ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

リチア電気石とドクゼリ 3人目の毒使いはお前か

 

 気象予報士のアダムさんが今日は水戸でも30度超えだと申されたので、阿武隈高地の山中に潜ることにしました。と言っても標高せいぜい五百メートル、森に潜れば涼しかろ、くらいのものです。他県によくあるような、市域で千メートル越えができるような土地がうらやましい。

 


 まず向かったのが笠石という集落。初めて足を踏み入れます。

 


 勝手にお撮りしてごめんなさい。こういう山中の古き山里は、趣き深い建築の宝庫です。

 


 笠石という集落名は、そういう名所というか名跡があるから。

 


 これ。なるほど。

 

     
 この周辺の地質は花崗岩質で、さまざまな形に侵食され風化され銘の付けられた大岩が数知れず。感心するのは、いずれも深山にありながらちゃんと人々に認識されていたことです。茨城県にヒトに踏まれてない土地はありません。ヒトの往来を拒絶するような自然はありません。遥か古代から人と自然が一体になって時を紡いできました。

 


 今日の行動にこの地を選んだ理由があと一つ。近くのピークの一つに妙見山というのがあって

 


 茨城県自然博物館の巨大展示物、妙見山のリチウムペグマタイトでございます。岩です。数十トンはあろうかと思います。よく運び込んだなあ。ここに含まれるリチア電気石茨城県の「県の石」に指定されてます。よう知らんけど、リチウムを含んだ石の巨晶というのは全国的に珍しいんだって。

 

     
 露頭はいくつかあるようです。とりあえずこの道を登っていくことにします。

 


 途中2か所にこんな注意看板があるのですが、鉱物マニアってのも蝶マニアに負けず劣らずえげつないからなあ。

 


 杉木立の間に見え隠れする、あれが露頭のようです。

 


 ほらやっぱり。思いっきりハンマーでブチ割られてます。

 


 ひでえもんだ。

 


 ま、こちらも他人の所業をどうこう言える人生は送ってこなかったんで仕方ないか。

 


 皆さんのお目当てがこれです、リチア電気石。今でも大きな柱状結晶が採れるらしい。

 


 青、緑、ピンク。多様な個性が人を引き付ける鉱物です。この石をぶっかいた人、いい結晶は採れたかな。私は写真だけで十分です。

 


 白雲母もきれい。

 


 とりあえず今日の「見たいもの」はクリアしました。このあとは地図を見ながらのんびりさまよってみます。むかし、何を考えたか県内阿武隈高地の地形図の湿原がありそうな場所にをつけた「湿原マップ」なるものを作っていて、今日の道しるべに使います。移動中に見たものを並べていきますね。

 


 地衣類のアカミゴケ。前にもお見せしましたが、この異世界生物みたいな姿がお気に入り。

 


 路傍にイヌホオズキ。と、その葉に

 


 ナス科の天敵オオニジュウヤホシテントウ。畑の大害虫ですがこんな雑草にも付くんだ。

 


 ウグイスカグラの実。食べられるんだけど食いでがなくてなあ。鑑賞用と考えましょう。

 


 ウリノキのちょうど花期でした。とにかく日陰が大好きな木です。暗い場所のこんな地味花に誰が来るんだと思っていましたが、見てる前で次々とマルハナバチが訪れてました。どんな地味子ちゃんにもファンはいるものです。

 


 オナガアゲハが一休み。

 


 シソ科のカメバヒキオコシ。独特の葉形で、科を超えてそっくりの葉を持つ別種がいるので、きっと生態的に何かしらの意味がある形です。よお知らんけどね。

 

   
 ある集落のはずれ、沢沿いにあるヤマザクラに信じられないくらい大きなカヤランが何株か着生していて、来るたびに挨拶しておりました。それが枯れていた。寿命か、周囲が切り払われて乾燥したか。残念です。

 


 でも子株が育ってました。頑張ってくれ。

 


 沢の水音いと涼し。

 


 名もなきキノコ。ぽつんと単生する特徴が引っ掛かって、種名まで出せませんでした。群れない大人のキノコとしておきましょう。コケの胞子のうに囲まれて首を傾げている姿が、なんだか小さき者のお話を聞いてあげているようです。

 


 あのねあのね、なんてね。

 


 ある集落のはずれに結界が張ってありました。ここが集落の境界、かつこの先に墓地があることを示します。

 


 コアジサイ。この青の清冽さは森に吹く涼風です。

 

