ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

やままゆ / 幸運に生きてきた一匹の蛾が最後の最後に不運に見舞われるまで

 

 また【虫】モノ ですごめんなさい。必要以上にセンチメンタルなのも問題です。

 


 映画「敦煌」の終盤、西田敏行演じる将軍が、強大な敵に何度も突撃しては押し戻され、おのれェェあと一歩でェェと歯がみします。古い映画ですいません。最近の製作委員会映画に、こういう骨太のってないですよね。

 

      
 さて、神社に隣接したとある田舎道のコンビニの、その駐車場の端っこ。この日の最高気温35℃。

 


 縁石の上に枯れ葉が、と思ったら

 


 翅の縮れた大型の蛾でした。ヤママユ科のどれかですが、翅の模様が見えないので種類が特定できません。羽化の時に翅を広げることができないまま固まってしまったようです。羽化失敗と言いますが、繭まゆを出るタイミングで何らかの事故があったようです。もう飛べません。

 


 というか近づいても動きません。この炎天下の縁石、温度は軽く50℃に達したでしょう。すでにこと切れておりました。

 


                 え。

 


 卵を産んでいました。蛾のメスはフェロモンでオスを呼ぶことができるので、受精卵ではあるでしょう。でもたぶん、高温にやられていると思います。

 


 生まれ故郷はたぶんこの神社の森。手掛かりはないかなーと見やると

 


 ありました。美しい緑の絹糸でできた繭が、シラカシの枝に下がってます。これで種類も特定できました。ヤママユ科の、そのヤママユでした。ヤママユガ、天蚕てんさんとも呼ばれ、カイコガ同様に絹糸を採るために飼育されることもあります。

 


 緑色の繭の周囲を数枚の葉をつづって隠れ蓑にする、その隠れ蓑が壊れて繭も宙づりです。そういえば数日前に天候の荒れた日がありました。きっとそのタイミングで羽化が始まってしまって、繭は剥がされ自らは地上に落下し、翅は縮んだまま固まってしまったということなのでしょう。何と不運な。

 


 産卵数の多い昆虫の生涯は過酷です。すでに卵からタマゴコバチという寄生バチに狙われます。以後、鳥や他の昆虫による捕食、病原菌、寄生バチやヤドリバエも脅威であり続けます。結局、一匹のメスが生む二百個前後の卵から、生殖できる成虫まで生き残れるのは二匹ほど。ああ、虫と言えども人生ってのは厳しく切ない。

 

 …… 既定の運命としての「運」って本当にあるんだろうか。あるとすれば、数多く産卵された昆虫の卵のその後はまさに「運だめし」、運のいい者を選別するシステムなんでしょうか。残酷というかシビアというか。

 

 


 繭が付いていたのはシラカシの木。見れば周囲の枝が丸坊主になってます。幼虫が食いまくった跡です。このヤママユの幼虫ってのが虫嫌いの人が見たら絶叫モンの、それはそれは丸々としたラブリーな巨大イモムシ。ここでもりもり葉っぱを食べて、むくむく大きくなって、数々の試練をくぐり抜けて羽化にまで行き着いて、その最後の最後の一歩で運命は終幕を言い渡しました。はい打ち切りだよって。手塚治虫先生が「ダスト18」の連載打ち切りを宣告されたときの心中を想います。また古い例えだけど。

 


 生物の死は生存戦略の一部です、人間に例えてはいけない。昆虫一匹一匹の運命にもいちいち感情移入してたらキリがない。でもこの死にざまには心が動いてしまいました。

 


 一匹の蛾であり母親になるはずだったものが、狙いすましたような不運に遭ってここで生を終えました。最後の瞬間まで、未来を夢見ていたかも知れません。

 

 

 

 

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