ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

廃墟になっても美しい

 

 不動産屋のTVCM、そうあの、あそこらの邪魔な木を伐って商業施設作って儲けましょうぜひっひっひと明治神宮に持ちかけたあの大手デベロッパーのCMですけど、広瀬すずがその不動産屋の社名を言って友達とキャハハハと笑い合うのが余りに非現実すぎてシュールですらあります。あのですね、そんなもんで若い娘さんが笑ってくれるんならこちとら苦労はしないんでございますよ。広瀬すずも高校を出たあたりから人相が悪くなった風に見えて、このCMでもう興味が無くなりました。


 いえ広瀬すずが問題なのではなく、この手のデベロッパーが次々とブチあげる東京の「再開発」が不愉快なのです。天災やら火災やら戦災やらでスクラップ&ビルドを繰り返してきたこの町は、過去を切り捨てることに抵抗がないのでしょう。ヨーロッパの古都ではいかに昔の景観を保持するかで知恵を絞るのに、東京ではまるで古いものが悪であるかのようです。おかげで東京駅や渋谷駅はいつも工事中で迷惑したし、毛利家の庭園を潰して六本木ヒルズが建つことになんの意味があったのだろう。個人的には神田神保町救世軍本営がありきたりなビルに建て替えられたのが残念でした。

 


 さて水戸で再開発と言えば水戸駅前のデパート跡地。長らく更地のままで、溜まった水にカルガモが遊ぶのんきな風景だったのが

 


 重機とダンプが次々と出入りして工事が始まりました。北口ど真ん前の一等地、傾斜地なこともあって、さあどんな個性的なビルが建つのかなー。事業主体は民間ですが、何と十億円も税金から補助が出ているそうです。県都の正面玄関を飾る建物ですよ、当然意匠を凝らした水戸の顔になるはずの……

 


 カステラマンション。意匠という概念をきっぱりと切り捨てた、市内の他のマンションと比べても群を抜く直線デザイン。後方に昔からあるホテルや周囲の商業ビルや、あらゆる方向からの視界を遮る20階建て、まるで衝立ついたてのように。で、思いました。これは廃墟になっても美しいだろうか。


 まことに皮肉なことですが、デベロッパーが東京の再開発で建てたビルは、廃墟になっても美しい。我こそは東京の顔という自負があるのでしょう、意匠を凝らしたデザインは、それを作ったひとの夢を時を越えて伝え続けます。……「東京幻想」というペンネームで廃墟化した東京の風景を描き続けているイラストレーターさんがいて、なかなかの人気です。都庁、スカイツリー、国立競技場、秋葉原。人とモノが日本中から集まる首都の、いつも賑わう建物や街区が朽ち果て、水に浸かり、植物に覆われる。これが美しい。東京は廃墟になっても美しいのです。どこからか怒られそうな画業ですが、何とそんな作品を自社の広告に使うデベロッパーまで現れました。まこと、シャレや美を理解する知性と余裕のある人がおられるものです。 ぜひ検索してみてください


 ナチスドイツで軍需相まで務めたヒトラーお抱えの建築家 アルベルト・シュペーア。この人が提唱したのが「廃墟になっても美しい建築」。廃墟価値理論と言いますが、ギリシャやローマのようにナチスの建築は何千年後に廃墟になっても往時の価値を伝えるものであるべきなのだと。ベルリンが廃墟に、なんて短絡的なお馬鹿さんなら激怒しそうなものですが、芸術家気質のヒトラーに大感激されて首都改造計画まで任されちゃいました。実現する前にドイツ終わっちゃいましたけど。


 で、私の嫌いな東京の再開発ですけれども、そこでデベロッパーが作った建物は、悔しいけどみな「壊れ映え」する美しさというか豪華さがあります。そう、建物は凝って豪華であるほど廃墟になった時に映えるんです。こんな所はさすが日本の首都ですねえ。ちなみに神話の豪華な建築は、たいてい神が人間の傲慢を罰する伏線です。

 


 そのころ水戸では、ということでおなじみ旧県庁舎。前世紀前半に流行した意匠です。神奈川県などは現在でも使ってます。茨城県庁が移転・新築されたのは、時の知事さんがデベロッパーからお金をたんまりいただいちゃったから。この知事さん、裁判の決着を見る前に病気で亡くなりました。まあそんな経緯もあって、この旧庁舎のだだっ広い敷地は再開発の標的になることもなく県民の憩いの場となり、庁舎は時に映画のロケに使われます。

