ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

魔女のイラクサ 久慈川のトゲ

 

         

           「野の白鳥(白鳥の王子)」


 西欧のおとぎ話にはよくイラクサの名が出てきます。アンデルセン童話の「白鳥の王子」では、ヒロインのお姫様がイラクサを手で摘み素足で踏んで繊維を取り、兄の王子たちを魔女の呪いから救おうとします。その一方でイラクサ魔女の秘薬の重要な成分でもあって、民俗学的には興味ある植物です。でも読者の皆さま、イラクサって見たことある?

 


 昨年の夏のことです。いつもの富岡橋の河原をうろついておりました。ふと陸側の竹林に続く草むらに、いつものことですが白い石がひと群れ捨ててありました。ここでメノウ拾いをされた方が不要なものを置いていかれたのです。わあい何かいいもん混じってないかなーと手を伸ばした瞬間。


 ぢくううっ


 腕に激痛が走りました。蜂に刺されたような、よく言う「焼け火ばしを当てられたような」というやつです。焼け火ばしをよう知らんけど。見れば確かに腕の一点が赤熱しています。痛い痛い痛い。何だ何だ何だ。蜂がいるのに気付かぬ私ではないぞ。何だ。


 …… イラクサだ。傍らにいかにもイラクサ科っぽい地味な草姿のヤツが立っておりました。

 


 イラクサイラクサ属の植物は世界に30種ほどあって、厳密には欧州の童話にあるものと米国の児童文学に出てくるのと日本のは別種なのですが、ほぼ共通の特徴を持っていて、まあどこの国でも同じような理解をされてます。いわく、


 ① きわめて栄養価の高い野菜になる
 ② きわめて効果の高い薬草である
 ③ 毒液を含んだトゲで覆われている


 うわあ、硬軟全装備というか。食用には茹でて水に晒し、薬用には乾燥させて、それぞれ毒トゲの被害を避けます。と言っても採取の時には危険を伴うわけで、ヒトにそうまでしても利用したいと思わせる、触れれば身の破滅とわかっているのに手を伸ばさずにはいられない、まさに悪の魅力を振りまく魔女のような植物なのです。見た目ジミだけど。

 


 困ったのは久慈川イラクサ。検索に落ちません。日本のイラクサ属は大雑把に言って西南日本の「イラクサ」と東北日本の「エゾイラクサ」、そのどちらにも当てはまらないんです。謎のまま終わりました。刺された痛みも1時間ほどで収まりました。

 


 さて今年。

 


 久しぶりの富岡橋。GW後の河原の惨状を見たくなくて足が遠のいておりました。

 


 ムシトリナデシコが咲いていました。昨年「わらしべポイント」の目印にしたヤナギハナガサの姿はなく

 


 残骸あるのみ。でも今年もやってみましょうか。で、かのイラクサめは

 


 あった。昨年より繁茂しております。実は知識を仕込んで参りました。帰化植物図鑑でセイヨウイラクサ、欧米でネトルとかネットルとか言うのが分布を広げていると知ったのです。こいつに違いない。今日はその確認に来たのでした。

 


 はい間違いありません。ヨーロッパ原産、まさに魔女の秘薬ネトル、セイヨウイラクサです。

 


 葉の付け根にある「托葉」が4枚あるのが国産イラクサとの違いです。

 


 大きさこんなもん。目立ちません。

 


 花期を迎えてます。他のイラクサ科植物より早め、かな。

 


 びっしりと生えた毒トゲ。

 


 注射器のような構造をしています。ケイ酸質、つまりはガラスのような材質で、皮膚に射さるとぽっきり折れて毒液を注入し続けます。何と悪魔的な。毒成分がまたエグい。


・腐食性の猛毒「ギ酸
・炎症を引き起こす「ヒスタミン
・痛みを伝播させる神経伝達物質アセチルコリン
・同じく神経伝達物質セロトニン


…… って、これぜんぶ動物性の物質じゃないか。植物がこれを作れるようになるには紆余曲折あったことでしょう。よっぽど恨みがあるんだろうなあ。

 


 言っちゃあ悪いがイラクサさんよ、その毒トゲで何を守ろうってんだい。このジミな花かい。ジミな花にはトゲがあるってかい。…… 大きなお世話でしたね、ごめんなさい。

 


 先の童話のお姫様はこれを手で摘んだということですが、童話ですからねえ。絶対に無理です。ぐっと掴んだその瞬間に手が腫れあがります。耐性ができることはありません。私は奇跡的に1か所のみでしたが、こいつの群落に半袖や素足で踏み込んだら「面」でぶぶぶぶと刺されますよ。絶叫ものでしょう。子供さんがそうなったらと思うと心からぞっとします。


 図鑑などの表記ではイラクサ、ありふれたものとあるのですがはて、私はこれまで刺されたことは一度もありません。写真もありません。私の周囲には少ないのか、それとも気付かないだけなのか。イラクサ属2種の分布境界というのが関係しているかも知れませんが、これまでは無事でした。そこに突如現れたのが今回のセイヨウイラクサ。茨城の気候に合っているのか。これからは気を付けよう。ただ、イラクサ科は似たものが多いので困ります。危険なのはイラクサムカゴイラクサだけ。富岡橋の河原にあった他のイラクサ科もご参考に上げておきます。すべて無害です。

 


              クサコアカソ

 


               アカソ

 


               カラムシ

 


 魔女のイラクサ、ただいま絶賛分布拡大中。これから春夏に久慈川においでになる方、湿って雑草が繁茂する草むらにお気をつけください。特にお子様連れの場合は要注意です。

 

 

 

 

↓ そういえばそんなことが。

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