは本当に「どこかで見たような絵」ばかり。しかも何枚描いても同じような構図とタッチ。そりゃそうだ。AIは限られたデータ画像の中から、与えられたワードに従って絞り込み、組み合わせるだけです。新たなものを創造しているわけではない。
これが実際のビジネスの現場ではどうなるでしょう。例えば小さな印刷所の人がポスターのデザインから依頼される。田舎ではよくあることです。その人はAIで「絵」を作り、必要な文字を配置してできましたと納品する。自分は絵のシロウトなのでこれこれこうしましたと断れば何も問題はありません。しかしまがいなりにも「絵」を仕事にしている人、あるいはきちんとしたデザイン事務所がこれをやったらアウトです。AIの絵はひと目で分かりますから。何より、同じものが誰にでも「描けて」しまう。キミの代わりはいくらでもいるよというわけです。
前述の「pixiv」では、一つの絵を表示させると、投稿された他の作品から類似の絵がAIに選び出され、下のほうにサムネイルでずらりと並びます。最近、絵のジャンルによってはそこにそっくりの「作品」がどっと並ぶ、タッチが同じなのに作者名の違うのがごっそり、という事態が起こるようになりました。ものすごく気持ちの悪い光景です。美少女絵では従来もそんなものでしたが、まだ作者ごとの多少のタッチの差はありました。しかしAIに描かせたものは本当に同じ。あああ気持ち悪い。今は過渡期で混乱があります。もう少し経てば、結局生き残るのは、それでおカネが稼げるのは、本当にオリジナルの感性を持っていて自分の表現法を自在に駆使できる「上手」なひとだけなんだろうなあ、と思います。
↓ 田崎 太郎 作
結論、AIに奪われない仕事とは。それは高度な対人対応が必要な職業と、真の意味で「創造」が必要な分野。対人対応については言うまでもないので今回は語りません。ペッパー君に「ア・ナ・タ・ハ・ク・サッ・タ・ミ・カ・ン・デ・ス」なんて言われるの、誰だって嫌ですよね。そしてAIには真の意味での創造、つまりこれまでこの世に存在しなかった何らかの意味やメッセージを持つモノを生み出すことができません。文章や音楽は、コレっぽいものを、とAIに指示すればごく短い物なら作成します。作例データからソレっぽいタグの付いたものを探し出してくるわけです。でも「意味」を理解していないので、少し長くなると破綻してめちゃくちゃになるという。絵に関しては前述のとおり。
↓ 河野 甲 作
ではAIに仕事を奪われないためには。結局そのために我々がすべきは、外に出て対人スキルを磨き、幅広い分野の良いものに触れて感性を育み、自分の表現技術をたゆまず鍛錬する。AIに勝てる人間て、きっとそんなことができる人なんです。ちなみにこれ、すべてスマホによって奪われているものだとお気づきでしょうか。スマホなんて無ければいいのに、と考える若い人が意外と多いそうですけど、うんそれは正しいぞ。ながらスマホで歩いているおっさんは勝手に滅べばいい。でも君たちはAIに勝ってください。
今回のネタ本の一つ。売れた本なので読まれた方も多いかと。このネタでもう1本記事をモノしたいと思っておりますので、その時にご紹介を。