 


 1月にも、早朝から窓にライトを当てて撮影してました。どんな映画かは小道具の名札を見てわかってしまいましたが、ご迷惑になるので黙っておきます。

 

            


 往時のままのレトロな内装はとても魅力的。

 


 そばにある水道塔。たしか東京郊外にも似たものがありましたね。水戸のこれは、私の子供時代は間違いなく廃墟でした。その価値が再評価されて本当に良かった。

 


 市が必死で整備した駅前の景観をぶち壊す赤ビル。どうなるんだろう。

 


 これも駅前のビル。私が高校生の頃は商業施設で、右の張り出しの部分は各階ごとに飲食店でした。ああ、あの賑わいはいずこへ。

 

  
 じつはひそかに、駅前で一番壊れ映えのする建て物だと狙いを付けてます、うふふ。

 

 
 水戸で千年後にも残っているものがあるとすればこれかなあ。

 

  
 チタニウム製の外壁は破壊するのも大変そうです。よくぞ造りました。

 


 駅前カッパーくん3連発。大好きなんだけどさすがに残らんだろう。銅像できないかな。銅だけに。

 


 こんな記事に取り上げてごめんなさい、水戸の私立高校の校舎です。壮麗な建て物ということで。ボロい公立校しか知らない私には夢のお城に見えます。

 


 さて大通りとバイパスが交わるこの一等地に、かつて三階建ての真っ黒の、いかにも威圧的なビルがあって駐車場には何台もの黒塗りアルファードが停まっておりました。そうです反社会さんの事務所です。でもお気の毒なことに、襲撃にあって幹部さんが命を落とし、警察から睨まれ、市民から退去運動を起こされ、建物ごと姿を消しました。土地は市の管理下です。不運というのは職業を選ばないんだなあ。

 


 おさんぽ道で見たもの。これは最近もご紹介した享楽街の料亭っぽいの。この「時の経過」的なのが良い風情です。

 


 同じ享楽街の裏手。昭和の文化、なんて言っても若い人にはわからないだろうなあ。

 


 これもピンク文化の名残り。美人は…… の宣伝文句が泣かせてくれます。

 

     
 閉店したソープ。これこそ廃墟。右下の入り口付近がドクロに見えたりして。それは置いても、青い部分のてっぺんには何の部屋があったんだろうとか、小さな張り出し窓から覗いたらどんな光景が繰り広げられていたんだろうとか、鑑賞のネタは尽きません。ちなみに私、この手のお店をただの一度も利用したことがないので想像するのみです。本当だよ。

 


 これはここでのご紹介は失礼になります。現役バリバリのお店です。ご覧くださいこの優美かつ豪華なお城を。水戸の大工町で一番有名なお店かも知れません。でも私は知ってます、ここが一時廃墟だったことを。バブル後に経営が悪化して閉店してしまったんです。そこを廃墟マニアに目を付けられて不法侵入を繰り返されました。当時の「廃墟探訪」なんて写真本に掲載されてました。そんなケチの付いた建て物を整備し、復活させた人がいるんです。すごい。偉い。きっと「プロジェクトX」なみのドラマがあったに違いありません。取材してお話を聞きたいところですが、まずこちらの意図が正しく伝わるとは思えないので自粛します。

 

           


 水戸の街を歩くとまあ様々に。

 


 ごく普通の家族が暮らす家でした。でもいつしか建設会社の保有になり、作業員を住まわせるために増築を繰り返して迷宮化し、やがてバブルとともに人が去り…… なんて来歴が読めちゃいました。

 


 廃墟ではありません。笠間の筑波海軍航空隊。軍隊の建物ならではのシンプルさがかえって新鮮です。並んで建てられた新棟が寸分違わぬデザインなのも好感です。わかってるひとがおられるんですね。

 


 号令台も

 


 質実剛健な内装も昔のまま。数々の映画やドラマの撮影に使われ続けてます。

 


 じっさいに今の日本で、千年後に残るものなんてあるんだろうか。そもそも人の世が続いているんだろうか。まあ、どうでも良いことではありますけど。

 


 更新が滞りがちでごめんなさい。4月は深夜アニメの新番組チェックで忙しくて。次回は花回の予定です。ご期待ください。

 

 

 

 

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