    
 サルオガセ。地衣類です。山登りをなさる方、高山の霧の中で針葉樹から垂れ下がる姿をご存じでしょう。高山のない茨城県ではとても珍しい。ましてやそれがクヌギの木に着生しているのだからびっくりです。

 

     
 なぜ、どうしてここにいるのか。そう問われても本人に答はないでしょう。同じ問いを私がされても窮します。

 


 どこにでもいるダイミョウセセリ。マニアからはド凡種と蔑まれますけど、羽化したての翅の鮮やかなコントラストは被写体の資格十分です。

 


 路上をちろちろと飛ぶ小さなセセリチョウに、これは珍種かと色めいたのですが残念、チャバネセセリという普通種の、翅が少し異常な個体でした。

 


 セセリチョウもう一つ。山地性のヒメキマダラセセリです。茨城では県北山中に普通。

 


 ハナニガナが花盛り。

 


 ホタルブクロ。よく似たヤマホタルブクロというのもあります。



 出ましたハエトリグモ、これはマダラスジハエトリという種。

 


 みるみるカメラに迫ってきて、危うく飛び移られるところでした。ハエトリグモのこの人懐こさって何なんだろう。おかげで世界中で愛されてます。特に昆虫写真家に。

 


 こののけ反るような仕草が何とも可愛い。

 


 ド凡種コミスジかと思ったらミスジチョウでした。山地性の希種ですが水戸市内にも生息しています、たぶん今でも。

 


 三出する小葉が特徴のカエデ、ミツデカエデ。若葉を朱に染めて。

 


 ミツバウツギの実。この木だけを食草にするカメムシがいて、木が枯れると滅びる運命とて県の絶滅危惧ⅠA類に指定されてます。儚いカメムシもいたもんだ。この木には付いてませんでした。

 


 こんな林道を行くうちに

 


 路傍がすべてモミジイチゴという場所に出ました。もちろん車を停めてイチゴざんまい。

 


 初夏の喜び、美味なるキイチゴです。

 


 クモが貼り付いているのですが、ひょっとして吸っている? クモが?

 


 森の中でじっと待つ忠犬。 エスクード、何物にも代えがたいロシナンテであります。

 


 ヤマユリが草刈りから許されてぽつんと立ち、つぼみを膨らませていました。みんなこの大輪で芳香を放つ夏の使者が大好き。もうすぐこの花の映える、あの炎熱の季節がやって来ます。

 


 さて、上の方で書いた湿原マップを頼りに、ある湿った草地に降り立ちました。沢が流れ、周囲の木が伐採されて日当たりが良くなってます。

 


 水辺にクレソンオランダガラシ。こんな山中に外来種が、とは思いますが尾瀬ヶ原にだって侵入しているくらいで、驚くには値しません。ヤマトスジグロシロチョウのいい食草になっているようです。

 

    
 その隣にこれは、うんセリ科ですね。あれ葉が独特。なんだこれ。ひょっとこいやひょっとしてこれは……

 


           ドクゼリだー。

 

 日本三大毒使いのひとり。トリカブトドクウツギはこれまでもご紹介して参りましたがドクゼリは初めてです。だって希少だから。そもそも初めて見ましたワタシ。


 全国18都府県でレッドデータ、特に東京都と鹿児島県では野生絶滅状態だとか。とにかく猛毒で、猛毒すぎて薬にも使えないくらい。春の芽生えが食用のセリと似ているので誤食事故があったりして話題には事欠かないのですが、実植物を見たことある人は少ないそうです。毒成分のシクトキシンは神経毒で心臓と呼吸を止めに来ます。おお怖。なぜか人間に対する毒性が強いのは、きっと前世の恨みでもあるんでしょう。


 タケノコ状の根(根茎)が特徴で、ほぼすべての図鑑で掘り上げた根茎の断面写真が示されています。今回もそうすればどなたにも納得していただけるでしょうけど、希少植物だし。独特の羽状複葉とこの鑑賞用と見まごう美しい散形花序でお許しください。


 ちなみにドクゼリの根茎、かつては山野草屋で延命竹という名で売っていました。水盤に乗せて鑑賞するんだって、根茎を。…… あのーそれが絶滅危惧の一因なのでは。

 


 で、お前は何をやってるんだアカスジカメムシ。セリ科が好きなのは知ってるがコレは有毒植物だぞ。…… 平気そうな顔してますから平気なんでしょう。まあ虫も好き好きです。

 


 思わぬ発見があるのが博物屋の山歩きの楽しさです。次はどこを歩こうかな。

 

 

 

 

 

もし興味を持っていただけましたなら過去記事をどうぞご覧ください。

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